
私たちは日ごろ、「自分の意思で物事を決定して、最適な行動をしている」、「常にしっかり考えて選択をしている」、「自分の人生は自分でコントロールできている」と思いがちです。
でも実際は、そのときの状況や自らの感情、売り手側の巧妙な仕掛けなど、さまざまなバイアスに左右され、無意識のうちに誘導されています。
・「『限定』や『大人気』という言葉に弱い」
・「セール品に飛びついて後悔する」
・「ネット通販で買いすぎてしまう」
どれか1つでも当てはまるようなら、あなたの思考や行動はパターン化してしまっているかもしれません。
今回は、行動経済学コンサルタントの橋本 之克氏による著書『世界は行動経済学でできている』から一部を抜粋・編集し、行動経済学を「使えるツール」として日常に活かすヒントを紹介します。
【ハロー効果】ごみを高級品に変える魔法のテクニックとは

■詐欺師が「相手を思いどおりに動かす」テクニックとは
警察官を名乗る人物が、突然家を訪問してきたり、スマートフォンにビデオ通話をかけてきたりして、「あなたの口座が不正利用されている」「あなたの携帯電話が犯罪に利用されている」などと不安を煽る。
警察手帳や逮捕状を見せることで相手を信頼、動揺させ、「あなたの資産を保護する」「口座を調査する」などという名目で、お金を振り込むように要求され、送金してしまった。
SNSを見ていたら、有名な投資家の写真とともに「投資講座開催!」という広告が出てくる。
広告を開くとメッセージアプリのグループへの参加を求められ、投資家の助手を名乗る人物から、「◯◯さん(有名な投資家)もやっているから安心です、必ず儲かります」とFXや暗号資産への投資をすすめられた。最初はリターンがあったがしばらくすると滞り、利益確定のために出金を求めると一切連絡が取れなくなってしまった。
このような「警官詐欺」や有名人の名を語る「投資詐欺」が、近年急増しています。共通しているのは、「権威」を利用して人を信頼させ、思いどおりに動かしていること。ここには、行動経済学の「ハロー効果」が使われています。
■編集者は原稿の中身よりも肩書きを見ている?
「ハロー効果」とは、何かを評価するとき、目立った特徴に影響される心理を指します。ここで言う「ハロー」とは、英語のhalo、つまり聖像などの光背、後光、光輪を意味します。
「ハロー効果」によって、権威や見た目、肩書き、業績など、目立つ特徴を持つ人への評価が変わります。その特徴が後光のように全体を良く見せることによって、その他の部分までも優れているかのように感じさせるのです。

イギリスの心理学者、スチュアート・サザーランドは、全米図書賞を受賞した著名な作家の小説で実験を行いました。数年前の「全米図書賞フィクション部門」の受賞作品を準備し、まったく同じ内容の原稿を、題名をつけずに架空の著者名で、27の出版関係者に送付しました。
その結果、原稿を読んだすべての担当者は、凡作と判断し原稿を送り返してきた……というのです(*14)。
つまり、権威ある賞を受賞するくらいの小説であっても、著名な著者、著名な賞の受賞作であることがわからなければ、評価されなかったというのです。このように、私たちは物事を肩書きや知名度で評価しがちなのです。
もう1つ、興味深いエビデンスを紹介しましょう。アメリカの心理学者、ハロルド・シガールとデビッド・ランディは、男性と女性で二人組(カップル)になってもらい、第三者である被験者に男性側を評価してもらう実験を行いました。
二人組の男性はどちらも同じ人で、女性は「自然な美貌を強調する上品な服装と化粧をした魅力のある容姿」と、「似合わないかつらをかぶって化粧をせず合わない服を着た、魅力のない容姿」の2パターンです。
すると、男性はまったく同じ人であるにもかかわらず、魅力的な女性とカップルでいる場合には、印象が良く好意的に評価されました(*15)。
このとき、男女二人組がカップルではなく、単に一緒にいるだけだと説明した場合は評価は上がりませんでしたが、男女がカップルだとわかると、一緒にいる魅力的な容姿の女性に影響されて、男性の評価も上がったのです。
同じようなケースはたくさんあります。例えば、医療関係者の白衣や警察官の制服などの具体的な「権威」を目の前にすると、人は彼らの指示に従ってしまいます。その一方で、白衣や制服を着ていなければ、医師や警察官を名乗る人でも信用できないと感じます。