ホスト業界のトラブル多発を受け、風営法が2025年6月に改正。フジテレビ系ドラマ『愛の、がっこう。』における対応でも注目を集めた。本記事では改正の背景や具体的な内容、業界や利用者への影響について解説する。
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2025年7月、フジテレビ系ドラマ『愛の、がっこう。』が話題となった。高校教師とホストの恋愛を描いた作品だが、「このドラマのホストクラブにおける一部表現には、違反となりうる営業行為が含まれています」という注意喚起も注目を集めた。 その背景にあるのが、6月に施行されたばかりの改正風営法である。
風営法の改正は、接待を伴う飲食業界に対する規制のあり方を根本から変更するものとなった。この改正の背景には、ホストクラブを中心に行われていた、過剰な営業や不透明な金銭のやり取りがある。
本記事では、法改正がなぜ行われたのか、具体的な内容とその影響について詳しく解説する。
風営法改正の概要|なぜいま改正?いつから施行?
2025年6月に施行された風営法の改正はホスト業界に大きな影響を与え、新宿 歌舞伎町では、法に抵触する内容を記載していた看板が姿を消す事態となった。ここでは、改正の概要とその背景について解説する。
■風営法とホストクラブの関係性
風営法(正式名称:風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)は、接客を伴う飲食店や深夜営業店を対象に、営業形態や広告表示などに一定の規制を設ける法律。ホストクラブは、接待行為と飲食を組み合わせた営業形態を持つため、風営法の管理対象に含まれている。
法の目的は「善良な風俗の保持」と「清浄な風俗環境の確保」にあり、地域の秩序や治安を守るため、許可制度や営業時間制限、広告規制といった多様なルールが課される。特に都市部では無秩序な看板の掲示や過剰な集客活動が問題視されてきたが、今回の改正により、業界慣行が見直され、健全な運営と社会的責任がより一層求められることとなった。
■風営法改正の背景にある社会問題
風営法改正の背景には、ホストクラブ業界で相次ぐ深刻なトラブルの多発がある。売掛金による高額請求、未成年者への過剰な接客、支払い不能に陥った女性への売春強要など、社会的に許容されない事案が表面化し、警察や国会で取り上げられる事態となった。
特に色恋営業を悪用した心理的圧力や、多額の借金を背負わされる構造は、人権侵害や自殺問題にもつながり、世論の強い非難を浴びている。さらに、風俗店などとの違法な連携が明るみに出た事例もあり、業界全体の不透明な商慣習が問われた。
これらの問題に対応するため、恋愛感情を利用した過剰な営業や誇大広告を規制し、無許可営業や不適格者を排除する仕組みが導入された。
■改正風営法の施行は2025年6月から段階的にスタート
改正風営法は、2025年5月20日に国会で成立し、同年6月28日から一部規定が施行。第一段階では、営業許可制度の厳格化や広告規制、営業実態の監視強化などが始まった。
さらに、2025年11月には営業許可を受けられない条件を定めた「欠格事由」が拡大され、申請者本人だけでなく、親会社・子会社・関連会社も審査対象に含まれることとなる。過去に風営法違反で許可取り消しとなった企業グループは、新たな許可取得が難しくなり、名義替えや迂回出店といった手法も封じられる。この改正により、法の網をかいくぐる不正経営や暴力団関係者の実質的支配を排除する狙いが明確化された。
参照:警察庁 法律
風営法改正で何が変わった?主な改正ポイント
2025年の風営法改正では、ホストクラブをはじめとした接待飲食営業に対して、営業実態に踏み込んだ新たな規制が導入された。ここでは、特に注目すべき改正のポイントと罰則について解説する。
■色恋営業禁止の明確化
接待の場で恋愛感情を匂わせながら売上を上げる、いわゆる「色恋営業」は、長らくグレーゾーンとされてきた。今回の改正では、恋愛感情を利用して客に高額注文を促す手法が明確に禁止され、違法行為と位置づけられる。
例えば「このシャンパンを入れなければ会わない」などの発言や、注文前に勝手にボトルを開けて請求するような行為も規制対象だ。料金に関する虚偽説明や、不安を煽って支払いを強要する行為も含まれる。これにより、感情を武器とした過剰営業は法的に抑制される流れとなり、業界全体に健全化への圧力がかかっている。
参照:風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律 e-Gov 法令検索
■売掛金を口実にした強要行為の規制強化
売掛金を理由に、客へ過剰な支払いや性的サービスを求める行為が深刻化していたことを受け、今回の改正では、注文や支払いを目的とする威迫・誘惑行為が新たに禁止対象とされた。具体的には、「借金を返すには風俗で働け」「AVに出れば返せる」といった圧力発言や強要が該当する。
