■ごみ同然だった黒真珠の価値が跳ね上がった理由
「ハロー効果」を最もよく説明している事例として、宝石ブランド「ハリー・ウィンストン」による黒真珠のマーケティングが挙げられます。
かつて黒真珠は、宝飾品どころか実用的な価値もなく、ほとんどごみ同然とされていたそうです。しかし、黒真珠がハリー・ウィンストンに持ち込まれ、ネックレスに加工されて高値で売り出されたところ、たちまちニューヨークのセレブたちに大人気になったそうです。
黒真珠自体に価値があった、黒という色が魅力的など、理由をこじつけることはできると思いますが、簡単に言ってしまえば、「ハリー・ウィンストン」というブランドがあったからこそ売れたのです。

このように、「ハロー効果」は、詐欺を働く犯罪者から高級ブランドまで、さまざまなところで活用されているバイアスです。
今では、世の中の多くのプロモーションに著名人が使われています。また健康食品や健康器具などの通信販売では、大学教授などによる〝お墨付き〟コメントがしばしば使われます。
これらは典型的な「ハロー効果」の活用です。
私たちは、憧れの芸能人がおすすめしている、使っている商品やブランドを高評価してしまいます。たとえ本来の研究とはあまり関係のない学者であっても、○○大学教授などの肩書きとともにポジティブなコメントがあると、その商品の効果やメリットが保証されているかのように受け取ってしまいます。
また、企業のホームページには、取引先として実績のある有名企業の名前が列挙されていることがあります。あえて取引先の有名企業の名称やロゴをズラッと並べることで、まるで大企業や有名企業がその企業をおすすめしているかのように映り、その企業に対する信頼度は高くなります。これもまた、「ハロー効果」を利用していると考えていいでしょう。
そして、企業のイメージが良くなれば、その企業の商品やサービス、働いている社員、運営する店舗など、企業全体が良いものに思えてきたりするのです。
■「ハロー効果」で自分の意見を通しやすくするテクニック
このように、「ハロー効果」には人に幻想を抱かせたり、信頼させたりする効果があります。うまく活用すれば人との交渉や、自分自身のブランディングにも活かすことが可能です。
まずどんな人であれば信頼できる、感じが良い、仕事ができると思えるかを考えてみましょう。その中で自分もできそうな要素を探します。そして、その要素を「目立つ特徴」になるようにして、自分の印象全体を上げるのです。
いくつもの要素に注力するよりも、一点集中のほうがいいでしょう。「悪目立ち」してはいけませんが、他の人よりも際立って「目立つ」ことは必要です。
例えば、「できる営業マン」の中には、次のようなことに注意している人もいます。
○スーツをきれいに着こなしつつ、一点(ポケットチーフなど) 特徴を持たせる。
×サイズが合っていなかったり、ヨレヨレのスーツを着たりしている。
○肌や髪、爪など、目につくところをきれいに整える。
×肌の手入れはせず、爪や髪も伸びっぱなしになっている。
○字をできるだけ丁寧に書く。
×殴り書きのように適当に書く。
外見を整えること以外にも「ハロー効果」の活用法はあります。

例えば、自分の提案を通したい、自分のイメージや信用をアップさせたいときに、誰かの権威や肩書き、データ、世間の評判などを使う方法です。
ただし、用いる権威やデータに誤りや嘘があると、それがバレたときは逆効果になるので注意してください。
「この企画は○○部長からも賛同していただいているのですが」
「最大手であるB社の調査でも良い結果が出ています」
「□□ランキングで人気第1位なのですが」
また気になる誰かを食事に誘うときも、「世間の評判(グルメサイトの評価)」を利用してみると、相手から良い返事を得られるかもしれません。
△「この近所においしいイタリアンがあるんだけど、行かない?」
○「この近所においしいイタリアンがあって、食ベログでも評価4・0なんだけど、行かない?」
「ハロー効果」はあまりにありふれていて、私たちも知らず知らずのうちに使ったり、影響を受けたりしています。
私たち自身が「ハロー効果」に過度に引っ張られないことも大事です。
好みの芸能人が宣伝しているから、有名人が推薦しているから選ぶのではなく、自分にとって良いものだから選ぶべきですね。
見た目が良いからその人の話すことが正しい、とは限りません。警察官の(ような)制服を着ているからといって、無条件に信頼してはいけないのです。
だます側にとって「ハロー効果」は意外に手軽で便利な道具なので、私たちは引っかからないようにすることが大切です。
そのためには、見た目や上辺だけでなく全体を評価するべきでしょう。印象だけでなく事実関係を確認する冷静さを持てると、より良い選択ができると思います。
*14 『不合理 誰もがまぬがれない思考の罠100』(スチュアート・サザーランド、CCCメディアハウス、2013 年)
*15 Sigall, H., Landy, D. Radiating beauty: Effects of having a physically attractive partner on person perception. Journal of Personality and Social Psychology, 1973, 28, 218-224.
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●橋本 之克
行動経済学コンサルタント/マーケティング&ブランディングディレクター
東京工業大学卒業後、大手広告代理店を経て1995年日本総合研究所入社。自治体や企業向けのコンサルティング業務、官民共同による市場創造コンソーシアムの組成運営を行う。1998年よりアサツーディ・ケイにて、多様な業種のマーケティングやブランディングに関する戦略プランニングを実施。「行動経済学」を調査分析や顧客獲得の実務に活用。
2018年の独立後は、「行動経済学のビジネス活用」「30年以上の経験に基づくマーケティングとブランディングのコンサルティング」を行っている。携わった戦略や計画の策定実行は、通算800案件以上。
構成/DIME編集部