
1927年、東京の高級住宅街としても知られる成城学園前で、青果を中心に取り扱う食料品店『石井食料品店』として創業した『成城石井』。プチ贅沢をしたい時や手土産を探す時などに覗けば、“本当においしいもの”が見つかる店の一つである。
調味料、お菓子、パン、飲み物、惣菜、デザートなど。現在の同店にはさまざまなものが並ぶが、中でもワインにはかなりの自信があるもよう。夏には「サマーヌーヴォ」なる新酒も発売し、店舗によっては売り切れているものもあるという。
高級なイメージもある『成城石井』に並ぶワイン――。きっと、安くないのでしょう?
“成城石井ボルドーレッド”のロゴに込められた意味
頼りない財布を握りしめた筆者を笑顔で迎えてくれたのは、商品部部長でバイヤーの星野鉄兵さんと、酒販課のバイヤーでありソムリエの若林 遼さんだ。ワインに精通している2人はバイヤーとして、フランスをはじめとする国内外を飛び回っている。
星野さんは開口いちばん、「ワインは、『成城石井』が自社輸入を始めた1980年代から力を入れている商品の一つです。それもあってロゴには“成城石井ボルドーレッド”と名付けたワインからイメージしたコーポレートカラーを使用しているんですよ」と教えてくれた。
「1号店のある成城学園という土地柄、常連には、学校の先生や経営者、文豪、映画監督、俳優など、文化人が多くいらっしゃいました。世界を飛び回り、目も舌も肥えた、本物の味や価値を知る方々です。こうしたお客様のご要望に一つひとつ応える中で、独自性のある現在の品揃えやサービスを実現してきました。
だからロゴのデザインには、フラットでモダンな街のイメージが表現されています。色が“成城石井ボルドーレッド”になったのは、『ワインは会話を弾ませ、食卓を豊かにする』という考えのもと、フランスのワインを豊富に扱っていたことからです」(星野鉄兵さん)
紙袋にはなぜ“メロン箱”がデザインされている?
本物を知る顧客のリクエストに誠実に応えてきた結果、『成城石井』へ行けばおいしいものが見つかる。『成城石井』が選ぶのだから間違いない、という信頼を勝ち取ることができた。
しかし、全国に222店舗(2025年8月現在)、売上高1125億円(2024年2月期)という現在の華々しい結果は、単なる御用聞で為せる業ではない。これを裏付けるエピソードの一つが、紙袋にデザインされた“メロン箱”だ。
「紙袋は1976年にスーパーマーケット化した時に採用されたもので、“メロン箱”は我々を象徴するモチーフとして親しまれています。
メロンは今では身近なフルーツですが、『成城石井』が創業した当時は、デパートで数万円もの値がつくほどの高級品でした。そんな中、初代の石井社長は青果市場に足繁く通い詰め、市場関係者との信頼を深めるなど、品質の高いものをよりよい価格で買い付けるために努力を重ねたそうです。結果的に、同品質のものを半値で販売することができ、お客様がお求めやすい価格を実現できました。
現在、9部門で約40名のバイヤーがいて、皆が“メロン箱”に込められた想いを大切に。本当においしいものをお求めになりやすい価格でお客様の食卓にお届けするべく、日々奮闘しています。こうして培ったバイヤーの目利き力の高さは、我々の強みの一つです」(星野鉄兵さん)
毎日の食事で、現地の味わいを
さて、話をワインに戻そう。『成城石井』に並ぶワインには、どのような特徴があるのか。
「そもそも食料品店ですので、仕入れるものもオリジナルのものも、全てのワインにおいて大切にしていることは、お食事に寄り添う味わいです。中でももっとも品揃えが多いのは、フランス・ボルドー地方のワイン。ボルドーのワインは味わいのバランスが取れていて、幅広いお料理に合います。
もう一つ大切にしていることが、現地の味わいそのままをお楽しみいただけることです。これは自社輸入を始めた1980年代からこだわっています。
当時、初代の石井社長がフランスで飲んだワインの味わいが国内で飲む味わいとちがうことに気がつき、いろいろ調べた結果、輸送方法を見直しました。それまでは温度管理をしていないコンテナで運んでいたのですが、暑い赤道直下を越える時にどうしても風味が劣化してしまうのです。コストはかかりますが定温管理されたコンテナで輸入することで、現地の味わいそのままをお楽しみいただけるようになりました」(星野鉄兵さん)
コストはかかってもおいしさを選ぶとは、さすがである。だがしかし、その分きっとお高いんでしょう?
