なぜ「ゾス」になったのか?
筆者:疑問なのは、なぜ「ゾス」ということばになったか? ということです。「ス」は「お疲れ様です」にも「オス」にも付きますが、「ゾ」はどこから来たんでしょう?
小野先生:順を追って考えてみましょう。濁音にすることで、力強い印象になるのはわかりますよね?
筆者:はい。体育会系の感じが出ると思います。
小野先生:濁音はガ行、ザ行、ダ行、バ行しかありません。「お疲れ様です」「オス」を受けて母音が「オ」だとすると、「ゴス」「ゾス」「ドス」「ボス」のいずれかになります。「ドス」「ボス」はすでに他のことばがあるので、ちょっとややこしい。「ゴス」でも迫力があって良さそうですが、「ス」を直後に発することを考えると、同じサ行の「ソ」を濁音にする「ゾ」が一番適していたのでしょう。もちろん、誰かの計算ではなく、自然にそうなっていったはずです。
筆者:印象に残り、言いやすいことばだからこそ、定着したのですね。
小野先生:ちなみに、芸能界では時間を問わず「おはようございます」と言うのをご存知ですか? 理由は歌舞伎が起源だとか、時間が不規則だから、など諸説ありますが、国語学的に言えば、あいさつのなかで敬語なのが、「おはようございます」だけだからです。「こんにちは」「こんばんは」は敬語がつけられないので、上下関係が厳しい業界では使いづらいのでしょう。
筆者:なるほど~。何気ないようでも、長く使われることばには、それなりの理由があることがわかりました。「ゾス」が体育会系ビジネスパーソンの間で定着し、令和になっても好まれることに、すごくハラオチしました。
「ゾス」現象は、単なるコミュニケーションを超えて、ことばが人と人を結びつけ、カルチャーまでつくる力があることを示している。ことばは生き物であり、時に思いもよらないムーブメントとなる。今日もどこかのオフィスで、現場で、新しい「ゾス」が生まれているかもしれない。
参考:https://diamond.jp/articles/-/355850
取材・文/小越建典