
『真・女神転生』シリーズや『ペルソナ』シリーズなど、重厚で奥深い世界観と独特なゲーム性で根強いファンを抱えるアトラスのゲーム。
そんな同社が2006年に世に送り出した異色作『デビルサマナー 葛葉ライドウ 対 超力兵団』が、19年の時を経て装いも新たにリマスター化され、『RAIDOU Remastered: 超力兵団奇譚』として帰ってきた。
本作は、アトラスが過去に手がけたアクションRPGの中でも、ファンの間で〝異端にして傑作〟と語り継がれてきた一本。しかし、なぜこのタイミングで、リマスター化したのか?
今回は、リマスターに込めた想いや今だからこそ語れる開発当時の裏話について、本作のプロデューサーである山井一千さんに話を聞いた。

「ライドウ」は架空の大正時代を舞台にしたアクションRPG
まず、「ライドウとは?」という読者のために、あらためて本作について説明しておこう。『デビルサマナー 葛葉ライドウ 対 超力兵団』、通称「ライドウ」の舞台は、大正20年。──といっても大正が続いたのは15年まで。つまり実際には存在しない、架空の時代設定だ。場所は帝都。主人公は「デビルサマナー」と呼ばれる悪魔使い・葛葉ライドウ。刀を携え、異形の悪魔たちを従え、怪事件の真相を追っていく。
一見するとレトロ探偵ものだが、バトルはリアルタイムで展開するアクションRPG形式。『真・女神転生』シリーズに代表されるターン制コマンドが主流だった当時のアトラス作品の中では異例のチャレンジ作品だった。
しかも、ただ剣を振るうだけでなく、仲魔(=仲間の悪魔)を召喚して共闘させるという戦略性も斬新で、和風×オカルト×近代文明といったジャンルミックス感も手伝い、中毒性の高いゲームとしてゲームファンにコアな人気を誇ったゲームソフトだ。
「なぜライドウのような作品にコアなファンがつくのか?」という問いに対して、山井さんはこう分析する。
「アトラスのゲームソフト全体に言えるかもしれないんですけど、普通の〝正義〟という無味乾燥なイメージではなく、ダークさや王道から外れたところがある。そういう部分がマニア心をくすぐるのではないかなと思いますね」
なぜ今、ライドウを復活させたのか?
では、そんな「ライドウ」が、なぜ今になってリマスターされたのか。
「実はライドウの1作目は、個人的に〝心残り〟の多い作品だったんです。アトラスとしても初めて本格的にアクションRPGに取り組んだタイトルで、手探り感もあった。それがずっと頭に残っていました」
とはいえ、アトラスのゲーム開発は基本的に新作優先。人員もリソースも限られるなか、リマスター化には相当な熱量が必要だったという。
「ただ、おかげさまで『ペルソナ』シリーズでファンが増えて、『真・女神転生Ⅲ』のリマスター作品がヒットした流れもあって、ようやく〝今ならいける〟という機運が整った。それが今回のタイミングでした」
世界観はそのままにプレイのしやすさを令和仕様に
今回のリマスター版は、単なるグラフィックの向上だけにとどまらない点が特徴だ。根幹となるバトルシステムには、シリーズ第2作『デビルサマナー葛葉ライドウ対アバドン王』の仕様をベースに全面刷新が施された。
「1作目ではアクションの目新しさはありましたが、育成や戦略の奥深さが足りない点が課題でした。なので、そういった戦略性の薄さは2作目のバトルシステムをベースに再構築したもので補強しました。
他には新たに悪魔の種類も50体以上追加し120体以上にして、合体のバリエーションや戦術の幅も広げています」
ちなみに、なぜバトルシステムを変えたのか。山井さんから意外な言葉が返ってきた。
「当時で言えば、ファンのリアルな声が知りたくて〝2ちゃんねる〟はよく見ていました。そこに〝(ライドウの)1作目を2作目のシステムでプレイしたかった〟というファンの書き込みが見受けられたんです。正直、ネットの反応は頻繁にチェックしていましたね(笑)」
また、操作性や画面表示のわかりやすさも大幅に改善。ミニマップの表示や難易度設定など、現代のプレイヤーが求める〝わかりやすさ〟や〝タイパ〟にも対応している。
中でも、特筆すべきはファストトラベル機能だ。「現場急行」と書かれたコマンドを選択するだけで、一度訪れた場所へ瞬時に移動できる便利な機能で、ゲームを進める上での移動の煩わしさや迷いを解消する手助けとなっている。
「タイパを求める今の時代、ユーザーはゲームの世界にもそれを求めているように感じます。前述したバトルシステムの追求以外に、実は、こうした手間を省く〝今っぽさ〟も改善しています」
「遊びやすさ」は大きく変えながらも、ストーリーやキャラクターは極力〝変えない〟。そのバランス感覚にも山井さんのこだわりが滲み出ている。
「今回キャラクターをフルボイス化していますが、ライドウは淡々と任務をこなす寡黙なヒーローなのであまりしゃべらせすぎないように調整しています。本作は、あくまで〝リメイク〟ではなく〝リマスター〟。かつてプレイしていた方々の〝記憶の中のライドウ〟を壊さないように意識しました」
