
「アグリテインメント」という概念が近年広がりを見せている。「Agriculture(農業)」と「Entertainment(エンターテインメント)」を掛け合わせた造語で、従来の農業体験にエンタメ性を加え、新たな価値を創出する取り組みだ。
農業の価値を再発見する機会に
「アグリテインメントが広がった背景には、SNSの普及があると考えています」と話すのは、『農園リゾートTHE FARM』を運営するザファームの広報SAM氏。千葉県香取市を軸にユニークな農業体験企画を次々と発信する企業だ。
「お客様自身がSNSで体験を発信してくれるようになり、その投稿が農園の広報活動になっています。農業体験に〝楽しさ〟の要素を加える工夫が効果的でした」
日本の農業は、高齢化による担い手不足や耕作放棄地の増加など、様々な課題を抱えているが、アグリテインメントはそれらを解決する可能性を秘めている。例えば、ザファームは耕作放棄地を農業体験ができるリゾート施設へと生まれ変わらせた。
「アグリテインメントの取り組みは、ただのビジネスというわけではなく、使われなくなった農地の有効活用や、地域の交流、人口流出の軽減など、地方が抱える課題解決のきっかけになっています」
都市生活者にとって、農業は日常から遠い存在になりつつある。アグリテインメントは、そんな現代人、特に若者が楽しみながら農業に触れる機会を提供している。
創意工夫を凝らした取り組みも各地で生まれている。『THE FARM』ではゴーヤの栽培棚を活用した巨大迷路や夜間の特別演出によるいちご狩りといった既存の枠を超えた企画を展開。ほかの事業者も、週末限定の小さな体験農園や、地域の祭りと連携した季節イベントを実施するなど規模や形態は多様だ。
こうした体験は若者の呼び込みはもちろん、子どもたちの食や農業への関心を高める教育効果もあり、農業の価値を再発見する機会となっている。アグリテインメントは農業の新たな可能性を切り拓く鍵となる。感動体験を通じ、魅力は次世代へと伝わっていく。
【DIMEの読み】
ザファームは日本テレビと資本業務提携を発表。各地域に密着して課題解決に取り組む各放送局の架け橋となり、今後はテレビ局と農業による新たな地方創生の共創関係が発展していくだろう。
『農園リゾートTHE FARM』によるアグリテインメントの例
農園を歩くきっかけになるゴーヤ迷路


300mに及ぶ巨大な迷路を歩くゴーヤ収穫体験。大人と子どもが一緒になって楽しみ、なじみのない野菜を身近に感じるきっかけを提供する。
収穫の楽しさを体験する世界初の大根クレーンゲーム!


昨年、参加者がクレーンに吊るされながら大根を引き抜く世界初の収穫体験を開催。大根には食事券などの特典がついており、収穫の楽しみが倍増する。
まるで星を摘んでいるようなナイトいちご狩り


夜の時間帯に着目し、星空をイメージしたイルミネーションの中で、幻想的ないちご狩りが楽しめる企画。拡散効果も高い。
アグリテインメントで実現する「農業の6次産業化」とは?
農業者が1次産業の生産、2次産業の加工、3次産業の流通・販売を一貫して手がける新たなビジネススタイルを6次産業という。農家の収入安定や地域活性化につながる取り組みとして、今注目を集めている。その中で、アグリテインメントは「農業の観光化」という側面で6次産業を発展させる役割を担っていく。

取材・文/宮﨑駿 編集/井田愛莉寿