
6月26日、AEON PayとWAONが統合され、「新AEON Pay」という決済サービスが登場した。
とはいっても、我々が慣れ親しんだWAONが吸収統合されてしまった……というわけでは全くない。使い方は従来通りだが、その上でAEON Payとの残高移行が可能になったのだ。「それだけ?」と思われるかもしれないが、これが実はWAON大躍進のフラグになる可能性がある。
AEON Payといういささか地味だったコード決済サービスを取り込むことで、WAONは何を目指そうとしているのか?
悔しさが見え隠れする決算説明会の資料
コンビニやスーパーマーケットだけでなく、大手飲食チェーン店でも利用できるWAON。カードの累計発行枚数は1億枚を超える国内主要電子マネー銘柄である。
筆者自身、WAONはモバイルSuica、nanacoに次ぐ3番手として活用している。利用する機会はあまり多くないが、それでもAppleウォレットになくてはならないメンバーだ。詳しいことは後述するが、NEXCOグループの高速道路では、実は交通系ICカードよりも使える店が多かったりするのだ。
一方、AEON Payは2025年2月期の時点で1,145万人。このあたりはイオンフィナンシャルサービスの2025年2月期通期決算説明会で、こう説明されている。
AEON Payの会員数は1,145万人となり、KPIとしていた1,500万人は未達となったが、前期末より155万人増加した。
(2025年2月期通期決算説明会-イオンフィナンシャルサービス)
資料に「KPIとしていた1,500万人は未達となったが」とわざわざ記載するあたり、悔しさが滲み出している……と邪推するのは筆者だけだろうか。
確かに、AEON Payは同じコード決済銘柄のPayPayやd払い、楽天ペイなどと比べたらかなり影が薄い。注意して見てみると、AEON Payは案外様々な店で利用できることが分かるのだが……。いや、これはむしろ「注意して見ないとAEON Payの存在に気づかない」ということであり、結局はこの銘柄の存在感が薄い照明になってしまっている。
だからこそのWAONとの機能統合、と考えることができる。
au通信料からAEON Payに残高チャージも!
新AEON Payは、WAONとの間で残高移行ができる仕組みになった。
たとえば、iPhoneのウォレットに搭載したWAONはau PAYプリペイドカードからチャージすることができる。au PAYプリペイドカードは、auの通信料と合算請求のチャージが可能のため、これをWAONの残高の源泉にすることも。さらに、スマホアプリ『iAEON』や『イオンウォレット』を使って、WAONからAEON Payにその残高を移すことが可能になったのだ。逆にAEON PayからWAONに残高を移行させることももちろんできる。
この機能があるだけで、それまでやや遠い距離に位置していたAEON Payがぐっと身近なものになる。
「高速道路の重鎮」WAON
筆者としては、頻繁に高速道路をドライブする人にAEON Payの利用をお勧めしたい。
というのも、NEXCO3社の高速道路ではWAONは「電子マネーの重鎮」として頂点に君臨している。これは決して大袈裟な表現ではない。以下はNEXCO西日本が2020年1月に配信したニュースリリースであるが、
NEXCO西日本(大阪市北区、代表取締役社長:酒井 和広)と西日本高速道路サービス・ホールディングス株式会社(大阪市北区、代表取締役社長:中根 正治)は、NEXCO西日本管内のサービスエリア(SA)・パーキングエリア(PA)において、新たな電子マネーの取扱いを開始します。
これまで利用が可能であった電子マネー「楽天Edy」、「WAON」に加えて、「交通系電子マネー」、「nanaco」、「iD」、「QUICPay+」が利用可能となり、SA・PAでのお食事やお買い物がさらに使いやすく便利になります。
(NEXCO西日本管内のSA・PAにおいて、新たな電子マネーを2020年4月以降に順次導入します-NEXCO西日本)
要は高速道路のSAやPAでは、あの交通系ICカードですらWAONの後輩に過ぎないということだ。そしてその名残りが今でもあり、飲食店の券売機のキャッシュレス対応が2020年以前、つまり楽天EdyとWAONしかないという場合も。有人店舗ならともかく、券売機となるとどうしても改修が遅れがちになってしまうようだ。
ここは普段からWAONを携帯している必要がある。SAで食事をしようと思い立った際、AEON Payに残高があればそれを即座にWAONに移行して券売機で決済する……ということも可能なのだ。
実質的には「新WAON」
AEON PayはWAONと残高を共有することにより、PayPayや楽天ペイにも対応し得るダークホースとなりつつある。
しかしこれは、ひとえに WAONの潜在能力の賜物である。
WAON自体は業界のナンバーワンというわけでは決してないが、それでも2007年のサービス開始から着々と積み上げてきた実績と加盟店舗がある。故に此度の機能統合は「新AEON Pay」というよりも、実質的に「新WAON」と考えるべきだ。WAONに新しい機能が実装された、ということである。
この「新WAON」が日本のキャッシュレス決済業界の勢力図にどのような影響を及ぼすのか、今後も観察していこう。
【参照】
AEON Pay
2025年2月期通期決算説明会-イオンフィナンシャルサービス
文/澤田真一
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