
「韓国は結果にこだわりすぎている」と洪明甫監督。日本サッカーとの差を実感
Jリーグ所属の国内組メンバーで編成されたサッカー日本代表が挑んだ2025年E-1選手権・韓国大会。ご存じの通り、森保一監督率いる日本は7月8日の香港戦を6-1、12日の中国戦を2-0、15日の韓国戦を1-0で3連勝し、2022年日本大会に続く2連覇を達成した。
特に宿敵・韓国を撃破したことは、大きな収穫だった。かつて韓国は日本にとって大きな壁であり、つねに先を行く存在だった。しかしながら、近年は日本人選手の欧州移籍加速などに伴い、両国の地位が逆転。日韓戦も2021年3月、2022年7月、今回と日本が3連勝するに至っている。
現役時代に湘南ベルマーレや柏レイソルでプレーした経験のある韓国代表・洪明甫(ホン・ミョンボ)監督も15日の敗戦後、「私は日本に長年いて、両代表チームの比較と分析をした中で、両国の差は若い年代からの育成システムだと考えている。日本は勝敗を気にしすぎず、育成の一貫性を重視したが、我々韓国は結果にこだわりすぎてしまった」と発言した。
確かに目先の勝利にこだわりすぎると、長期的ビジョンで物事を見られなくなってしまいがちだ。韓国の場合、日本以上の少子化が進み、学歴・エリート意識が一段と過熱していると言われるが、「1つ1つの結果が極めて重要」という概念が強すぎるのかもしれない。
一方の日本は早い時期に失敗したとしても、遠回りして成功できる余地がある。サッカー界は特にそうで、10代の頃にJリーグクラブのアカデミーで上のカテゴリーに昇格できなかったとしても、プロとして大成した選手も数多くいる。
中村俊輔(横浜FCコーチ)、本田圭佑などはその筆頭で、今の日本代表も大卒選手が増える一方だ。神奈川大学出身の伊東純也(スタッド・ランス)、流通経済大学出身の守田英正(スポルティング・リスボン)などは10代の頃の代表経験は皆無。Jリーガーになってからグングン評価を上げ、日本代表の絶対的主力になった。多種多様な成長過程が認められる「寛容性」や「包容力」も日本人の優位性と言えそうだ。
1万円を両替すると90000ウォン程度。「円安・ウォン高」のダメージは大
筆者はこの大会を取材するため、久しぶりに韓国に長期滞在した。現地で10日以上、過ごしたのは、2019年12月に釜山で開催された同大会以来。コロナ後の貴重な機会となったわけだが、特に痛感したのが物価高だ。
韓国に行けば、以前は1万円を両替すると、10万ウォンが戻ってくるのは当たり前で、11万ウォン近くになることもあった。だが、今回両替をしてみると、9万ウォンにしかならなかった、それだけ「円安・ウォン高」になっているということ。アメリカドルやユーロに対して円安というのは理解していたが、隣国・韓国に対してもここまで通貨が下がっているのはショックが大きかった。
それに加えて、韓国も日本同様に物価上昇が著しい。一部報道によると、韓国では2022年に5%以上のインフレ率を記録。2023年も3・5%、2024年も2・5%とグングン上がり続けているというのだ。
今回、試合会場の龍仁ミルスタジアムのある京畿道(キョンギドウ)・龍仁(ヨンイン)市に滞在し、ロッテマートやEマートなどの主要スーパーをはしごしたが、どこもモノの値段が高かった。
例えば、日本のスーパーで1袋120~130円で売っている野菜パックを買おうとすると、韓国では少し容量が多いものの、3000ウォン(約330円)が最低ライン。牛乳もヨーグルトも日本の1・5倍程度で、「日常生活必需品がこんなに高いのか」とため息が出そうになった。
筆者が韓国に行くたびによく買っていた韓国版ポッキー「ペペロ」(ロッテ製)というお菓子も、1パック1600ヴォン(約180円)に値上がりしていた。お店によっては2000ウォン(220円)というところもあった。2010年代は1000~1100ウォン(約90~100円)程度で、何パックも買いだめして帰るのが常だったから、急激な値段引き上げがかるだろう。ココア相場が暴騰した影響だというが、これは韓国の子供たちもショックに違いない。
食事に行くにしても、日本だったら500~600円で何とか食べられる立ち食いそば屋や牛丼チェーン、かつ屋のような店があるが、韓国は手軽なチゲ屋やビビンバ屋でも1000円近くする。やはり2010年代は「ランチ1食700~800円」のイメージだったから、やはり状況は変化している様子だ。
多彩な副菜のついてくる焼肉・鍋物などは割安。ビールも安い!
