
大阪・関西万博内にある「テーマウィークスタジオ」では、対話による地球的規模の課題解決を目指し、世界中の国々からスピーカーを招いて、様々なプログラムを展開している。7月17日(木) ~ 7月28日(月)のテーマは「いのちに力を与える 学びと遊び」。「AI時代において人は何を学べば良いのか?」を様々な視点から掘り下げる。
7月18日には韓国から、サムスン電子 常務兼モバイルエクスペリエンス事業部 テクノロジー戦略チーム長のケン(インガン)ソン氏、クアルコムコリア副社長のスペンサー(サンピョ)キム氏が招かれ、「真のAIパートナーになるための人間中心AI:壁を乗り越え、次に目指すもの」というタイトルでフォーラムが展開された。サムスン電子ジャパンが実施したプレスツアーに参加し、現地で取材してきたのでレポートする。
大阪・関西万博の「テーマウィークスタジオ」でAIフォーラムを開催
様々なAI機能を提供する「Galaxy AI」を、スマートフォンにいち早く搭載してきたサムスン。自社端末に最適化されたクアルコム社のチップセットを採用し、AI機能の一部はローカルで処理されている。通話のリアルタイム翻訳やWebサイトの要約、写真や動画の編集から、アプリを超えた複雑なタスクの実行まで機能も豊富で、スマートフォン×AIでできることは、他社と比較しても一歩抜きんでていると言っていい。
フォーラムでは、人々がAIに抱いている実用性、使いやすさ、安全性への懸念と、そうした懸念を払拭し、人間中心のAIを実現するための重要な技術であり、サムスン、クアルコムが取り組む「オンデバイスAI」と「マルチモーダルAI」について、詳しく紹介された。
AI活用のカギは「オンデバイスAI」と「マルチモーダルAI」
「オンデバイスAI」とは、前述のようにローカルで処理されるAIを指す。ローカル処理ならではのレスポンスの速さに加えて、データを外に出さないため「ユーザーの情報を安全に保護できる利点がある」と、サムスン電子のソン氏は説明する。
クアルコムのキム氏は「オンデバイスAIは、AIモデルの軽量化と、チップセットのコンピューティングパワーの向上によって実現可能となった」と紹介。低電力、高速化、セキュリティの強化、プライバシーの強化といったメリットをもたらしていると話した。
一方の「マルチモーダルAI」については、「人間と同じように、視覚、聴覚、触覚といった感覚を一緒に使いながら、状況を認識する能力」とソン氏。タッチ操作や、音声、視覚情報をもとに、AIをより直観的に利用できるものだ。キム氏によれば、その裏側でデバイス上では、複数のAIモデルとNPU、CPU、GPUといったプロセッサーが有機的に連携するプロセスが実行されているという。
『Galaxy S25』シリーズでは、ユーザーの約7割がAIを使用
これらの技術の進化によって、AIの活用は今、急速に広がっているとソン氏。今年発売された『Galaxy S25』シリーズでは、ユーザーの約70%がAIを積極的に活用しているという。その一方で未だ、AIの実用性、使いやすさ、安全性に懸念を抱いているユーザーも少なくない。サムスンではこうしたユーザーに対し、「AIの機能ではなく、エクスペリエンスでアプローチする戦略をとっていく」とのこと。「ユーザーの立場に立って、本当に意味のあるAIを具現化したい」と語った。
そのために最適なデバイスが、「マルチモーダルなインプットを可能にするスマートフォンだ」とソン氏。タッチ、音声、視覚といったインプットから、どのようにAIを活用できるか。さらに生産性向上や創造性の発揮、コミュニケーションに役立つ機能について、実際に『Galaxy S25』シリーズなどで提供されているAI機能が、動画を交えながら紹介された。
今後はさらに「個人のニーズに合わせた、パーソナライズされたAIへと進化していく」とソン氏。そのためには個人データの活用が不可欠で、データを安全に保護することがますます重要になってくると話す。「サムスンでは最高レベルのセキュリティ技術を維持するとともに、クアルコムと協力してオンデバイスAI技術を持続的に発展させていく」とソン氏。またキム氏も、セキュリティと性能の両面に取り組むクアルコムの姿勢をアピールした。
「AIの未来は、より自然で直感的な方向に向かっていく。ユーザーが望むことを言わなくてもAI があらかじめユーザーの状況を理解し、よりパーソナライズ化したエクスペリエンスが提供される。スマートフォンからIoT、家電まで様々なデバイスがつながり、 ユーザーの生活をサポートするのがサムスンの描くAIのビジョン」とソン氏。
またキム氏も「AIエクスペリアンスはウォッチ、リング、IoT、オートモーティブ、ロボティクスなど様々なデバイスにつながり、より統合された形で拡張していくだろう」と語り、「その中心はやはりスマートフォンになる」との見方を示した。
モバイルAIのリーディングカンパニーとして役立つ機能をいち早く提供
フォーラム後に実施されたソン氏の囲み取材では、GeminiなどGoogleが提供するAI機能とどう差別化していくのか、AIを利用しやすくするためのハードウェア面での工夫、オンデバイスとクラウドとのバランス、AI開発における日本の研究所の役割から、Galaxy AIで今後提供したい機能まで、広く質問が及んだ。
差別化について、「AndroidにおけるAIの具現において、Googleとは密接なパートナーシップを結んでいる。ユーザーエクスペリエンスも一緒に作っているので、そこが他メーカーとは違う」とソン氏。Geminiもアプリケーションとして提供されているものとは異なり、「Galaxyの中でインテグレーションを通じて、具現化している」と、違いを強調。また、ハードウェア面では「クアルコムを含めて様々なSoCのパートナーと、AIモデルへの最適化を図っていく」と説明した。
今後オンデバイスとクラウドを、どういうバランスで活用していくのかについては、「その比率を今予測するのは難しい」と回答。「Galaxyでは現在、両方を用いてAI機能を提供しているが、その選択をユーザー自身でできるようにするというのが、基本的な考え方」だと語った。
最後にGalaxy AIの機能について、「モバイルAIのリーディングカンパニーとして、今後も勉強を重ね、様々な機能をいち早く提供していきたい」と話したソン氏。まだAIを使っていない人に対しては、「我々にできるのは便利に使ってもらえる環境を提供すること。AIをより簡単に直観的に使えるように、ハードウェア開発を進めていきたい」と話していた。
なお今回のフォーラムを含む、「テーマウィークスタジオ」の各プログラムは「バーチャル万博~空飛ぶ夢洲~」でアーカイブを視聴できる。興味のある人はぜひチェックしてみてほしい。
取材・文/太田百合子