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DMO「熱海観光局」や「宿泊税」など熱海市の〝持続可能な観光〟の実現に向けた取り組み

2025.07.19

旅先での観光や食事、宿泊は人々を幸せな気持ちにしてくれる。日常生活を離れ、リラックスやリフレッシュ、新たな発見ができる旅は、人々のウェルビーイング向上に欠かせないイベントだ。

バブル経済崩壊後の観光客落ち込みから“奇跡の熱海”へ 

温暖な気候と豊富な温泉で知られる観光都市・熱海。静岡県にありながら、東京駅からは電車で約1時間45分、新幹線では約50分と短時間で移動することができる。高度経済成長期の1960年代半ばには、新婚旅行や慰安旅行の地として年間500万人以上が宿泊するほど人気観光地に。その後バブル経済崩壊後に急激に観光客が落ち込み、2006年には「財政危機宣言」を発出。宿泊者数は11年に246万人まで落ち込んだ。

人気観光地・熱海/写真提供:熱海市役所

しかし観光需要回復に向けた取り組みの強化などが行われ、12年から宿泊客数は回復し始め、近年では300万人台を推移している。

市内では源泉が豊富に湧き出て、多くの旅館やホテルで温泉を楽しむことができる他、昭和レトロな街並みを残した熱海銀座商店街も人気だ。

豊富な源泉で温泉も満喫できる/写真提供:熱海市役所

相模湾に面し、熱海サンビーチや長浜海水浴場など美しい海も魅力。海水浴やマリンスポーツはもちろん、海岸沿いの散策や海を眺めながら食事を楽しむこともできる。

美しい海岸線も魅力/写真提供:熱海市役所

また新鮮な魚介類を使った海鮮丼や、干物や練り物、熱海プリンや温泉まんじゅうなど名物やスイーツも盛りだくさんだ。

新鮮な海鮮たっぷりの初島丼/写真提供:熱海市役所

危機状態から回復を見せ“熱海の奇跡”を起こした熱海市。今年の4月にはDMO(Destination Management Organization/観光地域づくり法人)の「熱海観光局」が始動し、静岡県初の「宿泊税」が導入されるなど、観光業へ更に力を入れる。今回は、熱海市長の齊藤栄氏にDMO「熱海観光局」や「宿泊税」について話を聞いた。そこには、観光客だけでなく「熱海で観光業に従事する人々」の“ウェルビーイングな状態”を目指す思いがあった。

観光の専門人材や各分野のプロを取り入れた官民一体の新しい組織・DMO

齊藤栄熱海市長

DMOは「観光地域づくり法人」とも呼ばれ、官民が連携して観光地域を形成し、活性化させるための組織のこと。4月に始動した「熱海観光局」では、JTBから静岡県観光協会へ出向していた上田和佳氏を初代CEOに起用。熱海市と連携して観光についての効果的な戦略などを提案し、観光振興に取り組む。

――熱海市でDMO「熱海観光局」を立ち上げるに至った経緯を教えてください。

齊藤栄熱海市長(以下、齊藤)「まず世界の主要な観光都市では、今はDMOという組織が主流になっています。典型的なのはハワイですが、観光についてのマーケティング、事業開発などの専門家がいて、かなり大きな組織として動いています。

DMOは官民が1つになった新たな組織です。そもそも、『観光とは誰がやるものなの?』ということなのですが、日本にはそれぞれの自治体に観光課や観光協会などがあります。熱海市にも観光協会はありますが、観光施策の立案は市が主体となってやっています。でも、市役所の職員は観光のプロではないんですね。『観光課の職員だったら観光のプロだ』と思われがちですが、数年で人事異動もしてしまう。マーケティングやビジネスの専門家ではありませんし、観光を体系的に学んでいるわけではありません。

DMOで一番大切なのは『観光の専門人材を活用する』ということです。観光のプロを起用して、そこと行政が手を組む。DMOが観光を行うのが世界の潮流であり、熱海市もこういう(官民が協力する)組織が必要だと考え、『熱海観光局』を立ち上げることになりました」

