
安いことは、必ずしもいいことではない。1984年生まれの筆者は言わば「デフレの子」で、20歳前後の頃は「デフレスパイラル」の影響を真正面から浴びていた。
したがって、今現在のインフレは新鮮さすら感じる現象だ。モノがどんどん高くなっていく。これが経済学の視点からいいことなのか悪いことなのかは分かりかねるが、ともかくカップ麵が98円で買えた時代は過去の光景になったことは理解できる。
そんな中、スマホで知られるOPPOが『OPPO Enco Buds3 Pro True Wireless Earbuds』(以下『Enco Buds3 Pro』)という製品を6月に発売した。その価格は、何と3000円以下。こ、これは得体の知れない粗悪品と同程度の価格設定じゃないのか!?
しかし、あのOPPOが粗悪品など発売するはずはない。ここは実際に購入して、そのパフォーマンスを検証しようではないか。
ガジェットの進化=低価格帯製品の進化
7月13日現在、Enco Buds3 ProのAmazonでの価格は2980円。その上で10%オフのクーポンが付与される。
これが2010年代であれば、3000円以下のワイヤレスイヤホンに期待をかけるべき部分は何もなかった。今から10年前、筆者がライター稼業を本格的に始めたばかりの頃は、安いワイヤレスイヤホンはまったく使い物にならない代物だった。それは動画を視聴すればよく分かることで、とにかく音ズレが著しい。「安かろう悪かろう」をそのまま体現しているかのような製品だ。
しかし、今やそれも昔話。Enco Buds3 ProはBluetooth5.4対応、IP55防塵防水性能を備えつつ、充電ケース込みで最大54時間の再生が可能というスペックを持っている。対応コーデックはAAC/SBC、そして2台同時接続機能も有している。アプリでゲームモードをオンにすれば、47msの低遅延に切り替えることもできる。
もう一度書くが、これが2980円である。ガジェットの進化とは、つまるところ「低価格帯製品の進化」と同義だ。
世界史を変えた名曲を聴く
が、ワイヤレスイヤホンは何と言っても音質が肝である。
Enco Buds3 Proはチタニウムコーティングを施された12.4mmダイナミックドライバーを搭載し、迫力のある低音をもたらす……と筆者の手元の資料には書かれている。同時に、SHTW銅コイルを内蔵することでクリアな高音を実現しているともある。それは本当だろうか?
というわけで、試してみよう。
Enco Buds3 ProをiPhoneに接続し、選んだのはジョージ・ハリスンの『Bangla Desh』。世界史を大きく変えた曲である。
今現在は「バングラデシュ」と呼ばれている国は、かつて「東パキスタン」という名前だった。インドを挟んだ西パキスタンと同じ国家だったのだ。このあたりの地域がイギリスから独立する際、単純に「イスラム教徒が多数派の地域を一つの国とした」ため、極端な飛び地国家が登場してしまった。
しかし、西パキスタンは1970年のボーラ・サイクロンで甚大な被害を被った東パキスタンの救援には殆ど無関心の態度を取った。これが東パキスタンの人々の怒りを買い、パキスタンに対する独立闘争が始まったのだ。
「この地域はもはや“東パキスタン”ではなく、“バングラデシュ”だ!」
そう呼びかけ、世界初の大規模チャリティーコンサートを開催したのがザ・ビートルズのメンバーだったジョージ・ハリスンである。1971年8月1日、NYマジソンガーデンスクウェアでのイベントだ。
出演者の顔触れは実に豪華だった。ジョージの盟友リンゴ・スター、ボブ・ディラン、エリック・クラプトン、ビリー・プレストン、クラウス・フォアマン、レオン・ラッセル等々。彼らはノーギャラ出演である。必要経費以外はみんな寄付金に充てるというチャリティーコンサートは今でこそ珍しくないが、これを歴史上初めて大々的に実行したのがジョージだったのだ。
このコンサートの収録はアルバムとして発売され、世界的大ヒットを記録した。同時に、「バングラデシュ」という国名が世界に知れ渡るようになったのだ。
そんな名盤をEnco Buds3 Proで聴いてみると、ジョージの声とシタール(北インドの伝統楽器。このコンサートがきっかけで、ロックファンの間で知られるようになった)の音色がくっきり再現されていることが確認できる。どうも中音域がこの製品の持ち味のようだ。一方、低音が若干弱い気がする。ドライバー径がだいぶ大きいため、低音もドンドンと響いてくれるものだと思っていたが……。
東京からロスまで行っても余りあるスタミナ
iOSの場合は『HeyMelody』というアプリが用意され、それをダウンロードすればOPPOのワイヤレスイヤホンをコントロールすることができる。
いささか低音が物足りない……と筆者の耳は感じたので、オーディオエフェクトを「Bass Boost」に設定してみる。すると、僅かではあるが確かに低音の響きが良くなった。
Enco Buds3 Proにはノイズキャンセリング機能はなく、上記の音質も鑑みるとそのパフォーマンスは「1万円以下のワイヤレスイヤホン」である。極端に優れた部分、性能的に突出した部分はないが、「及第点の結晶」を3000円にも満たない価格で市場投入したことに大きな意義がある。要はそんな製品だ。
が、イヤホン単体で12時間、充電ケースを加味すると54時間の再生時間という点は「素晴らしい」の一言だ!
東京からロサンゼルスまでの飛行時間は、約10時間。太平洋を横断するとしても、まだ余りあるスタミナを発揮するというわけだ。
オーディオ機器として決して一流のスペックを持っているわけではないが、それでも必要な部分は概ねカバーしている「器用な子」、それがEnco Buds3 Proである。
【参照】
Enco Buds3 Pro-OPPO
「OPPO Enco Buds3 Pro True Wireless Earbuds」が6月26日(木)から販売開始-PR TIMES
文/澤田真一
インフレ時代の最適解!OPPOが4万円台のAI搭載スマホを実現できた理由
「これがインフレーションというやつか」とため息をつく毎日である。 コメの価格はようやく少しずつ下落してはいるが、日本人は何もコメだけを食べて生きているわけではな…