
人生100年時代。年齢を重ねることは、経験と知恵が深まる素晴らしい旅です。でも、一方で記憶力や集中力の低下に不安を感じることがあるかもしれません。
そんな中、脳科学者・西剛志氏が提案するのは、「脳の若さ」を保つためのシンプルな習慣。実際に、80歳を過ぎても好奇心を持ち続け、学びを楽しむ人たちが実践していることとは?
この記事では、書籍『増量版 80歳でも脳が老化しない人がやっていること』から、脳を元気に保つヒントを抜粋・再編集してわかりやすくご紹介します。
年齢に関係なく、今から始められる「脳のメンテナンス」を一緒に学びましょう。
中高年にしか存在しない「休め遺伝子」が脳の損傷を守る
「長寿遺伝子」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 寿命や老化などをコントロールする遺伝子のことです。
最近、この長寿遺伝子ですごい発見がなされました。「レスト遺伝子」というものが発見されたのです。私はこれを「休め(レスト)遺伝子」と呼んでいます(レスト遺伝子の「レスト」の意味は本来全く違う意味になります)。これの何がすごいかというと、休め遺伝子が脳をダメージから守ってくれる存在だったのです。
2019年、ハーバード大学の研究チームが、脳バンクに提供された高齢者の脳を調べたところ、100歳以上の人の脳には70~80歳で亡くなった人よりも、「レスト」という遺伝子がたくさん発現していました。
休め遺伝子は脳活動の過剰な活性化を抑える役割があって、体全体の活動をゆるやかにして負担をかけないことで、脳の寿命を伸ばす効果が世界的に注目されています。
ここまで脳を活性化するために新しいことに挑戦したり、新しい人間関係をつくることをすすめてきましたが、「やりすぎ」は禁物です。脳の活性化は大切なのですが、「過剰な活性化」は抑えなければなりません。中高年になっても若いときと同じようにアクティブに活動をしていると細胞が傷つきやすくなります。若いときと同じように行動することは細胞の観点から見るとNGです。
でも、一度習慣化してしまうと人はなかなか変えられません。ついついアクティブになりすぎたり、無理をしてしまいます。
そこにブレーキをかけるのが休め遺伝子です。
中高年になると、若いときのような情熱、やる気が薄れてくることがありますが、これは自分に無理をさせないための防御機能でもあります。ですから「最近、昔ほど何かに熱くなれない」「モチベーションが落ちた」というのは、何も悪いことだけではないのです。むしろ、自分の脳と体を守るために必要なことでもあるのです。その代わりに冷静さが生まれてきます。
昔バリバリ仕事で活躍した人が、いざ情熱ややる気が薄れてくると「自分はどうしてしまったんだろうか?」「昔の自分を取り戻したい」と悩む人もいますが、これは加齢とともに起きる現象で、ある程度はしょうがないものです。「情熱ややる気が薄れるのは自分のせいではなく遺伝子のせい」そのくらいに思っておくほうがいいかもしれません。実際にこの休め遺伝子は、脳の老化を抑えてアルツハイマー型認知症を予防してくれます。
考えてみてください。60歳になっても、70歳になっても、昔のような活動をしていたら、体はボロボロになります。生命を守るためにも必要なことなのです。
情熱ややる気が落ちてくることは、休め遺伝子が正常に働いている裏返しでもあります。ですから、これまでとは視点を逆転させて、「冷静さ」を強みにするくらいの感覚を持つのがいいと思います。
レスト遺伝子はじめ長寿遺伝子の役目のひとつは、ざっくり言うと「自分を大切にすること」です。
くり返しますが、「新しいことに挑戦すること」が大切だと書いてきたので、「それだと矛盾してないか?」と思うかもしれません。そうです。これが脳の面白いところで、どちらかに偏ってしまうのがNGなのです。大切なのはバランスです。挑戦したり、生きがいを持ったりすることは大切ですが、やりすぎないこと。自分を甘やかすことも大切ですが、甘やかしすぎは逆効果です。先にも書いた「中庸」が大切になります。
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未来の自分のために、今日からできることを!
年齢に関係なく、脳も心も、日々の習慣で変えていけます。小さな一歩が、未来の自分を大きく変えるかもしれません。ぜひ、今日からできることをひとつ、始めてみませんか?

『増量版 80歳でも脳が老化しない人がやっていること』
著者西 剛志
発売日2022年8月13日
価格1400円(税別)
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いくつになっても脳が若いままの人と、老化が進んでいく人の差はどこにあるのか?脳科学者が伝えたい「老人脳」にならないための方法を伝授!スーパーエイジャー(高齢になっても超人的な認知・身体能力を持つ人)たちの脳の使い方をひも解き、いつまでも若々しく幸せなシニアライフを送るコツを届ける一冊です。
(著者情報)
西剛志(にし・たけゆき)
脳科学者(工学博士)、分子生物学者。T&Rセルフイメージデザイン代表取締役。1975年、宮崎県高千穂生まれ。東京工業大学大学院非常講師や特許庁を経て、2008年に企業や個人のパフォーマンスをアップさせる会社を設立。 子育てからビジネス、スポーツまで世界的に成功している人たちの脳科学的なノウハウや、大人から子どもまで才能を引き出す方法を提供するサービスを展開し、企業から教育者、高齢者、主婦など含めて1万人以上をサポート。テレビなどの各種メディア出演も多数。著作は『なぜ、あなたの思っていることはなかなか相手に伝わらないのか?』(アスコム)をはじめとして累計発行部数10万部を突破。
構成/DIME編集部