
私たちは日ごろ、「自分の意思で物事を決定して、最適な行動をしている」、「常にしっかり考えて選択をしている」、「自分の人生は自分でコントロールできている」と思いがちです。
でも実際は、そのときの状況や自らの感情、売り手側の巧妙な仕掛けなど、さまざまなバイアスに左右され、無意識のうちに誘導されています。
・「『限定』や『大人気』という言葉に弱い」
・「セール品に飛びついて後悔する」
・「ネット通販で買いすぎてしまう」
どれか1つでも当てはまるようなら、あなたの思考や行動はパターン化してしまっているかもしれません。
今回は、行動経済学コンサルタントの橋本 之克氏による著書『世界は行動経済学でできている』から一部を抜粋・編集し、行動経済学を「使えるツール」として日常に活かすヒントを紹介します。
【ザイオンス効果】「月1で3カ月」より「3日連続」のほうが好意につながる理由
■「よく見るもの」が気になるのはなぜか
熊本県のPRマスコットキャラクター「くまモン」を一度も見たことがないという人は、ほとんどいないのではないでしょうか。
くまモンのイラストがパッケージにプリントされた野菜やお菓子、ぬいぐるみから服飾雑貨まで、たくさんの商品が販売されています。この「いろいろなところで何度も見たことがある」と思わせる戦略も行動経済学の理論を活用したものです。
同じ人や物などに接する回数が増えれば増えるほど、その対象に対する好意度や印象度が上がる、という心理効果があります。行動経済学では、それを「ザイオンス効果」、または「単純接触効果」と呼んでいます。
営業などで新規開拓をしたい顧客に対して、あえて「あいさつだけでも……」とか「近くまで来たので……」などと口実をつくり、顧客と接する回数を増やそうとすることがあります。これにより相手の好意を得やすくなるのは「ザイオンス効果」が働くためです。

くまモンの知的財産権は熊本県が保有していますが、使用許可さえ得られれば、商用でも無料でくまモンを利用できます。
くまモンが県内外を問わずさまざまなところで使用され、一般の人々と接触する回数が増えていくことで、「ザイオンス効果」により好意度が高まります。これが本来の目的である熊本県のPRにつながっているのです。
他の自治体にもいわゆる「ご当地キャラクター」はたくさんいます。しかし、くまモン以外でパッと思い浮かぶ、名前や都道府県名がすぐにわかる人気キャラクターは、はたしてどのくらいいるでしょうか?
それほど、くまモン=熊本県という知名度と好意度は、日本全国の中でも圧倒的なのです。
「ザイオンス効果」の名称は、この効果を研究し、1968年に論文にまとめたアメリカの社会心理学者、ロバート・ザイオンスから来ています。
ザイオンスによる有名な実験があります。
見知らぬ他人の写真を2秒間ずつ何度か見せ、見せる回数によって「好意度」がどの程度変わるかを調べたところ、短時間であっても見た回数が増えるほど好意度が高くなることがわかったのです。
ただ、これだけでは写真の人物が「自分の好みのタイプか否か」によって、反応が分かれてしまう可能性もあります。
そこでザイオンスは、今度は意味のない「漢字のような形」を使って同じ実験をしました。日本人の私たちにとっては、漢字は「意味のない形」ではありませんが、ザイオンスをはじめ漢字文化圏以外で育った人たちにとっては、「何を表しているかわからない文字」です。
その結果、実験の被験者にとっては意味がない「漢字のような形」の場合でも、見た回数が増えれば増えるほど、その「形」に対する「好意度」は高まることがわかったのです(*5)。
