
日清食品ホールディングスと慶應義塾大学 医学部 スポーツ医学総合センター (以下 慶應大学) は、日清食品グループ社員のWell-being向上を目的とした共同研究を行ない、運動によって心理的不安(※1)が軽減することを実証した。
※1 自己存在を脅かす可能性のある破局や危険を漠然と予想することに伴う不快な気分のことを指す。新版STAI (State−Trait Anxiety Inventory) 状態・特性不安検査で測定。
以下、同社リリースをベースに概要をお伝えする。
実証結果を社員の運動促進施策に活用、Well-being向上を目指す
日清食品グループは、社員のWell-being向上を目的として、心身の健康保持・増進のための施策提供や産業保健体制の強化など、さまざまな取り組みを推進している。
近年、注目を集める「プレゼンティーイズム」(心身に何らかの症状を抱えた状態で勤務し、本来のパフォーマンスが発揮できない状態を意味する) は、健康経営において重視すべき指標であり、同社でも積極的に予防や改善に取り組んでいるという。
その一環として、2022年度から慶應大学と「プレゼンティーイズム」の可視化に関する共同研究を進めており、2023年度には自律神経活動(※2)と生産性に関連があることを実証した。
※2 血圧や呼吸など、生命活動を維持するための体内調整を行う神経活動。
今回、運動による「プレゼンティーイズム」への影響を検証するため、日清食品に在籍する社員約250名にApple Watch(※3)を貸与して、2024年8月から休日を含む4か月間、心電図データと運動量のデータの収集を毎日行なった。
※3 今回の研究では、心電図機能を搭載したApple Watch Series 7、Series 8を使用
また、普段どおりに生活する期間と運動量を増やす期間を設定。運動量を増やした期間の前後に「心理的不安の度合い」「うつ傾向(※4)」「プレゼンティーイズム値(※5)」についてアンケート調査を通じて各項目の値を測定した。
※4 気持ちの落ち込みが強く、何もやる気がなくなったり、体がだるくなったりする状態の傾向を指す。患者健康質問票PHQ-9 (Patient Health Questionnaire-9) の日本語版で測定。
※5 健康問題による仕事のパフォーマンスの低下を表す指標。値が低いほど業務遂行能力が低下している状態を指す。タフツ大学医学部が作成した調査票WLQ (Work Limitations Questionnaire) の日本語版で測定。
それらのデータを慶應大学が統計的に解析した結果、運動によって心理的不安が軽減することが実証されたという。

慶應大学との共同研究について
■目的
運動が「自律神経活動」「心理的不安の度合い」「うつ傾向」「プレゼンティーイズム値」に与える影響を検証し、実証結果を社員のWell-being向上を目的とした運動促進プログラムに活用すること。
■参加対象
日清食品に在籍する国内社員 (日清食品ホールディングス、日清食品チルド、日清食品冷凍などへ出向している社員を含む) 約250名 (20~60代)
■分析方法
2024年8月1日から休日を含む4カ月間、Apple Watchで測定した心電図データと運動量のデータを毎日収集。運動による影響を検証するため、8月1日から9月6日までを普段どおりに生活する期間、10月1日から11月30日までを運動量を増やす期間として、普段どおりに生活した期間のデータをもとに1週間あたりの運動量の目標を参加者ごとに設定して、運動を促進した。また、運動量を増やした期間の前後に「心理的不安の度合い」「うつ傾向」「プレゼンティーイズム値」についてアンケート調査を通じて各項目の値を測定。それらのデータを慶應大学が統計的に解析した。
■結果
1週間あたりの運動量の目標を達成した週の数が多いほど、心理的不安が軽減することが実証された (図1)。

心理的不安は、一時的な不安の度合いを表す “状態不安” と、ストレスがかかった際に不安になりやすい傾向を表す “特性不安” の2つの要素があり、いずれの要素においても軽減が認められた。
また、45歳以上は心理的不安が軽減する傾向が強いこともわかった。ほかにも、1週間あたりの運動量の目標を達成した週の数が多いほど、「自律神経活動」の安定、「うつ傾向」の改善、「プレゼンティーイズム値」の上昇といった傾向が見られた。
■慶應義塾大学 医学部 スポーツ医学総合センター 勝俣 良紀専任講師のコメント
今回の研究では、IoT技術 (Internet of Things) の中でも多くの方が簡単に取り入れることができるウェアラブルデバイスを活用して運動量を増やすことで、運動が心理的不安やうつ傾向に与える良好な効果について定量的な知見が得られました。
心拍変動データの取得や運動量の目標設定、日々の運動量の確認が1つのデバイスでできる点は、今後のIoT技術を用いたWell-being向上の取り組みの実用化に向けた好例です。
また、毎日の心拍変動を記録・解析することで運動による自律神経活動の安定化が実証され、過去の研究結果と同様にプレゼンティーイズム予測の信頼性が確認できました。
関連情報
https://www.nissin.com/jp/
構成/清水眞希