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「全自動保険」がデフォルトになる!?ウェアラブルデバイスの進化がもたらす保険の未来

2025.08.01

全自動保険が実現するまでのプロセスと、論点となるリスク

ここまでで紹介したウェアラブルデバイスの進化と金融・保険ビジネスの3領域は、それぞれが独立して進んできたが、まさに今、これらが融合しようとしている。

どのように実現するのか。また乗り越えるべきリスクには何があるのだろうか。実際の全自動保険のシナリオを例に考えてみよう。

●シナリオ

前提「真夏の外回り営業中に、急に体調が悪くなり、その場で倒れこんでしまった」

1.転倒を検知: Apple Watchに内蔵された高感度センサーが、通常の転び方とは異なる「激しい転倒」を即座に検知。
2.応答確認と自動通報: 画面に「大丈夫ですか?」と表示し、1分間あなたの応答がないことを確認。即座に119番へ自動通報し、内蔵GPSによる正確な位置情報を共有。
3.データ連携: 同時に、あらかじめあなたの包括的な同意を得ていた保険会社のシステムへ、時刻、場所、心拍数、体表面温度、転倒検知の事実といった生体データが、高度に暗号化した上でAPI経由送信される。
4.AIによる自動査定・承認: 生命保険会社のAIが、受信したリアルタイムデータを契約内容と照合。「パラメトリック保険特約:急性イベント(心拍数180bpm以上かつ転倒検知)に該当」と瞬時に判断し、入院一時金10万円の支払いを自動承認。
5.支払い実行: 承認情報は即座に支払いシステムに連携され、契約者の指定銀行口座への振り込み手続きが行なわれる

このシナリオの実現はどのくらい現実的だろうか?

シナリオ自体には、遠い未来を描いたSF映画のワンシーンのような非現実さはない。これらのシナリオを構成する個々の技術や要素は、すでに私たちの社会に実装され、世界中の企業がその実用化に向けてしのぎを削っている。

それらを安全かつ倫理的に繋ぎ合わせるためのリスクを低減できるかどうかである。要となるが「3.データ連携」の部分である。続けて詳しく解説する。

●横たわる3つの大きな論点

技術的な問題以上に、社会的なルールやビジネス上のリスクがあり、以下の3つの論点を考えねばなるまい。そして、課題として複雑に絡みあっている3つの論点を最初に突破した企業が、次世代のInsurTech市場の覇者となる可能性があるともいえる。

論点(1):法的・倫理的な視点「要配慮個人情報」のリスク

個人の健康・医療情報は、個人情報保護法において最も慎重な取り扱いが求められる「要配慮個人情報」に分類されている。緊急時とはいえ、本人の明確な意思確認が取れない状況で、その情報を営利企業である保険会社に自動送信する仕組みは、法的・倫理的な視点で慎重な議論が必要だ。「契約時に包括的な同意を得ておけば良い」という単純な議論では足りず、データの利用目的の厳格な制限や、万が一の情報漏洩時の責任の所在など、社会的な合意形成が不可欠である。

論点(2):プラットフォームの視点: GAFAのプライバシーポリシー

ウェアラブルデバイスを使う我々の健康データを管理するのは、AppleやGoogleといった巨大プラットフォーマーたち。彼らはユーザーのプライバシー保護を最優先事項として掲げており、サードパーティ(保険会社など)に、ユーザーのリアルタイム生体データを自動でプッシュ送信するようなAPI(連携機能)の提供には極めて慎重だといえる。彼らを動かすには、ユーザーにとって圧倒的なメリットがあること、そしてプライバシーが完全に保護されることを証明しなければならない。

論点(3):信頼性と不正利用の視点:モラルハザード(不正請求)と監視社会の懸念

一般消費者向けのデバイスデータが、保険金支払いの絶対的な根拠として通用するか「データ信頼性」問題は常に付きまとう。さらに、意図的にデバイスを操作して転倒を偽装したり、センサーをごまかして心拍数を異常に見せかけたりする「モラルハザード(不正請求)」をどう防ぐか、技術的な課題が残る。AIによる異常検知パターンの高度化などの進化に期待だ。一方、心拍数、睡眠の質、位置情報といった人によっては極めて機微な情報を企業に提供することへの抵抗感が根強い。「保険料が上がるから…」と、健康的な行動を常に強いられるプレッシャーが、便利な「見守り」を、息苦しい「監視」になり、かえって新たなストレスを生む可能性もある

テクノロジーとの共存に必要な「倫理」と「リテラシー」

総じて、スマートウォッチと保険が融合した未来は、計り知れないほどの利便性と安全性をもたらしてくれるのは間違いない。

さらなる未来には、デジタルツインの技術を活用し、契約者一人ひとりをサイバー空間上の「双子」として再現し、より予防・回避的な対応も可能になる。

例えば、デジタルツインに対し、「このままの生活を続けた場合、5年後に高血圧を発症する確率は70%」といった風に高精度なシミュレーションを行い、「週3回の運動を導入すれば、そのリスクは30%に低下し、将来の保険料は年間5万円安くなる」などの提案をしてくれる。

保険会社の収益源も、従来の保険料収入に加え、高度なパーソナル・リスクマネジメント・サービスに対するコンサル手数料やサブスク料が大きな柱となっていく可能性もある。

しかし、人によってはこれらのデータ提供や提案が、プライバシーをのぞき見されていると感じてしまうリスクもある。

また、高価なスマートデバイスを所有し、ITリテラシーが高い人々だけがこれらの先進的なサービスの恩恵を受け、経済的に困窮する人々は取り残される。情報格差がそのまま健康格差、経済格差に直結する「デジタルデバイド」が、より深刻な社会問題となるリスクもある。

利便性の追求が、プライバシーの侵害や格差の拡大といった不幸な未来につながらないために、私たちはテクノロジーをどのようなルールと倫理観で活用していくべきか。社会全体での継続的な議論を通じて、より良い未来を築いていく必要がある。

文/久我吉史

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