――「熱海観光局」の初代CEOはJTB出身の上田和佳氏になりました。

齊藤「2024年の夏に全国公募して74人応募がありました。最終的に5人に絞り、最終面接は私もやらせていただいて、上田さんになりました。意外だったのは、74人のうち観光の専門家はごく一部で、金融や事業開発の方、経営者の方、コンサルティング系の方などが多かったことです。結果的に上田さんを採用させていただいて、市からは課長級と係長級の2人を派遣しています。今後さらに、マーケティングや事業開発の専門人材をあと2人は採用したいと思っています」

7年越しで実現した「DMOと宿泊税のセット」国の補助金に頼らず10億円の予算を確保

4月にDMOが発足し静岡県初の宿泊税も導入した熱海市

――熱海市では同じ4月に、静岡県で初の宿泊税も導入しました。DMOは一般的に補助金で運営されますが、「熱海観光局」は宿泊税で運営するとお聞きしました。

齊藤「宿泊税は1人1泊200円。熱海のDMOの特徴は、宿泊税とセットになっているという点です。基本的にはこの財源でDMOの事業費、人件費、家賃、光熱費などを賄っていきます。

去年の熱海の宿泊者数は306万人ですが、この数字は入湯税をベースとした数字です。温泉を利用した方から入湯税150円をいただいているのですが、温泉がなくても宿泊できる場所はあります。例えばビジネスホテルは、温泉がないところが多いですよね。入湯税は『温泉がない施設』からはいただきません。しかしこれからは、宿泊税200円をいただきます。

1人1泊200円で年間約7億円の宿泊税になります。その7億円に、入湯税の半分ぐらいと、更に一般財源も1億円弱入れると、約10億円になります。現在の熱海市の年間の観光予算が約4億5000万円なので、10億円だと倍増です。この10億円すべてをDMOが使うのではありませんが、この10億円の中で例えば観光施設をリニューアルするとか、新しい観光コンテンツを作るとか、観光投資ができるようになります。宿泊税を主な財源にしたDMOは日本初だと思います」

――補助金に頼らないで運営できるのは画期的ですね。

齊藤「DMOは国から補助金や交付金がもらえるので、今まで観光協会だったものが、看板を掛け替えて『DMOだ』と言っているところも少なくありません。最初は国からの補助金や交付金で動けるのですがで、それもずっと出ないわけです。新しくDMOを立ち上げると、CEOの給料、オフィスの賃料も発生します。そういった財源がきちんと確保されていない状態で補助金が出なくなると、その後行き詰まってしまいます。『熱海観光局』の場合は主として宿泊税で運営するという、日本で初めての仕組みです」

――齊藤市長はもともとDMOと宿泊税をセットで考えられたのですか?

齊藤「そうですね。最初からずっとセットで考えていました。私は市長になって今年で19年目になりまして、今5期目です。実はDMOと宿泊税は平成30年(2018年)の4期目の選挙公約でした。私が掲げたのは『持続可能な観光』です。『持続可能な観光の新しい仕組みを作りたい』という思いで、2年くらいかけて宿泊税やDMOを勉強しました。そして、『よしこれから実行するぞ』となった時、令和2年(2020年)にコロナがありました。緊急事態宣言が出され、むしろ『熱海に来ないでください』という状況になり、そのような状況で新しい税の導入は考えられませんでした。その翌年の令和3年(2021年)7月3日には熱海の伊豆山で土石流が起こり、28名が亡くなるという甚大な災害となり、DMOや宿泊税の導入はストップせざるを得ませんでした。

このように、令和2年から4年間ほど、『構想はあっても実行できない』という状況でした。平成30年の選挙公約の時から私は『DMOと宿泊税』とセットで考えていましたが、去年(令和6年)2月の議会で宿泊税条例が可決され、この令和7年の4月に、7年かけてようやく実現しました」

