
都市と地方の税収格差を是正し、地方創生を目的としたふるさと納税。2023年度には全国の自治体に寄付された総額が1兆1175億円と初めて1兆円を超え、過去最高を更新した。
そんなふるさと納税の制度が2025年10月1日から変更になる。専門サイトや大手ポータルサイトなどから寄付した時に、これまでは付与されていたポイントが付かなくなる。
ふるさと納税へのポイント付与禁止に反対の声を上げる
ふるさと納税が盛り上がるにつれ、各サイトによるポイント付与の競争が激化。お世話になった自治体等への感謝や応援の気持ちを伝えるという、制度本来の趣旨がずれてきたために、適正に運用が行なわれるよう、総務省が制度の見直しを行なうことを明示した。
そして2024年6月28日にリリースしたのが、「寄附に伴いポイント等の付与を行う者を通じた募集を禁止する」という、ふるさと納税の指定基準の改正だ。この改正は2025年10月1日から適用される。
これに対して、楽天グループでは同日中に「ふるさと納税へのポイント付与禁止」に反対するネット署名を開始。楽天の見解は大きく次のような内容になる。
総務省のポイント付与禁止の告示に対する楽天の見解
・地方自治体と民間の協力、連携体制を否定するものである。
・各地域の自律的努力を無効化するものである。
・地方の活性化という政府の方針にも大きく矛盾するものである。
2025年3月18日には集まった署名295万2819件(3月16日時点)を、楽天グループ代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏が、石破茂内閣総理大臣に提出。だが6月28日に総務省が公表した「ふるさと納税の指定基準の見直し等」には、ポイント付与禁止に対する記載がなく、予定通り10月1日から実施される状況となっている。
変わらない状況に対して行政訴訟を提起
そもそも楽天グループは1997年の創業以来、「楽天市場」を始めとする事業を通じて地方創生に取り組んできた。全国55の自治体と連携協定を締結。自治体の地域課題解決に向けた施策や、物販・観光などのマーケティングデータを活用した施策など、様々な地域活性化施策を展開してきた。
2015年7月よりサービスを開始した「楽天ふるさと納税」でも同様。これまでの参加自治体数は1708自治体(2025年7月8日時点)。寄付者数は年間で約500万人(2024年4月1日~2025年3月31日)にも及ぶ。
また、「楽天ふるさと納税」で寄付を行なうと楽天ポイントが付与されるが、このポイントは楽天側の負担で実施されている。
反対署名による訴えなどを行なっても依然、変わらない状況に対して、楽天グループは7月10日に記者会見を実施。「ふるさと納税へのポイント付与禁止」に対する総務省告示に対して、無効を求める行政訴訟を東京地方裁判所に提起したことを発表した。
一方、7月15日に実施された閣議後記者会見で、総務大臣の村上誠一郎氏は記者からの質問に対して、次のように回答している。
「楽天グループ株式会社が、総務省告示の無効確認を求める訴訟を提起したということについては承知しておりますが、現時点では訴状は届いておりません。訴状が届きましたら、内容を十分に精査した上で、適切に対応していきたいと考えております。
ポイント付与を禁止する見直しは、ポイント付与で寄附者を誘引するポータルサイト等が利用され、その付与率に係る競争が過熱化することが、お世話になった自治体等への感謝や応援の気持ちを伝えるという、ふるさと納税の本来の趣旨に則った適正なものとはいえないことから、関係者のご意見を聞いた上で実施することにしたものであります。
この見直しにつきましては、既に昨年の6月に告示を改正し、本年10月から適用することにしております」(村上総務大臣)
人ごととは言えない!ふるさと納税へのポイント付与禁止
このポイント付与禁止は、ふるさと納税を利用する人にとっても重要な問題だ。
そもそもふるさと納税自体、実質負担額の2000円を超える金額が住民税や所得税から控除され、寄付額の3割に相当する返礼品を受け取れるお得な制度ではあるものの(寄付限度額は要確認)、この寄付額に対してポイントが受け取れるので、よりお得度が高くなる。
ふるさと納税に対してポイントを付与しているサイトは、「楽天ふるさと納税」以外にも多数あるのだが、声を上げているのは楽天グループのみ。その他のサイトは静観している印象だ。このまま10月1日を迎えてしまえば、これまで利用しているサイトでふるさと納税はできるものの、ポイントは付かなくなる。
そこで各サイトや各自治体が想定しているのが、ポイントが付く9月に駆け込みでふるさと納税する人が増えることだ。その時期には最後のポイントキャンペーンを大々的に行なうサイトが出てくるかもしれない。
もちろん、楽天グループの反対署名や行政訴訟などによって、ポイント付与禁止が撤回されたり、緩和されることが望ましいのだが、そうならないケースも視野に入れ、9月に駆け込みでふるさと納税する準備も行なっておきたい。
文/綿谷禎子