■私たちが「口コミ」を信じてしまう理由
インターネットでのマーケティングがメインとなっている昨今、「ウィンザー効果」という名前を知らなくても、知らず知らずのうちにこのバイアスを利用している企業は多いと思います。
今やネット上では、ほぼすべての商品やサービス、店舗に対する「お客様の声」や「レビュー」を見ることができます。本当にユーザーの声なのか、もしくはいわゆるサクラのコメントなのか怪しいものもあります。実際にユーザーの声であっても、良い意見だけを掲載している可能性もあります。それでも私たちは、選ぶかどうかの決め手にしてしまいますよね。
売り手側の「これは良い商品です!」「すごくおいしいです!」という宣伝文句の裏には、より多くの利益を得たいという思惑があると誰もが気づきます。しかし、第三者の立場からの意見には利益が関わらないため、信用されやすいからです。
テレビ番組で、その町のタクシー運転手さんにおいしいお店を教えてもらうというものがありますが、あれも同じ理屈ですね。
こうしたユーザーによる「口コミ」の数が増えると、「バンドワゴン効果」が働きます。多くの人が注目する人気商品だと考え、自分も乗り遅れないようにしなければと、慌てて買ったりしてしまうのです。
一方、当然ながらコメントにはネガティブな意見も存在します。
「ウィンザー効果」は良いほうにも悪いほうにも働くので、第三者から聞いた「この商品は良くない」というマイナスのコメントにも大きな影響を受けてしまいます。
企業研修などで、外部の講師を招いて話をしてもらうケースがありますが、これも「ウィンザー効果」を利用していると言えるでしょう。
普段から接している上司からの言葉だからといって、部下がいつも素直に従うとは限りません。それが褒め言葉であっても「部下を扱いやすいように持ち上げているのだろう」などと思われるかもしれません。また、日常の関係性がうまくいっていないと個人的な感情が入り、「この人の言うことは聞きたくない」と思われることもあります。
同じ内容であっても、日常で利害関係のない人から聞くほうが信用できると感じるのです。
私も、部下が「研修で講師の方からすごくいい話を聞きました!」というので内容を聞いてみたところ、「それは普段から私もよく話していることなのになぁ……」と思ったことがありました。

■第三者経由で人を動かすテクニック
ここまで見てきたように、「ウィンザー効果」は仕事や人間関係で大いに役立てることができます。
先ほどのBくんの例のように、間接的に相手に好意や考えを伝えてもらう方法は、誰でも真似ができそうですね。
例えば、職場で部下や後輩を褒めて、やる気を引き出したいとき。
あなた(A係長とします)が直接「〇〇さんは、すごく頑張っているね。次のプレゼンも期待しているよ」と言うよりも、あなたの同僚などから「A係長が〇〇さんのことをすごく褒めていたよ。次のプレゼンも期待してるってさ」と言ってもらうほうが、部下や後輩は嬉しく感じるはずです。
逆に、自分について良い印象を持ってもらいたいと画策するのであれば、協力してくれる第三者から「〇〇さん(自分)は、やさしくていい人だ」などと話してもらうと効果的かもしれません。
伝えてもらう第三者の人選も重要です。コミュニケーション力が高く、話し好きな人、さらに「ウィンザー効果」を理解してくれている人であれば話が早いと思います。また確実に伝えてもらうためには、不自然にならない範囲で何度か同じ話をして印象に残すなども大事です。
同じ方法は夫婦やパートナー、親子関係などでも使えます。
「友だちのCさんがあなたのこと『いい旦那さんで羨ましい』って言ってたよ」
「先生が『◯◯くんは最近勉強を頑張ってるね』って褒めてたよ」
このように、「第三者から聞いた情報」として伝えると、相手はポジティブな気持ちになるでしょう。
逆に、ネガティブな話が第三者から相手に伝わると、よりダメージが大きくなってしまいますので、噂話や怒りに任せた暴言や悪口には気をつけてください。
「A係長があなたのこと『なかなか成長しない』って言ってたよ」
「お父さんがあなたのこと『ちっとも勉強しない』って怒ってたよ」
自分が知らないところで悪く言われると、とても不快ですよね。
良くも悪くも口コミが与える影響は大きいということを認識したうえで、相手を良い方向に動かしていける使い方を心がけましょう。
「ウィンザー効果」で第三者から好意を伝えてもらうことは、多くの場合プラスに働きますが、学生時代、友人から「近くの女子高の◯◯さんがお前のこと好きらしいよ」と言われたことがきっかけで、急に彼女のことが気になって勉強がまったく手につかなくなったことがあったなぁ……なんて懐かしいことを思い出しました。
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著者:橋本 之克
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●橋本 之克
行動経済学コンサルタント/マーケティング&ブランディングディレクター
東京工業大学卒業後、大手広告代理店を経て1995年日本総合研究所入社。自治体や企業向けのコンサルティング業務、官民共同による市場創造コンソーシアムの組成運営を行う。1998年よりアサツーディ・ケイにて、多様な業種のマーケティングやブランディングに関する戦略プランニングを実施。「行動経済学」を調査分析や顧客獲得の実務に活用。
2018年の独立後は、「行動経済学のビジネス活用」「30年以上の経験に基づくマーケティングとブランディングのコンサルティング」を行っている。携わった戦略や計画の策定実行は、通算800案件以上。
構成/DIME編集部