ただ、韓国の場合、焼肉はまだまだ日本より割安だ。カルビで有名な水原(スウォン)市の庶民的な焼肉店に3人で入って、1人前350グラムのカルビ2人前を注文すると、合計で3万4000ウォン(約3740円)。それにビールとマッコリ1本ずつを加えても、5000円弱というリーズナブルな値段だった。
韓国の場合、つけ合わせのサンチュやキムチ、煮物などの副菜は全て料金に含まれている。韓国の焼肉と言えば、カルビのみならず、サムギョプサルやテジカルビなどいろいろあるが、やはり焼肉を思い切り食べるのがお得。冬場になればヘムルチゲ(海鮮鍋)など鍋物もいいだろう。食事のメニューをうまく選ぶことがお得な旅のポイントではないか。
日本より割安なものは焼肉や鍋料理だけではない。大きいところで言えばビールだ。韓国の場合、外国メーカーのビールも国内産ビールとほぼ同じ値段なのだ。ビール大国・チェコのピルスナーとして有名なウルケルのロング缶を日本で買おうとしたら400円程度はするが、韓国は2000ウォン(約220円)くらい。日本のキリンやアサヒ。サッポロの銘柄もほぼ同じで、むしろ韓国で買った方が安いくらいだった。
もう1つは交通アクセスの料金。韓国へ行けば、地下鉄やバスを利用するケースが多くなるが、最低料金はTマネーなどのカード利用なら1450ウォン(約160円)が最低料金。今回、日本代表の練習を取材するため、龍仁から水原まで連日、バスで通ったが、乗車時間は50分~1時間なのに、料金が毎回1450ウォンというのはかなり助かった。
もちろんバスに乗るためには、ハングル文字をある程度、理解できなければ難しいのだが、昨今は「グーグル翻訳」という便利ツールがある。看板やメニューにカメラを近づけると、文字が全て日本語変換されるというもので、英語表記の少ない韓国ではかなり役立つ。
筆者はそんなテクノロジーが登場する前から韓国に複数行っており、看板を読めずに困惑する機会が少なくなかった。2002年アジア大会や2005年・2013年・2019年E-1選手権など長期滞在する機会も多く、文字を読めるようにならないと食事にも困るという状況が続いて、必死にハングル表を見ながら判読の努力を続けたものだ。が、今はそんな必要は全くない。韓国ばかりではないが、外国語のハードルはかなり低下したと言えるだろう。
距離の近い隣国ということで、往復飛行機もLCCが数多く出ているし、宿泊費も抑えようとすればモーテルなら5000円以下で泊まれる。24時間営業のサウナやチムジルバンを活用するのも一案だ。全体的に物価が上昇し、我々の負担は増えたものの、韓国が「日本人にとって最も行きやすい国」であることは変わらない。それを再確認できたのは、大きな収穫だった。
今回のE-1選手権期間の11・13日に、バスケットボール男子日本代表(アカツキジャパン)が韓国代表と水原の北側にある安養市で国際親善試合を行っていたが、そういったスポーツ界の交流が進めば、日本人の韓国渡航のチャンスも多くなる。スポーツが両国の相互理解を深める懸け橋になってくれれば理想的。サッカーもE-1選手権のみならず、違った形で日韓戦の復活を期待したいものである。
取材・文/元川悦子
長野県松本深志高等学校、千葉大学法経学部卒業後、日本海事新聞を経て1994年からフリー・ライターとなる。日本代表に関しては特に精力的な取材を行っており、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは1994年アメリカ大会から2014年ブラジル大会まで6大会連続で現地へ赴いている。著作は『U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日』(小学館)、『蹴音』(主婦の友)『僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」(カンゼン)『勝利の街に響け凱歌 松本山雅という奇跡のクラブ』(汐文社)ほか多数。