「もっとも品揃えが多い成城店には常時900種類ほどのワインがあるのですが、大きなワインセラー5台の中には、1本1~3万円のものから30万円ほどする高級品もあります。でも、それはごく一部。毎日のお食事でカジュアルに楽しんでいただける、1本1000~2000円のテーブルワインも豊富に取り揃えていますよ。
全てのワインは、低温管理されたコンテナで輸入した後、定温定湿庫できちんと温度・湿度を管理して保管し、現地と変わらない味わいを守っています。テーブルワインも高級ワインと同じ環境で扱っていることも、私たちの強みです」(若林 遼さん)
ちなみにコストがかかるといっても自社輸入だから、中間マージンがかからず、結果的によりよい商品や食材が買い付けられる、と星野さん。
「自社輸入することで、より品質の高いものをローコストで買い付けられていると思います。これも、本当においしいものをお求めになりやすい価格で、コストパフォーマンス高くお客様の食卓にお届けできている要因の一つです」(星野鉄兵さん)
2025年夏に新登場「サマーヌーヴォ」
数々のおいしいワインがそろう『成城石井』だが、この夏は、南半球から届く4種の白ワイン「サマーヌーヴォ」がイチオシだ。いずれも1500円程度の求めやすいテーブルワインである。
ソムリエでもある若林さんが詳しく紹介してくれた。
「『ヌーヴォ』とは、収穫した年のブドウからつくられる新酒で、11月の第3木曜日に解禁されるフランスのボージョレ・ヌーヴォが有名です。そんなヌーヴォでも、私たちがおすすめしたいのは、南半球でつくられるフレッシュな白ワイン。南半球は日本と季節が反対なので、ちょうど夏に新酒が楽しめるんですよ。
なぜ白ワインかといえば、暑い季節にキリッと爽やかにお楽しみいただけるからです。オーストラリア、チリ、南アフリカのワイナリーと我々が丹念に試作を重ね、『成城石井』のためだけにつくりあげた商品です。弾けるようなフレッシュ感と心地よい酸味のサマーヌーヴォは、日本の暑い夏にぴったりです」
オーストラリア「クアリサ/30マイルヌーヴォ リースリング」
750ml 1529円(税込)
「爽やかな白い花を思わせる香りと、レモンやライムのようなキリッとしたフレーバーが特徴です。シャープな酸が際立つ辛口の味わいは、よく冷やしてお楽しみください。食前酒として、また前菜と合わせてもすっきりとした爽快感を楽しめます」
オーストラリア「クアリサ/30マイルヌーヴォ ソーヴィニヨンブラン&シャルドネ」
750ml 1529円(税込)
「フレッシュな柑橘の香りと爽やかな酸味のバランスがとれた1本です。風味がよく酸味のあるソーヴィニヨンブランと、まろやかな味わいのシャルドネを組み合わせ、香り豊かな飲みやすいワインを目指しました。パクチーを使ったエスニックなサラダや冷たい麺とも合います」
チリ「ホーリー/ホーリー ソーヴィニヨンブランヌーヴォ」
750ml 1529円(税込)
「桃やパッションフルーツなどのトロピカルな香りと、キリッとした酸が織りなす、深みのある味わいです。口に含むとフルーティーな果実味とともに、ほんのり感じる苦味がアクセント。アスパラガスなど、苦味のある夏野菜のソテーと組み合わせるとお互いの味が引き立ちます」
南アフリカ「イムブコ/シュナンブラン アイス ヌーヴォ」
750ml 1639円(税込)
「氷を入れて楽しめるワインとして、ワイナリーと共同開発した新発想のヌーヴォです。南アフリカを代表する白ワイン品種・シュナンブランでつくり、品種特有のフレッシュな酸味と果実のジューシーさを最大限に引き出しています。ほんのり甘みのあるワインは、氷を加えることでアルコール感も和らぎ、徐々にすっきりとした飲み口に変化します」
自由に、すっきり爽やかなヌーヴォを楽しんで
ワインと聞くと、温度に気を遣ったり適したグラスに注いだりと、なんだか難しいイメージもある。しかし「自由に楽しんでください!」と若林さん。
「とくに氷を入れて楽しめる『シュナンブラン アイス ヌーヴォ』は、ワインをあまり飲まない方にもお試しいただきたい1本です。氷を入れ、さらに炭酸水を注ぐと、シュワシュワとした清涼感でより飲みやすくなります。また、氷の代わりに冷凍パイナップルやマンゴーフレーバーのアイスを入れると、大人のデザートドリンクの出来上がり。合わせるフードも、ポテトチップスやその日のお夕飯でOKです」
炭酸で割ったり、凍らせたフルーツを入れても。パイナップルやマンゴーなどトロピカルフルーツとの相性もよさそうだ
そうと決まれば、今夜の一杯はサマーヌーヴォで決まり! ちなみに『成城石井』には、自社輸入・自社加工で求めやすい価格を実現した、本格的なチーズや生ハムなどの食材もそろう。好みの1本とともにホームパーティーの手土産にしても喜ばれるだろう。デキるビジネスパーソンの嗜みとして、覚えておくように!
取材協力/成城石井
取材・文/ニイミユカ