
何月何日に特定の場所が大津波に襲われるといった“予言”は、広い意味でのフェイクニュースだが、その強力な拡散力について今回あらためて思い知らされることになったといえるだろう。
受動的な情報接触とフェイクニュース拡散の関係
今回の“予言”について、多くはニュースサイトやSNSで話題になっているのを最初は偶然に目にして知ったと思うが、今の我々はこうして偶然かつ受動的に情報を得る傾向がますます強まってきているといえそうだ。
漠然とニュースサイトやSNSを眺めているだけでも確かにおおよその情報を入手できそうではあるのだが、そうした受け身の態度が習い性になってしまうことは“ニュースが私を見つけてくれる(news-finds-me、NFM)”という態度につながり、フェイクニュースを共有しやすくなることが新たな研究で報告されている。
米アラバマ大学とオハイオ州立大学の合同研究チームが今年5月に「Computers in Human Behavior」で発表した研究では、特にSNSやスマートフォンでの受動的なニュース接触とフェイクニュース拡散の関係を実験を通じて検証している。
研究チームは“ニュースが私を見つけてくれる”という認識に関するこれまでの研究を発展させ、この認識が不正確または誇張された情報、つまりフェイクニュースの共有につながる可能性があることを報告している。
“ニュースが私を見つけてくれる”に潜むリスク
研究者チームは、強い「オルタナ右翼」的信念を持つと自認するアメリカの成人337名を対象に調査を実施した。参加者は全員白人で、SNSを定期的に利用し、政治的には共和党寄りであった。女性が55%を占め、平均年齢は43.5歳である。
オルタナ右翼(Alternative Right)とは日本の“ネット右翼”にも似た、インターネット時代の新たな過激化した右翼思想グループであるともいわれている。
調査対象者は2022年8月から2023年3月までの間に3回の調査を受け、SNSの習慣、スマートフォンの使用頻度、ニュース共有行動を自己申告し、重要なニュースは仲間やプラットフォームを通じて自然に届くだろうという信念、つまり“ニュースが私を見つけてくれる”という信念の強さを測定する課題を行った。
研究では、2回目の調査の時点で“ニュースが私を見つけてくれる”スコアが高かった者は、それ以前の行動を考慮しても、3回目の時点でフェイクニュースを共有する可能性が高いことが判明した。これはSNSや友人を通して受動的にニュースに触れることで、フェイクニュースが拡散されやすくなる傾向を裏付ける調査結果である。
研究チームによれば友人同士の情報共有などで警戒心が薄れた時に、フェイクニュースがその間隙を突いて拡散するケースがあるということだ。
積極的な情報収集がフェイクニュースの共有を減らす
ソーシャルな交流を基盤とするFacebookやInstagramの利用は“ニュースが私を見つけてくれる”という強い信念と関連していた。
一方、情報収集に重点を置いたプラットフォームであるRedditの利用は“ニュースが私を見つけてくれる”という信念の低下と、フェイクニュースの共有の減少と関連していた。
Telegramのプライベートメッセージとグループチャット機能は、“ニュースは私を見つけてくれる”という考え方の中心にある、仲間から発信されたニュースは信頼できるという感覚を強化する可能性があると研究は示唆している。
社会的なつながりを保つために頻繁にスマートフォンを使用する人は、“ニュースが私を見つけてくれる”という認識を抱き、後にフェイクニュースを共有する傾向が強かった。
興味深いことに、政治情報を得るために特にスマートフォンを活用している者は、“ニュースが私を見つけてくれる”という信念に頼る傾向が低く、全体的にフェイクニュースのシェアも少なかった。これは積極的な情報収集が、フェイクニュースの共有を減らす可能性があることを示唆している。
“情報の洪水”の中で足を掬われないためには
研究チームは今回の研究結果が、フェイクニュースの共有を促す心理的条件と技術的条件に対する理解を深めるのに役立つと指摘している。その一方で、調査はすべて参加者の自己申告に基づくものであり、この研究結果が一般大衆にどの程度当てはまるかについての制約があることを研究チームは認めている。
フェイクニュースを意図的に拡散することは場合によっては犯罪にもなり得る行為だが、“確信犯”ではなくともニュースへの受動的な態度によってフェイクニュースの拡散に手を貸してしまうとすれば残念過ぎる顛末だ。
今日、SNSや情報共有の多くは深く考えたり主体的に行動したりすることなく行われており、情報を得るためにオンライン上の検索にますます依存するようになってきているともいえる。
しかし情報は自分から積極的に取りにいくものであり、気になったニュースがあった場合はソースを確認し、政治性とバイアスを検証し、そしてどんなに印象的な内容であっても正誤を即断するのではなく、いったん保留にしておくことも必要になってくるのだろう。もちろん“情報リテラシー”を常日頃から磨くことも肝要である。氾濫する一方の“情報の洪水”の中で、足を掬われることなく物事をしっかりと見極めていきたいものである。
※研究論文
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0747563225001050
※参考記事
https://www.psypost.org/believing-news-will-find-me-is-linked-to-sharing-fake-news-study-finds/
文/仲田しんじ
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