働く側の待遇改善も重要「従業員が『熱海で働くことに憧れる観光業』を実現させたい」

7年越しで「DMOと宿泊税」のセットが実現

――ようやく実現したDMOと宿泊税ですが、周囲の反応はいかがでしたか。

齊藤「やはり懐疑的な声もあったと思います。“DMO”という英語が3つも並ぶだけで、『なんだそれは!』みたいな拒否感を示す方もいました。日本語に訳しても『観光まちづくり法人』なので、市役所や観光協会があるのに『なぜ必要なんだ』という意見もありました。

ただ、市の職員は決して観光のプロではないので、専門家を中心に据えて、市も一緒になってやる“新しい組織”が必要なんだということを、議会にも業界の皆さんにも伝えていきました。観光予算の使い方もこれまで権限は市にありましたが、これからは基本的にはDMOが考えます。もちろん勝手に考えるのではなくて、複数ある観光協会の声や業界の声、議会の声、そして市民の声もきちんとお聞きし、民の声をしっかり反映して方針を作ります」

――約10億円の予算を観光のために使えるようになりますが、齊藤市長が熱海市の観光業に対して感じている課題はありますか。

齊藤「いくつかありますが、1つは人手不足。“観光に従事する側”が足りていない。ホテルや旅館は人対人のサービスですので、ロボットやコンピュータでは満足度の高いサービスはできません。予約対応などはできますが、観光業は基本的に対人サービスですよね。ホテルや旅館の従業員さんの確保ができないので、『1週間のうち水曜だけはクローズします』というようなところがありましたね」

――せっかくお客さんが来ているのに、営業できないと。

齊藤「そうです。大きな機会損失ですよね。ただ、私が考える問題の根本は、『多くの人が働きたいと思う業界になっていない』ことにあると思っています。なぜ人が集まらないのか?――例えば海外に行って外国語ができる。あるいはマーケティングを勉強した。そういう人が能力を発揮できて、しかもその対価をきちんともらえる業界になっているかと言うと、私は必ずしもそうなっていないと思います。そのことが給与水準に端的に表れている。世界的に見ても、日本のサービス産業は生産性が低く、それに伴って給与水準が低いと言われています。その中でも私は、特に観光業というのは残念ながら、低いところで甘んじていると感じています」

問題の根本は観光業従事者の待遇にあると語る熱海市長

――観光業に従事する人々の待遇も変えていかないといけないのですね。

齊藤「今回のDMOの目標として、例えば宿泊客数を増やすことも重要ですが、1人1人の客単価を上げることが重要です。でも、単価を上げる為には当然、サービスレベルを上げなきゃいけない。その為には、投資もしなければいけないわけですね。『今までと同じホテル』で単価を上げでも、お客さまは来ないですよね。投資もして、サービスもさらに良くなって、『このクオリティとサービスであれば払ってもいいな』と思われなきゃいけない。

そういうことを街全体で取り組んで収益を上げる。それを従業員さんにしっかりと還元する。基本的にはそこが本質だと私は思っています。別の言い方をすれば、そのモデルをこの熱海から作りたいです」

――熱海の観光業で働く人々が安定することが最もベースにある部分なのですね。

齊藤「きちんと従業員さんを大事にする。従業員さんが『熱海で働くことに憧れる』。そういう観光業をスタートさせたい、実現させたいという思いが根本にあります。私は市長ですから、熱海で働く多くの市民や、ここで働くために移住してきた“熱海に住まう人”を幸せにするのが仕事です。発想の原点はここにあります。働く人が豊かになれる、そういう観光業にしたいと思います」

観光業に従事する人がウェルビーイングな状態で働けること。そこが整ってこそ、観光業の発展や、訪れる人々の幸せにつながっていくのかもしれない。DMO「熱海観光局」の今後の取り組みに注目が集まる。

取材・文/コティマム 撮影/横田紋子

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