
現在発売中の雑誌『DIME』9・10月合併号では2025年7月に45周年を迎えた、ガンダム作品のプラモデル、通称〝ガンプラ〟を大特集している。その中で、学生時代にガンプラを親しんだ人物としてインタビューしたのが、漫画『機動戦士ガンダム サンダーボルト』(以下『サンダーボルト』)の著者・太田垣康男先生だ。雑誌内では、ガンプラに関する思い出などを紹介している。本記事では連載12年を迎える『サンダーボルト』の作品についての話をクローズアップ。長きにわたって描き続けている作品に込められたテーマや思いを聞いた。
ストーリーもメカデザインも太田垣先生がつくったオリジナル
ーー『サンダーボルト』はシリーズ累計550万部を突破する大ヒット作品です。メカもストーリーも太田垣先生が考えているのでしょうか?
太田垣 物語は完全オリジナルで、すべて私が考えています。作品に登場するメカの方向性も私が決めて、MS(モビルスーツ)のデザインも最初から14~15巻ぐらいまでは、ほぼ1人でやっていました。16巻以降は、作画パートナーの桜水樹さんにも協力をいただきながら進めています。
ーー自分でデザインをしたMS(モビルスーツ)の中で、どれが1番お気に入りですか?
太田垣 難しい質問だなぁ(笑)。あえて選ぶとしたらジムですね。サブアームを付けて、2枚のシールドを装備するデザインとして最初に描いたのがジムでしたから、『サンダーボルト』のメカデザインの根本は、ジムにあると思っています。ジムにシールドを2枚付けたので、フルアーマー・ガンダムはもっと増やし、ザクIIの背後には大きなバックバックを付けたのでサイコ・ザクはもっと付けなければと意気込み、気づいたらどんどん重厚になっていきました。これはガンプラにも影響していて『サンダーボルト』のキットの箱を初めて開けた時、あまりのパーツの多さに恐れおののき、そのままふたを閉じたほどです(笑)。
ーージムですか!? 知名度の高いMSですけど、ちょっと意外でした。
太田垣 アニメ版でも、ジムってちょっと弱い感じがするじゃないですか。そんな昔の印象もあり、もっと宇宙世紀的な雰囲気にならないかなと思ってデザインしたことが、後のフルアーマー・ガンダムとサイコ・ザクにつながったと思いますね。だから『サンダーボルト』の中でジムへの思い入れが一番強いです。
中学時代に衝撃を受けたザクへの想いは初恋に近い
ーー作品を読んでいて、お気に入りは絶対にザクだと思っていました。
太田垣 ザクは、特別な存在です。子供の頃に『機動戦士ガンダム』のアニメを見て、最初にカッコいいと感じたのはザクでしたから。アニメの予告編で見た「ザクがマシンガンを構える」姿は、今でも鮮明に覚えています。もちろん主役であるガンダムも好きですけど、ザクのインパクトはそれ以上に強烈で。その思いは今も変わらず『サンダーボルト』はザクを主役にしたような漫画になってしまいました(笑)。出合って40年以上経つと情報が多すぎて、どこがいいと端的に言うのは難しいですが……。あえて言うと、ザクへの想いは「初恋に近い」のかもしれません。
ーー『サンダーボルト』以外のガンダム作品をご覧になることはありますか?
太田垣 『サンダーボルト』を描く前は『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』をはじめとするOVA作品を、仕事とは関係なくエンタメとして楽しんで見ていました。一番好きな作品を挙げるとすれば、劇場版『機動戦士ガンダム』の三部作。『機動戦士ガンダム』はテレビアニメ版も好きですけど、劇場版の画質の良さや、最初に見た時の高揚感は忘れられません。
戦争の功罪を考えるきっかけになれば長く描いてきた意義がある
ーー劇場版『機動戦士ガンダム』からは、どのような影響を受けていますか?
太田垣 『サンダーボルト』をスタートするに当たり、特に『機動戦士ガンダム』で描かれた〝戦争の功罪〟といったテーマを大事にしようと思いました。当時の『機動戦士ガンダム』は子供向けの意味合いが強い作品でしたが『サンダーボルト』は「ビッグコミックスペリオール」という青年誌の作品です。メカや兵器の魅力などに惹かれる部分は別として、大人の読者に向けて「戦争はカッコいいだけじゃない」こともしっかり描きたいと思っていました。そのテーマにたどり着いた時に「これは描ける」「描く価値がある」と。その結果、ファンアートを超える作品になっていると自負しています。
ーー先生の緻密なタッチで描かれたMSの、リアルで迫力ある戦闘シーンには常に胸躍ります。その一方、戦争によって身体的欠損など大きな傷を負った人々の綿密な心理描写もこだわられていると感じます。戦争の傷跡をあそこまで深掘りすることに抵抗はありませんでしたか?
