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「うちの子は大丈夫」と思いたい…保育士不足と過重労働が招く保育事故の背景にある問題

2025.07.23

名古屋大学大学院で情報工学を専攻し、NTTで研究職として情報通信業界の最先端に身を置いていた近藤敏矢氏。実家の保育園を継ぎ、異色の保育園経営者となった同氏は、保育業界の深刻な人手不足や過重労働が引き起こす現場のひずみに警鐘を鳴らします。本記事では、著書『ここが変だよ、保育園』から、保育事故の背景にある構造的な課題と、「うちの子は大丈夫」と願う保護者こそが知っておくべき視点について紹介します。

なぜ保育士は足りないのか? 責任は重く、収入も低い。休暇も取りにくい、過酷な現実

厚生労働省の「保育士の有効求人倍率の推移(全国)」によると、保育士の有効求人倍率は2.49倍で、時期によっては3倍近くなることもあり、保育の現場では保育士が足りていないことがうかがえます。2013年以降、保育所などで働く保育士の数自体は増え続けているにもかかわらず、実際に保育士として働いている人は保育士登録者数の2分の1以下に過ぎません。厚生労働省の2019年のデータによれば、保育士登録者数160万7000人に対し、実際の従事者数は62万6000人です。保育の資格をもっているにもかかわらず保育士として働いていない潜在保育士が多い理由として、厚生労働省の調査では次のような点が挙げられています。

•責任の重さを感じる
•事故への不安がある
•就業時間が希望と合わない
•休暇が少なく取りにくい

保育園では生後2カ月の、まだ自分では何もできないどころか首もすわっていない子どもから、6歳の誕生日を迎えた子どもまでが集団で生活します。それぞれの発達段階に合わせた配慮をして保育をしていきますが、「命を預かっている」という責任が心理的に大きな負担になることがあります。緊張感の中で働いていても、それに対して収入が見合わないと感じる人も多くいます。厚生労働省「令和3年賃金構造基本統計調査結果の概況」によれば、保育士の平均年収は男性が約421万円、女性が約380万円で、全体の平均は約382万円です。保育士の待遇改善が議論され、かつてよりは良くなってきていますが、世間の水準からすると、まだ収入が良いとはいえません。

忙しい保育で「連絡帳」は本当に必要?

忙しい保育士の大きな負担となっているものの一つが、連絡帳です。ある園長先生は「連絡帳は監査で確認されており、実施が必須化されている」という説明をされていました。気になったので改めて確認すると、法で定められているわけではありませんでした。行政監査の担当者にも確認しましたが、「必ず(手書きの)『連絡帳』を実施するよう指導はしていません」という説明を受けました。おそらく多くの保育士が負担を感じながらも、より気持ちが伝わるという保育園内外からの期待のもとに日々手書きしています。

「保育所保育指針」には、「日常の保育に関連したさまざまな機会を活⽤し⼦どもの⽇々の様⼦の伝達や収集、保育所保育の意図の説明などを通じて、保護者との相互理解を図るよう努めること」と記載されており、保育園が連絡帳を廃止して口頭で保護者と意思伝達をすることにしても行政監査の指摘事項には該当しないということで、必須事項ではありません。ところが、保育園業界では「行政から指導されている」と誤認している園も多くあります。連絡帳ではなく口頭であっても、保護者との情報共有がきちんとできていれば問題にはなりません。

では、なぜ手書きの連絡帳を続けているのかといえば、今までずっと使ってきたからというのが私の推測です。変化を避けようとする、または、新サービス提供に対する情報収集力の不足といった保育業界の体質が影響しているともいえます。保育士が時間と労力をかけて連絡帳を作成するよりも、お迎えの際に口頭で同じ内容を伝えることにすれば、保育により多くの時間や手間をかけることができます。こういった点にも変化、改革のポイントを見いだすことができます。

バス置き去り事故は他人事ではない。 保育士個人の責任では終われない構造問題

「送迎バスに園児が置き去りにされて亡くなるという事件が、2021年に福岡県で起き、2022年には静岡県で起きましました」。これらの悲しい事件を受けて、政府は子どもの降車時の点呼を義務づけました。しかし、保育所、幼稚園、認定こども園のいずれも、もともと約9割の園が降車時確認を行っていたというアンケート結果もあります。この数字が施設の回答であり、心理的な影響で「確認していない」とは答えにくい可能性や、管理者と現場の認識の差異がある可能性も指摘されています。

保育園、幼稚園の送迎バスは全国で1万台ほどあります。年間200日として、乗り降り1日2回と換算すると、年間で400万回の降車確認が行われています。1年間で400万回です。降車確認自体は単純な話ですが、ミスなく400万回の繰り返しが行われるために、仕組みを設定することなく保育士の自覚に依存するのみという体制はいかがなものかと思います。

人間はミスをする生き物である、という前提のもとで対策を構築する必要があります。その意味で、近年の保育事故は、一概に保育士の責任だとはいい難いのかもしれません。保育士一人ひとりの努力に頼るのではなく、人間は失敗する生き物だという前提に立って、事故が起きない仕組みづくりに力を入れることが大切だと考えます。

多様性が保育の質を高める。男性保育士がもたらす豊かな可能性

一般的に保育士というと女性の姿を思い浮かべる人が多いかと思います。かつて、保育を担う職員は「保母」と呼ばれていました。それに応じて、男性保育士が「保父」と呼ばれることもありました。それが1999年4月からは「保育士」という名称に変更になっています。 保育士のなかには男性もいます。厚生労働省「保育士登録者数等(男女別)」によれば、男性保育士の登録者数は2020年4月1日時点では、8万2330人です。保育士全体の人数に占める男性保育士の割合は約5%となり、女性保育士と比べてかなり少ないですが、男性で保育士資格を取得している人は年間で5000人程度増えているのです。

全国的に見るとまだまだ少ない男性保育士ですが、私の運営する保育園にも男性の保育士がいて園児から大いに慕われています。活発で体を動かすのが大好きなタイプの子どもたちにとって、男性保育士の存在は大きなものとなります。 一方で、世の中には男性の保育士に対して違和感をもっている保護者もいるようです。その背景には、男性保育士による性犯罪が報じられることが関係していると考えられます。なかには男性保育士におむつ替えをしてほしくないという保護者もいるという話を報道で耳にしたことがあります。わが子を守りたいと考える親心は分かりますが、男性保育士は保育を豊かにする可能性をもった存在です。

これまでは保育士といえば女性というのが当たり前のようになっていましたが、子どもが日常を過ごす環境に女性しかいないという状態のほうが不自然です。たとえ少数であったとしても保育の現場に男性が入ることで、これからの保育のあり方に多様性が出てくることが期待されます。

文/近藤敏矢
こんどう・としや 社会福祉法人 みなみ福祉会理事長。保育園や子育て支援拠点等を運営する中で、保育現場の実情と制度のギャップを可視化し、保護者や社会に伝える活動を行っている。著書『ここが変だよ、保育園』『親が知らない保育園のこと』。

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