単なる言葉の強さではなく、支払い困難な状況にある客の心理状態を利用した圧力行為が、売春防止法・職業安定法と並んで明確に規制される。これは、被害者の人権と安全を守る上で重要な改正点だ。
参照:風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律 e-Gov 法令検索
■性風俗店によるスカウト報酬の禁止
風営法改正により、性風俗業界において慣例化していた「スカウトバック(求職者の紹介者に報酬を渡す行為)」が違法となった。特に風俗店においては、労働環境の悪化や違法な人材斡旋の温床とされ、今回の改正で明確に禁止された。
なお、スカウト行為そのものが即違法になるわけではないが、「紹介と引き換えの金銭授受」が法律の枠外に出たことで、業界の人材確保手法にも抜本的な見直しが求められている。
参照:風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律 e-Gov 法令検索
■無許可営業の罰則の厳格化罰則
無許可で風俗営業を行った場合の罰則が、これまで以上に重くなった。改正前は、2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金だったが、改正後は5年以下の拘禁刑または1,000万円以下の罰金に引き上げられている。
また、法人が違反した場合の両罰規定も強化され、罰金は最大3億円とされた。名義借りや隠れ営業といった違法な手法に対して、抑止力が大幅に高まったといえる。
■広告・SNSでの集客にも影響
今回の改正では、広告規制が「客の目に触れるあらゆる媒体」へと拡大された。屋外看板やチラシはもちろん、SNSの投稿やスタッフの名刺、さらにはアドトラックまでが対象となる。
特に問題視されたのは、売上自慢や役職の誇示、競争を煽る表現だ。「◯億円プレイヤー」「No.1ホスト」「覇者」などの表現は、すべて禁止対象となった。また、「◯◯を推せ」など、いわゆる推し活を意識したキャッチコピーも違反に該当する可能性がある。
警察庁は業界用語や隠語の使用にも厳しく目を光らせており、SNSやWebの表現においても徹底した見直しが求められている。
参照:接待飲食営業における広告及び宣伝の取扱いについて(通達) 警察庁
■違反すれば営業停止も、厳しくなる罰則とリスク
色恋営業に関する遵守事項に違反した場合、ホストクラブを含む接待飲食店は、公安委員会から営業停止などの行政処分を受ける。さらに、売掛金を口実にした強要行為、性風俗店によるスカウト報酬の受け取りは禁止行為とされ、違反すると6か月以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金、またはその両方が科される場合もある。
ホスト・経営者・利用者、それぞれへの影響

2025年の風営法改正は、業界構造にとどまらず、ホストクラブを取り巻くすべての立場に影響を及ぼしている。運営者・働く側・利用者のそれぞれの観点で見ていこう。
■経営者に求められるのは「透明な運営」とリスク管理
風営法の改正により、ホストクラブ経営者はこれまで以上に「健全性」と「可視性」が問われるようになった。ランキング競争や売上至上主義に依存せず、空間づくりや接客の質といった本来の価値で差別化を図る動きが進んでいる。
また、広告やSNS投稿の内容も細かくチェックされる時代となり、スタッフ教育や投稿ガイドラインの整備は不可欠だ。コンプライアンスの徹底だけでなく、運営記録や帳簿の管理体制も問われ、立入検査への備えも必要だろう。経営者は今後、リスクの芽を早期に摘む体制構築と、スタッフ・顧客双方の安全確保を両立させる舵取りが求められる。
■「売り方」「働き方」の常識が変わるホストの現場
改正風営法の施行によって、ホストとしての働き方も大きく変わり始めている。従来は、色恋営業や過剰な売掛によって売上を伸ばす手法が黙認されてきたが、今後は法的リスクを伴う行為として明確に線引きされる。
売上目標だけでなく、接客の倫理や表現方法にも厳しい目が向けられ、SNSでの軽率な投稿が営業停止に直結する可能性もあるだろう。ホスト個人の魅せ方にも、新しいプロ意識が求められる。安全な接客、ルールを守ったプロモーション、そして無理のない売上スタイルが、今後のスタンダードになっていくことが予想されている。
■利用者にも求められる新ルールとモラル
風営法改正は、ホストクラブの利用者側にも新たな意識を促している。特に本人確認の厳格化や未成年者の入店規制など、入店前のハードルは確実に上がった。違法な売掛や詐欺まがいの勧誘に巻き込まれないためにも、営業許可証の有無やSNS上の誇張表現に注意する必要がある。これからは「客だから大丈夫」ではなく、利用者にもルールとモラルが強く求められる時代だ。
※情報は万全を期していますが、正確性を保証するものではありません。
文/編集部