太田垣 読者の反応も様々で、SNSを通じて直接不満の声も届きましたし、高く評価してくれる人もかなりいます。賛否はあれど「ビッグコミックスペリオール」の編集部が、自分の作品をきちんと載せてくれていましたので、テーマや本筋はブレなかったですね。

https://bigcomicbros.net/work/6156/
ーーどちらかひとつの陣営に偏るのではなく、ジオン公国軍と地球連邦軍の両視点を大事に描いていることも新鮮に感じました。
太田垣 平和な日本で生まれ育った僕ら世代に、戦争体験はありせんが、世界中のどこかで戦争や紛争は常に勃発しています。おそらく人間が生きてる以上、ずっと続いていくでしょうし、なくなってほしいと願っても、なくならないから人類なんだろうなとも思います。ただ、戦争というのは、どちらにも大義や正義があり、双方に守るべき人たちや守るべきものがあることを知ってもらい「どっちが正しいのか」がわからなくなる経験を、読者にしてほしいと思いました。
ーーそれが作品に込めたメッセージのひとつということですね。
太田垣 もちろん漫画家として、ガンダムファンとして、MSの戦闘シーンをカッコよく描きたいという気持ちで、12年間作品取り組んできました。その一方で、作家としては自分が抱いている戦争観を読者に伝えて「戦争について考えてみてください」というテーマで描いてきたつもりです。メッセージとして読者に届いていたら、描いてきた意義があると思いますね。
ーー戦争を考えるきっかけになる部分でも『サンダーボルト』は大きな風穴を開けた作品だと思いますね。
太田垣 青年誌であっても、今は戦争をテーマにした漫画の企画を通してくれる編集部はあまりないはずです。『サンダーボルト』も『機動戦士ガンダム』という冠があったからこそ、正面から戦争を描けたと思います。
ーーガンダム作品以外に、戦争というものを強く印象づけられた映像作品や史実はありますか?
太田垣 ノンフィクションの映像作品でしたら、NHKが放送した『映像の20世紀』。第一次世界大戦と第二次世界大戦のドキュメントは鮮烈でした。戦争を初めて映像として記録したのは、まさに第一次世界大戦だったわけで、20世紀というのは、とんでもない時代に突入したんだなと、衝撃を受けました。戦争で傷を負って、顔の一部が欠損した兵士とか。馬車に積み込まれる遺体を見て、いろいろと考えさせられたことも覚えています。現代の戦争は当時と比べて破壊力がケタ違いに大きくなっているので、さらにひどいことになっているかもしれない……という危機感を、想像するきっかけを与えてくれました。
いよいよクライマックスを迎える作品で今後登場する「とあるもの」に期待
ーーそうして描いてこられた『サンダーボルト』もまもなくクライマックスを迎えようとしています。今後どのようなことに期待してほしいですか?
太田垣 実はまだ内緒なんですけど「とあるもの」を登場させようとしています。頭の中に図面があって、それを思い浮かべつつ、今ハマっているレゴでカタチにして検証している最中です。それがどんなものなのか、ラストまでの展開とともに期待してください。
太田垣康男先生
1967年3月31日生まれ、大阪府出身。1988年に漫画家デビュー。2001年に「ビッグコミックスペリオール」で宇宙開発をテーマにした『MOONLIGHT MILE』の連載をスタート。2012年3月からは『サンダーボルト』を同誌にて好評連載中。

イオとダリルの最終決戦を描く最新刊26集は、2025年8月29日発売。通常版(1210円)に加えて、描きおろしダリルエピソードを収録したミニBOOK『SWEET MEMORIES』(右写真)が付録の限定版(1760円)も同時刊行される。
https://www.shogakukan.co.jp/books/09863603
https://www.shogakukan.co.jp/books/09943212
取材・文/安藤政弘 撮影/下城英悟 編集/田尻健二郎
取材協力/『ビッグコミックスペリオール』編集部
(C)創通・サンライズ
(C)太田垣康男/小学館
7/16発売DIME最新号は「ガンプラ」を大特集!プラモデルの常識を打ち破ってきた45年の軌跡と〝その先〟を徹底取材!
2025年はガンプラが誕生してから45周年という節目の年。
7月16日発売のDIME9・10合併号では、その45年の歴史を振り返り、ガンプラが今後どのように進化していくのかを大特集! 夏休みのお供として、ガンプラファンにもおすすめの特別付録「〝赤い〟USBリューター」と合わせてお楽しみください!
さらに表紙違いのスペシャル版では、クライマックスを迎える「機動戦士ガンダム サンダーボルト」とコラボ! 作者の太田垣康男先生のインタビューと共にスペシャル表紙を作成しました!ぜひこちらもご注目ください!
※表紙のみが通常版と異なります。付録・内容は通常版と同一です。
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