大正20年という設定に込められた〝エール〟と〝遊び心〟
舞台設定にも注目したい。本作は「大正20年」という実在しない年を採用している。当時、なぜフィクションの時代を選んだのか。
「2000年代初頭の日本は景気が悪くて、閉塞感があった。そこでモチーフの案に挙がったのが、大正時代。第2次世界大戦が始まる前で、世界大恐慌もあった中でも人々が未来を信じて頑張っていた時代なんですよね。だから〝大正浪漫〟の希望や活力を借りて、現代人にもエールを送りたかったんです」
さらに年号を「大正20年」とすることで、忠実な歴史に沿わないことへのツッコミを交わしつつ、明治時代や昭和の要素も自由にミックス。〝忠実すぎない〟遊び心が、世界観の幅を生んでいたのだ。
〝悪魔〟に親近感を持たせる工夫の数々
同作に欠かせないキャラクター・悪魔にも工夫が足されている。
『ライドウ』シリーズをはじめとするアトラス作品に登場する「悪魔合体」とは、仲間にした複数の悪魔(〝仲魔〟)を掛け合わせて、まったく新しい悪魔を生み出す育成・強化システムのこと。 合体によって、より強力なスキルや個性を持つ悪魔が誕生し、戦術の幅が広がるのが最大の魅力だ。
ただし、単なる強化にとどまらず、「どの悪魔を素材に選ぶか」によって生まれる悪魔のタイプが変わるなど、プレイヤーの選択が結果に大きく影響するのが特徴だ。
また、運やタイミングによって〝思わぬ悪魔〟が生まれることもあり、そこに中毒性を感じるプレイヤーも多い。 戦略性や悪魔合体の幅を広げることを目的とし、プレイヤーがより多様な体験を楽しめるように配慮されている。
山井さんは「悪魔の数が少なく、合体の結果が同じになってしまう」と当時の課題を指摘。「バリエーションがないとつまらないので、リマスター版では悪魔をとにかく増やそうと思いました」と振り返る。
中には、架空の大正時代という時代背景に合わせた悪魔もいる。
「文明開化の時代なので、海外の悪魔も少しだけ登場させています」と山井さん。時代設定を生かしつつ、日本らしさも残した悪魔たちのラインナップは、まさに〝見えないこだわり〟の結晶と言える。
また、合体後に手放すことになった悪魔から届く〝手紙〟の仕様など、小ネタ的な演出も。悪魔を〝怖くてかわいい〟存在として登場させ、作品全体を盛り上げている。
海外にも広がっている「ライドウ」人気
ライドウは国内向けの作品という印象が強かったが、リマスター後は海外からの反響も意外なほど大きかったという。
「海外地域での販促を担当されているセガさんも最初はあまり期待していなかったのですが、SNSでは英語圏を中心に『RAIDOU』と書かれた投稿がどんどん出ていて、予想以上でした」
大正時代という日本特有の背景が、海外にどう受け入れられるのか。懸念もあったが、そこは「見た目」で突破した。
「〝サムライ〟に興味を持つ海外の方にとって、日本刀を持って戦うクールなヒーローというだけで、十分魅力的だったようです。我々が〝中世ヨーロッパの剣士〟にロマンを感じるのと同じ感覚だと思います」
ファンの「思い出補正」を超えるために
最後に、山井さんに今作のターゲットを聞いてみた。
「やっぱり一番は、当時のファンですね。19年越しになる〝ライドウ〟との思い出を裏切らないように、むしろ〝思い出補正を超えるように〟作ったつもりです」
さらに、シリーズ初体験のプレイヤーにとっての楽しみ方についても語ってくれた。
「大正時代を舞台にしていること、悪魔を仲間にして一緒に戦うというのはもちろん魅力ですが、アクションバトルという形式は少し珍しい。その新鮮さや怪しい雰囲気の世界観をぜひ楽しんでほしいですね」
19年の時を超え、ライドウが再び動き出す
SNSでも大きな話題を呼んでいる『RAIDOU Remastered: 超力兵団奇譚』。山井さんは、ファンの熱意が続いていることについてこう語る。
「シリーズ第2弾で『デビルサマナー葛葉ライドウ対アバドン王』というタイトルがあるんですが、やっぱり今作の評判が良ければ第2弾のリマスター版も出るのでは……という気持ちがあるようで、ありがたいことに盛り上げ続けようとしてくれている感覚はありますね」
19年前、アクションRPGに挑戦したアトラスが生んだ〝異端作〟は、当時のファンだけでなく、新たなファンを引き寄せている。
時代を超えて甦ったライドウは、再び伝説の作品になっていく――。
【作品情報】
ゲームソフト『RAIDOU Remastered: 超力兵団奇譚』
発売元:アトラス
価格:アトラスDショップ限定版:10758円/通常版:6,578円/デジタルDX版:8778円(いずれも税込)
対応機種:Nintendo Switch™2 / Nintendo Switch™ /PlayStation®5 / PlayStation®4 /Xbox Series X|S / Steam (Xbox Series X|S、SteamはDL版のみ)
公式サイト:https://www.atlus.co.jp/raidou/
取材/井田愛莉寿 文/瀬戸大希