
「注意したいのに、怖くて言えない」「パワハラと思われたら…」。問題社員への指導は、感情の整理が鍵になります。叱る前に自分の不安や迷いを言語化し、相手に伝わりやすい言い方を工夫することが、対話の糸口になります。
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「注意したいのに、言葉が出てこない」「叱ったら、“それ、パワハラです”って言われたらどうしよう」そんなふうに、伝えるべき場面で足が止まってしまうことは、ありませんか?
本当はきちんと伝えたい。けれど、怖さや迷いが先に立って、言葉にならない。そうやって、気持ちの整理がなかなかつかないことってありますよね。
この記事では、心理カウンセラーの視点から、「注意する前に、自分の心を整える方法」や「相手に伝わりやすい言い方の工夫」を紹介していきます。伝え方の技術も大切ですが、それよりもまず、自分の感情に丁寧に目を向けてみること。そこから、少しずつ対話の糸口が見えてくるはずです。
なぜ指導が難しく感じるのか──揺れる3つの気持ちとは?
部下に注意したほうがいいとわかっていても、いざ言葉にしようとすると、足が止まってしまう。これは、スキルの問題というよりも、心の中にある揺れ動く気持ちのせいかもしれません。ここでは、そんな代表的な3つの感情をご紹介します。
(1)恐れ
「言い方を間違えたらパワハラって言われるかも」「辞めるって言われたらどうしよう」。 そんな不安が頭をよぎると、伝えること自体がリスクのように感じてしまいますよね。 「もし自分の評価が下がったら?」「責任を問われたら?」そんな思いがブレーキになって、声をかけることが難しくなるのは、ごく自然なことです。
(2)無力感
「もう何回も言ってるのに…」「きっとまた同じことが起きるんだろうな」。 そんなふうに感じると、「言っても意味がないのかも」と思ってしまいますよね。過去の経験から「どうせ変わらない」と思い込んでしまうと、注意する気力すらわかなくなってしまうものです。
(3)罪悪感
「強く言いすぎたらどうしよう」「相手を傷つけてしまうかもしれない」。 人に対して誠実でありたいと思うからこそ、自分の言葉が相手にどう届くかが気になって、伝えることを躊躇してしまうこともあると思います。話し出したら感情的になってしまうかもしれない…そんな不安があると、「いまかな?いや、やめておこう…」と、結局何も言えずに終わってしまう、なんてことも。
感情を整える3つの問い──自分の気持ちと向き合ってみよう
自分の中にある不安や怒りを整理できないまま言葉にすると、そのトゲが相手に伝わって、防御的な反応を引き出してしまうことも。そうならないために、まずはひと呼吸おいて、自分の気持ちと向き合う時間をつくってみましょう。
問い(1):「いま、どんな感情が渦巻いている?」
不安、イライラ、あきらめ、責任感…どんな気持ちも否定せずに、紙に書き出してみましょう。全部吐き出すことで、自分がいちばん引っかかっていることが見えてきます。書いてみて初めて「ああ、自分はこのことに一番モヤモヤしてたんだ」と気づくこともあるはずです。感情が整理されてくると、不思議と心の中のザワつきが和らいできますよ。
問い(2):「相手のどこに困っていて、何を変えてほしい?」
次に、問題社員について、「どんな場面で、どんなふうに困ったのか?」を言語化してみます。たとえば、「業務の引き継ぎが不十分で、後工程の担当者が困っていた」など、行動ベースで整理してみましょう。「こうしてほしい」という願いが明確になると、伝える内容にもブレがなくなっていきます。感情よりも「具体的な困りごと」にフォーカスするのがポイントです。
問い(3):「これが改善されたら、どんなプラスがある?」
最後に、本人やチームにとって、どんな良い影響があるのかを想像してみます。たとえば、「業務がスムーズに進行する」「チームの雰囲気がよくなる」など。注意=嫌なこと、ではなく、未来のためのひと声だと捉え直すきっかけになります。「この先良くなるかも」と思えると、不思議と勇気も湧いてくるものです。
伝え方に悩んだときに試したい工夫
伝え方で迷ったときは、「どう言うか」よりも、「どう伝わるか」を意識してみましょう。責める言葉よりも、事実を一緒に確認することが大切です。
たとえば、遅刻を繰り返す社員がいる場合。こちらが毎朝ヒヤヒヤしている横で、相手は何事もなかったかのように席につく。「またか」と思いながらも、つい気を遣って、曖昧な声かけで済ませてしまっていませんか?
「今日、9:05に会社に来ましたよね。それで、朝一の会議が10分遅れてスタートしました」。このように、事実と影響を丁寧に伝えることで、「怒られた」と感じさせずに、状況を客観的に見つめ直すきっかけになってくれることもあります。感情をぶつけるのではなく、「この時間に来たことで、こういうことが起きたよ」と、鏡のように映し出すイメージです。
そこからは、問いかけを使って、相手の中にある答えを引き出していくのも良い方法です。
たとえば、
「朝の時間って、どんなふうに過ごしてる?」
「自分でも遅れるって、気になってた?」
「どうしたら、もっとスムーズにこれそうかな?」
問いかけることで、相手が「自分のこと」として考え始めると、行動が少しずつ変わり始めることも。こちらから答えを出すよりも、本人の中から出てきた言葉のほうが、行動へのエネルギーにつながります。「相手と一緒に考える場をつくる」そんなイメージを持ってみるといいかもしれません。
気持ちにフタをせず、整えてから伝えるという選択を
部下に注意をするのは、気を遣うものです。だからこそ、怒りや不安を飲み込んだまま伝えるのではなく、まずは、自分の気持ちを整理したり、ケアしてあげることが大事です。不安や恐れ、罪悪感といった感情は、見ないふりをしているとどんどん膨らみます。けれども、「どこが、どんなふうに」不安なのかを言葉にしていくと、少しずつその正体が見えてきて、不安は小さくなっていきます。気持ちが少し軽くなったら、「少し話してみようかな」と思える瞬間が、きっと自然に訪れるはずです。
文/高見 綾
心理カウンセラー|“質上げ女子”のお悩み相談。カウンセラー養成コースで豊富な臨床経験を積み、心の世界で学んだことを現実に活かすアプローチに高い評価をいただく。相談数4千超。著書は『ゆずらない力』(すばる舎)。
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