
Vtuber界隈では、卒業(引退)後すぐに“そっくりさん”として再デビュー(転生)する事例は珍しくない。新しい姿での再スタートはファンにとっても楽しみである一方で、法的にはどうなっているのか心配にもなる。Vtuberの転生の裏側で繰り広げられる権利関係の問題について、弁護士の見解を交えて紹介したい。
転生は著作権侵害にあたるのか?
企業に所属するVtuberが卒業(引退)後、似た外見で転生することがしばしば話題になる。
ここで重要なのは、Vtuberのデザインやキャラクターに関する権利の所在だ。企業所属のVtuberの場合、そのキャラクターの権利は誰に帰属するのだろうか?転生時に似たような姿で再デビューを果たすことは合法なのだろうか?
アディーレ法律事務所・島田さくら弁護士は次のように説明する。
「Vtuberのキャラクターデザインを企業内部で作成した場合、キャラクターの著作権は、企業に帰属します。企業が外部の絵師(デザイナー)にキャラクターデザインを依頼した場合、キャラクターの著作権は当初デザイナーに帰属しますが、企業とデザイナーとの契約で、財産部分に関する著作権(著作財産権)は企業に譲渡されることが多いでしょう。したがって、キャラクターに関しては、デザイナーが著作者人格権を、企業が著作財産権を保有していることになります。
著作財産権とは、複製権、翻案権など、グッズを製作して販売したり、キャラクターを使ってコラボをしたりするのに必要な権利です。
著作者人格権とは、著作物の創作者が持つ絶対的な権利で公表権、氏名表示権、同一性保持権の3つが含まれます。
したがってVtuberが転生した場合、転生後のキャラクターが前世と全く同じデザインであったり、髪の色が違うだけなど元のキャラクターに酷似している場合、当然、企業やデザイナーからキャラクターの使用差止や損害賠償請求をされるリスクがあります。
特に、転生後にグッズを販売するなど、商業的な利益が発生した場合、その収益相当額を被害額として企業から賠償請求が起こされる可能性は十分考えられます。もちろん、デザイナーから別途請求を受ける可能性もあります」
しかしながら、それはキャラクターの同一性や類似性が認められた場合だ。
「全く同じデザインであれば権利侵害の認定は容易ですが、たとえば、髪型が前世と同じツインテールでイメージカラーが同じだけど絵柄はまったく違うという場合など、前世を匂わせている程度では著作権侵害は認められないでしょう。多くのVtuberも転生時に訴訟リスクを回避するためにデザインに違いを持たせることが多いのではないでしょうか」
一方で、企業が過去のVtuberの動画などを利用する場合、Vtuberから企業に権利侵害を主張できないか、Vtuberが元のキャラクターとして活動していたことについて著作権を保有するのかについては、「歌手やアニメの声優など、台本どおりに演じる方については、著作権法上、実演家の権利が認められていますが、Vtuberについては、コメントについてのレスポンスやゲーム実況などアドリブトークが多く、現在の著作権法上、実演家の権利は認められないのではないか」とのことであった。
企業側は「契約後の活動制限」が限界
企業にとって、Vtuberをプロデュースするには多額のコストがかかる。例えば、数百万円を投じて一人のVtuberをデビューさせ、プロデュースすることも珍しくない。Vtuberが卒業後に転生し、同じようなキャラクターで活動することについて、企業は泣き寝入りせざるを得ないのだろうか?
「契約で、Vtuber活動の終了後の一定期間、同業の活動を制限することは可能です」と島田弁護士は言う。
「一般の企業でも同業への転職を制限する契約が存在するように、Vtuber業界でも同様の契約を結ぶことはありえます。しかし、制限期間が長すぎたり、制約の範囲が広すぎたりする場合、書面で競業避止の契約をしていても無効となるでしょう。企業は卒業後のリスクを一定程度抑制するために、契約を結んで転生後の問題に備えることができますが、完全に防ぐことは難しでしょう」
転生という現象がもたらす法的な課題は、Vtuber業界の成長とともにますます注目されている。ファンとしては新たなデビューを楽しみつつも、企業側の法的対応にも興味が湧くところだろう。

島田さくら弁護士
アディーレ法律事務所所属。 『大下容子 ワイド!スクランブル』(テレビ朝日)、『情報ライブ ミヤネ屋』(読売テレビ)など、メディア出演多数。労働トラブルを多く取り扱う。
https://www.official.adire.jp/profile/shimada_sakura
取材・文/峯亮佑