
『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』が公開から4日で観客動員が516万人、興行収入73億円を突破した。公開初日興行収入16億円、公開3日で興行収入55億円を突破するなど、いずれも日本の興行収入記録を塗り替える大快挙となっている。興味深いのは、『鬼滅の刃』は2020年5月に連載が終了してからすでに5年以上が経過し、その物語の結末は多くのファンの知るところとなっている点だ。いわば”ネタバレ済み”にもかかわらず、なぜ、私たちは『鬼滅の刃』を楽しみにできるのだろうか。
ネタバレは悪じゃない?
忌み嫌われる「ネタバレ」であるが、実はネタバレに関する研究は世界各地で行われており、その中には「ネタバレで作品の面白さは変わらない」という研究があるのだ。
その一つ、カルフォリニア大学サンディエゴ校の心理学のニコラス・クリステンフェルド教授の研究によれば、「ネタバレは物語を台無しにするどころか、むしろ面白くする」との結果が出ている。
クリステンフェルド教授は「多くの人々に、ネタバレで体験が台無しになることがありますか?と尋ねると、ほとんどの人は『はい』と答える」としながらも、人々に意図的にネタバレを与えることで、面白さの感じ方はどのように変化するのか調べてみることにした。
さまざまなジャンルの短編小説を読んでもらいました。あるグループはただ物語を読み終えて、どれだけ好きだったかを評価しました。もう一方のグループは、物語が進行する前にあえてネタバレを与えられました。すると「驚くべきことに、物語をネタバレすると、実際にはそれをもっと楽しんでいたのです」とクリステンフェルド教授は言う。
物語の結末を知っていることで、視聴者は全体の流れを把握でき、より深く物語を理解することができる。結末を知っていれば、物語全体の構造が理解しやすくなり、途中での伏線や細かいディテールをより楽しむことができるのだとクリスフェンド教授は分析をしている
出典:https://www.universityofcalifornia.edu/news/spoiler-alert-spoilers-make-you-enjoy-stories-more
公式への期待も要因の一つ

※画像は「テレビアニメ「鬼滅の刃」遊郭編 放送中CM」より ©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
『劇場版「鬼滅の刃」無限城編』を観に行きたいファンの心理も同じもののように思う。
原作履修済みであれば、今回の劇場版でどこまで描写をされるのか大方の予想が着く。
例えば、今回、予告編で蟲柱・胡蝶しのぶと上弦の弐の戦闘シーンが描かれていたが、これまでほとんど描写されなかった蟲の呼吸がどのように描かれるのか、ファンはこうした期待を膨らませる。しのぶさんだけではなく、善逸や猗窩座などにも「あの技はどう魅せてくれるのか」「あの回想シーンのどんな演出にしてくれるのか」など、ファンは展開を知っているだけでに、展開そのものよりも、その魅せ方やディテールの細かさへに期待を抱いていたのではないだろうか。
もちろん、それを支えるのは「映像化への信頼感」だ。
劇場版を含むTVアニメシリーズ『鬼滅の刃』は、これまで常に漫画を忠実に再現しながらも、アニメならではの映像美を追求してきた。
例えば、遊郭編で音柱・宇髄天元の使う”音の呼吸”は漫画では爆発エフェクトの出る斬撃という描写にとどまっていたが、アニメでは花火のような火花が飛び散る”ド派手”な演出で描かれた。天元のキャラクターをさらに掘り下げるような良演出に感動したことを覚えている。
「絶対に私たちの期待を上回ってくれる」という積み上げられた公式への信頼感が「ネタバレを知っていてもなお劇場版で見たい」とファンを思わせたのだろう。
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※トップ画像は『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』本予告映像より ©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
取材・文/峯亮佑