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【NIKKIのKINIなる世界】AIで〝あの世〟にもアクセスできるようになる?

2025.08.01

2021年11月、米国アリゾナ州で一人の男性が激高したあおり運転ドライバーに撃たれて亡くなるという事件がありました。被害者の男性、クリフトファー・ペルキーさん(当時37歳)は地元の教会コミュニティと深く関わっており、彼の姉・ステイシーさんはこう語っています。「弟はとても慈悲深い人でした。生き延びていたらきっと犯人を許すような人だと思います」

今年の5月、ステイシーさんは弟を殺した犯人の裁判で遺族を代表して被害者意見陳述を準備していましたが、裁判の日が近づくにつれ「本当に聞かせるべきなのは被害者本人の声では?」という思いから、AIを使って殺された弟を裁判で陳述させる前代未聞の方法を思い立ちました。もともとテック関係の仕事をしていたステイシーさんは同業者の夫と一緒に複数のソフトウェアを活用し、生前のクリストファーさんの写真や動画をモデルに、数日でAI映像を制作しました。

裁判所で公開された動画の中でAI生成されたクリストファーさんはおだやかに微笑みながら自分を射殺した犯人に向かって「あの日、あのような状況でお会いしてしまったのをとても残念に思います」と話しかけました。「もし違う状況で会っていたら、友だちになれたかもしれないのに」

「あの世からの被害者意見陳述」がどれほど判決に影響を与えたのかは定かではありませんが、裁判長は心を打たれた様子で感想を述べた後で、犯人に懲役の上限である10年半の判決を下しました。

AI技術に関しては、規制やルールよりもはるかに速いスピードで開発が進んでいるように感じる昨今、この裁判は世界中で報道され、議論を呼び起こしました。亡くなった人をどんなに忠実に正確に再現しようとしても、データや遺族などの主観をもとに造られたフェイク映像にすぎません。それが司法の判断に影響を及ぼすとなると、当然、倫理的な懸念点も浮かび上がります。それでも、あの世へと旅立ってしまった愛する人とまた会って話したいという需要に応えようと、すでに似たような技術の研究開発は進んでいるのです。

AIでデジタル遺影とおしゃべり

亡くなってしまった愛する人の遺影やお墓の前で話しかけたり、メールや手紙を送ったりするなど、何らかの形で故人とのつながりを感じようとするのはとても自然な行為です。遺された者として抱く深い悲しみを少しでも癒そうとしながら大切な人との絆を再確認する、とても意義ある行為だと思います。

英語では、死別や離別などの喪失体験による悲嘆や、そこから心や身体に起こる状態を「グリーフ(grief)」とよびます。日本では一般的な用語とは言えませんが、気持ちの整理やこれからの生き方について迷いや苦しみを抱えている人にグリーフケアやサポートを提供する団体や専門家は少しずつ増えているようです。

グリーフを癒すためにAIで故人と「再会」することに関して専門家の意見は分かれますが、グリーフボットやデッドボットと呼ばれるこの技術はすでに世界の研究室や企業が開発を進めています。亡くなった人のデジタルアバター(いわば交流型デジタル遺影)と会話をしたり、メッセージのやり取りをしたりするサービスはまだ限定的にですが、市場に出ています。

この研究に力を入れているインディアナ大学の研究者は「死んだ人の姿や声をAIに学習させることはできても、その人をその人たらしめる性格を学習させるほうが難しい」と語っています。万が一、自分が家族より先に死んでしまう場合に備えて、自分の人となりをAIに学ばせる作業も、これからの「終活」の一部になるのかも・・・?

実は西洋社会では死者との交信は19世紀ごろにも注目されていて、発明王エジソンや推理小説家アーサー・コナン・ドイル、リンカーン大統領など、多くの人が神秘の可能性に関心から交霊会に参加していたそうです。どんなに科学や技術が進歩しても、もうこの世にいない人にまた会いたいという願いはおそらく人間が人間である以上、変わらないのでしょう。

このようなテックと精神世界の融合はtechno-spiritualism(テクノ・スピリチュアリズム)の分野として急速に発展していくと予想されています。私たちの常識を大きく変えてしまうAIの可能性には魅了されますが、すでに現実とフェイクの区別がつかなくなりつつある今、果たして健全で安全な開発と利用は可能なのか、と不安にも思います。倫理や規制にまつわる議論は周回遅れのまま、私たちの飽くなき願望をAIはどこまで叶えてしまうのか、期待と不安が混じった気持ちになります。

参考記事
https://www.cnn.co.jp/tech/35232853.html(CNN Japan)
https://edition.cnn.com/2025/05/09/tech/ai-courtroom-victim-impact-statement-arizona(CNN)
https://www.nbcnews.com/news/us-news/road-rage-victim-speaks-killers-sentencing-rcna205454(NBC News)
https://indianapublicradio.org/news/2025/07/ai-research-at-indiana-university-contributing-to-virtual-griefbots-of-deceased-family-and-friends/(Indiana Public Radio)
https://www.nytimes.com/2025/03/30/opinion/grief-tech-ai-optimized.html(New York Times)

取材・文/キニマンス塚本ニキ

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