
私たちは日ごろ、「自分の意思で物事を決定して、最適な行動をしている」、「常にしっかり考えて選択をしている」、「自分の人生は自分でコントロールできている」と思いがちです。
でも実際は、そのときの状況や自らの感情、売り手側の巧妙な仕掛けなど、さまざまなバイアスに左右され、無意識のうちに誘導されています。
・「『限定』や『大人気』という言葉に弱い」
・「セール品に飛びついて後悔する」
・「ネット通販で買いすぎてしまう」
どれか1つでも当てはまるようなら、あなたの思考や行動はパターン化してしまっているかもしれません。
今回は、行動経済学コンサルタントの橋本 之克氏による著書『世界は行動経済学でできている』から一部を抜粋・編集し、行動経済学を「使えるツール」として日常に活かすヒントを紹介します。
【オヴシアンキーナー効果】タスク管理のカギは「やることリスト」のコンプリート
■部下のタスク管理が絶妙だった理由
「あの仕事、どうなってる?」
「進捗状況はどんな感じ?」
管理職の方々がぶつかる壁の1つは、部下のタスク管理ではないでしょうか。こちらから聞かなくても、部下がしっかり仕事を進めて、自主的に報告をしてくれるのが理想だと思いつつ、なかなかそううまくはいかないものですよね。

私が働いていたシンクタンクと広告代理店で大きく違うと感じたのは、まさに「部下のタスク管理」についてです。
在籍当時の話ですが、シンクタンクでは、タスクの「チェックリスト」と「週に一度の報告」が非常に徹底して行われていました。
上司が部下に1週間分のタスクのチェックリストを作成させて、週末に送付させます。毎週月曜日には、チーム全体で各自のリストを見ながら進捗報告会を行うのです。
このチェックリスト方式、ビジネスパーソンとしては当たり前のように感じますが、これをしっかり行えば(上司が進捗度合いに厳しく突っ込むなど「しっかりやる」ことがポイントです)、個人やチームの仕事のレベルは確実に上がります。
また、このチェックリスト方式は、行動経済学の観点から見ても、とても理にかなった方法なのです。
■一度始めてしまうと完成させたくなるのが人間の性
私たちは、何かを「コンプリートしたくなる」という欲求を持っています。
これは、行動経済学で「オヴシアンキーナー効果」と呼ばれているもので、未完成で中断した作業を、完了するまでやりたくなってしまう心理を指します。
人は、何らかの欲求が未完了なままだと、一種の心理的な緊張状態になります。
一方で物事が完了すると、緊張感が解消されます。そのため無意識に、緊張感から解放されるために達成や完成を求めるのです。
シンクタンクでは、チェックリストという目に見える形で、タスクをまとめていました。1つの仕事が終わるたびにチェックを付けていくと、「すべての項目にチェックを付けたい(コンプリートしたい)」という欲求が高まります。
次回の報告までにチェックを完了させようと仕事に励みます。思えば、完了による達成感を得ることが、仕事に取り組むモチベーションになっていたように思います。
子どものころ、夏休みにラジオ体操に参加すると、毎日1つずつスタンプを押してもらえました。すべてのスタンプを集めると、鉛筆やノートなどの景品がもらえたため、毎日早起きしてラジオ体操に行っていたのですが、それと似ている部分があります。
「オヴシアンキーナー効果」の実験として知られているのは、この効果を見出した、心理学者のマリア・オヴシアンキーナーが行ったものです。
28人の実験対象者に10種の簡単な作業(粘土を使った人形づくり、知恵の輪、パズルなど)を指示しました。合計280個の作業の約半分を、理由をつけて途中で中断するように求めます。その後の行動は特段指示をしないまま放置し、観察しました。
すると、中断後20秒以内にそれまでの作業を再開した割合は86%にも達しました(*21)。
これは中断によって、作業の残りをやろうとする意欲が高まったと分析されています。つまり、途中までやりかけたことは、やめろと指示されても「自分の意思で」最後までやろうとするわけです。
