「かわいい」の歴史的な転換
筆者:そこで、今回の「かわいい」ブームです。自分が「守りたい」ものを誰に遠慮することなく宣言したい、という気持ちが、時代の背景にあるのでしょうか。
小野先生:それだけではありません。楽曲を聴いていると、「かわいい」の歴史において、エポックメイキングなことばの転換があることがわかります。
筆者:なんですか?
小野先生:最近まで、基本的に「かわいい」の対象は、他者でした。「私ってかわいい」と心のなかで思うことはあっても、なかなか大っぴらには言い出せません。「謙遜」や「たしなみ」といった価値観があったからでしょう。
筆者:確かにそうです! 「私かわいい」と、あえてぶりっ子するタレントなどもいましたが、それはツッコミを前提とした、あくまで特別なキャラクターです。
小野先生:おばあちゃんもオジサンも、ちょっと不気味なキャラクターも、なんでも「かわいい」と言えるようになったけれど、「自分」だけは対象外だったんです。
しかし、FRUITS ZIPPER、CUTIE STREET、超ときめき♥宣伝部は、自分を自分で「かわいい」と堂々と宣言し、王道として認めさせてしまったのは、驚くべきことです。主観的に成立する(でも他者を対象とする)「かわいい」の尻尾を残して、ことばの使い方を変えてしまったわけです。
おもしろいのは、彼女たちが伝統的で客観的な「かわいい」衣装をまとっていること。本人も、ビジュアル、楽曲、言動、すべての要素で、文句のつけようがない客観的な「かわいい」を体現しています。
「謙遜」や「たしなみ」を大事にしている人も、彼女たちの言うことを否定する理由がありません。彼女たちによって、「自分を自分で『かわいい』と言って何が悪いのか」という感覚が定着したように思います。
筆者: 圧倒的な自己肯定ですね。そこには、「弱いものを守りたい」という尻尾も残っているように思います。「かわいい」ということばによって、弱い自分を前向きにしていこう、という意思が感じられます。自己肯定へのニーズをとらえ、古い価値観を突き抜けて認めたのが、「かわいい」ブームの正体なのでしょう。
ここで挙げたアイドルたちには、一昔前に流行したような「投票」によるヒエラルキーがない。「かわいい」を通して、一人ひとりの個性と価値観こそが素晴らしいと言うメッセージを送っており、それこそが、聴衆に受け入れられているのだ。ことばの尻尾を丁寧にたどることで、時代の価値観が見えてくる。
取材・文/小越建典
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