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「返報性の原理」とは?ビジネスも人間関係も「与えよ、さらば与えられん」が成功の鍵

2025.08.06

■企業も詐欺師も使っている「返報性の原理」

この「返報性の原理」は、あらゆるところで使われています。

わかりやすい例は、スーパー店頭での試食です。例えば、カルディコーヒーファームは、店頭でコーヒーの試飲サービスを展開しています。試飲してもらうことで、味を試してもらえるだけでなく、店内に長く滞在してもらうこともできます。

その際「無料で試食した」ことによる「返報性の原理」が働きます。何か買わなければ申し訳ないという意識が生まれて購買につながる可能性が高まります。

日用品の試供品提供や、化粧品売り場での美容部員による「お試しメイク」なども同じ原理で販売促進を狙います。

さらに手の込んだ方法もあります。

小学生くらいのお子さんがいる人は心当たりがあるかもしれませんが、ある通信教育企業は、お子さんの名前がプリントされた名前シールをダイレクトメールと一緒に送っています。また教材や鉛筆など、無料のサービス品も届けます。その狙いは、「返報性の原理」を利用して、入会や利用を促そうとしているのです。

大人の我々は、「タダより怖いものはない」という意識が多少ありますが、子どもはもらえるものに飛びつきやすいもの。ショッピングモールや住宅展示場などで行われる、無料の縁日イベントや抽選会にも、子どもは喜んで参加します。親が「子どもを楽しませてもらった」と感じれば、実質的な顧客である親の心に「返報性の原理」が働きます。

「返報性の原理」は、場合によって「悪いこと」にも利用されています。

例えば、「無料の厚意」をエサに相手からお返し(お金)を引き出す手法は、詐欺にも使われます。

私自身も経験があります。学生時代のアルバイト先に、丁寧に仕事を教えてくれたり、親身になって話を聞いてくれたりする先輩がいました。アルバイトが終わったあと、後輩たちに食事を奢ってくれることもあり、みなすっかり気を許していました。

ところがある日、「すごく面白いセミナーがあるんだけど、一緒に行かない?」と後輩たちを誘い始めたのです。「いつもお世話になっているし……」という気持ちからついていった友人に話を聞いたところ、怪しげな情報商材を売りつけるセミナーだったそうです。

いわゆるカルト宗教なども、こういった方法で勧誘しています。心理的バイアスの中には意図せずに働くものもありますが、こうした、悪い「返報性の原理」は、冷静な判断力と自覚を持って避けるようにしてください。

■セールス上の「無料の厚意」に人情は必要ない

「返報性の原理」は営業スキルとして確立され、活用されています。

有名なものとしては、「ドア・イン・ザ・フェイス」でしょう。これは本当の要求を通すためにまず無理な要求をお願いし、相手に断られたら、それよりも小さな本命の要求をするという方法です。「断って申し訳ない」という相手の感情を利用して、最も重要な要求を受け入れさせるわけですね。

こうした「スキル」を用いてくる相手に対して、断ることの負い目を感じる必要はありません。企業が行う無料のプレゼントなどに対しても、お返しをする必要はまったくないのです。

あくまで、相手が本当に求めるもの(=売りたい商品)を見抜くこと、それが自分にとって必要かどうかを見極めることです。ここでも大切なのは冷静な判断と言えそうです。

■まず「自分から与えること」から始める

このように、さまざまな場面で活用、悪用される「返報性の原理」ですが、うまく使えば、ビジネスでの成功やより良い人間関係の構築に役立ちます。

本項の冒頭で紹介した〝テイカー上司〟がさみしく去って行ったのは、返報性の真逆の行動をしていたからです。奪うだけ奪って何も返してくれないような人に、「何かをしてあげよう」とは思わないですよね。「あいつには何もしてやるもんか」という感情になるのが自然です。

また、「返報性の原理」の逆、つまり嫌なことをされると嫌なことを仕返ししたくなるという心理も実証されています。嫌みを言えば嫌みが返ってきたり、意地悪をすれば意地悪をされやすくなったりするのも、「返報性の原理」のなせるわざです。

人間関係をつくるための有効な方法として、「自己開示」というものがあります。

これは心理学用語ですが、意味は言葉どおり、ありのままの自分をさらけ出すことです。強みだけでなく弱みや過去の失敗なども含めて、自分自身に関する情報をありのままに伝えるのです。そうすると、相手も自分の情報を開示しようと考えます。

結果的に、親近感が生まれたり、緊張が緩和したり、信頼関係が構築されたりするなど、人間関係の構築につながります。

これもまた「返報性の原理」の活用ですね。

ビジネスで成功している人や、人間関係の構築がうまい人たちはみな、自ら与える〝ギバー〟の性質を持っています。

もちろん、無理をして自分の身を削る必要はありません。すぐに相手からのリターンが得られないこともあります。それでも先々の関係のための投資として、自分から「してあげる」ことを心がけられると良いと思います。

これはビジネスだけに限りません。あらゆる人間関係をより良くするために、他人に対して、こちらから与える姿勢を持つことは大切だと言えるでしょう。

新約聖書に由来する有名な「求めよ、さらば与えられん」という慣用句がありますが、「返報性の原理」においては、「与えよ、さらば与えられん」ということですね。

*10 『影響力の正体』(ロバート・B・チャルディーニ、SBクリエイティブ、2013 年)、Dennis T. Regan. Effects of a Favor and Liking on Compliance Journal of Experimental Social Psychology, 1971, 7, 627-639.

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●橋本 之克
行動経済学コンサルタント/マーケティング&ブランディングディレクター
東京工業大学卒業後、大手広告代理店を経て1995年日本総合研究所入社。自治体や企業向けのコンサルティング業務、官民共同による市場創造コンソーシアムの組成運営を行う。1998年よりアサツーディ・ケイにて、多様な業種のマーケティングやブランディングに関する戦略プランニングを実施。「行動経済学」を調査分析や顧客獲得の実務に活用。
2018年の独立後は、「行動経済学のビジネス活用」「30年以上の経験に基づくマーケティングとブランディングのコンサルティング」を行っている。携わった戦略や計画の策定実行は、通算800案件以上。

構成/DIME編集部

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