
この@DIMEではすでにスズキから2025年年内に発売される予定のスズキ初の電気自動車、コンパクトSUVのeビターラの概要についてお伝えしているが、ここではそのプロトタイプに袖ケ浦フォレストレースウェイで試乗したインプレッションをお届けしたい。
2WDと4WDモデルの違いは?
EV×SUVのeビターラは全長4275×全幅1800×全高1640mm。ホイールベース2700mm。そして最小回転半径5.2mという、日本の路上でも扱いやすく取り回ししやすいボディサイズ、小回り性の持ち主で、2WDと4WDが用意される。ちなみに一回りコンパクトなフロンクスは全長3995×全幅1765×全高1550mm。ホイールベース2520mmというサイズになる。
スズキ、トヨタ共同のZEVファクトリーで開発されたとされるEVパワートレインは、モーターとインバーターを一体化した、”リン酸鉄”リチウムイオンバッテリーを採用した高効率のeAxle。2WD用の49kWh、106kW、および61kWh、128kW、そして前後独立の電動アクスル(eAxle×2)を用いたALLGRIP-e採用の電動4WD用として61kWh、135kW(F:128kW、R:48kW)の3種類のバッテリーパックを用意するが、ここでは総電力量61kWhの2WDと4WDのプロトタイプに試乗することができた。ちなみに0-100km/h加速データは61kWhモデルの場合、2WDが8.7秒、4WDが7.4秒とのこと。
まず、2WDモデルに乗り込めば、メーターとセンターディスプレーが連続、一体化するインパネデザイン=インテグレーテッドディスプレーの先進感が印象的。ピアノブラックパネルを多用しているところも上級感の演出に効果的と言っていい(指紋や汗の付着は目立つが)。Dシェイプの大径ステアリングもそうした印象に拍車をかける。そのDシェイプデザインはメーターの視認性と運転席乗降性への配慮であることはもちろんだ。そして2段構えのインパネ中央下部の大きめのハザードスイッチの下にあるのがエアコン操作の物理スイッチ。スズキのクロスビーに採用されているのと似ていなくもないメカニカルさをアピールするデザインだ(無論、パーツはクロスビーとは別物)。
センターコンソールには奥からカップホルダー、Pレンジボタン、ロータリー式シフトセレクター、もっとも手前に電子パーキングブレーキ&オートブレーキホールドスイッチが並び、右側にドライブモード、悪路脱出用のトレイルモード(4WD)、左側にヒルディセントコントロール(4WD)などのスイッチが配置されている。
スポーティな形状のシートのかけ心地も個人的には”感動ポイント”だった。試乗車はファブリックと合皮のコンビシートだったのだが、座面のたわみ、腰回りの自然なホールド感、背中の当たりの心地よさが際立っていたからだ。
加速はジェントル、乗り味はドイツ車的?
ダイヤルセレクターでDレンジにセットし(ドライブモードはデェフォルトのノーマル)、2WDモデルで走り出せば(ストレート100km/h、その他の区間80km/h制限だった)、全方向の視界、本格SUVの機能ともなりうる車幅感覚のつかみやすさは文句なし。パワーステアリングはけっこう重めのタッチだが操舵感はスムーズで、シートのかけ心地の良さと合わせて、マイルドで重厚な心地よい乗り心地を確認。意図的にサーキットのゼブラゾーンの段差に乗せても、ショック、乗り心地の悪化は軽微で、ボディ剛性の高さを実感することになった。
加速力はけっこう穏やか。EVには出足の飛び出し感ある強力なモータートルクの出方を示すモデルもあるにはあるが、eビターラはその点、ジェントルと表現していいアクセルレスポンスを示し、ジワジワと速度を上げていくタイプに思えた。
サーキットのコーナーでは、ロールはそれなりだが、例のシートの自然なホールド感の良さから、上半身が不快に左右に揺すられることはない。ステアリングは悪路走行にも配慮したと思える穏やかなレスポンス、設定ながら、フットワークテイストはどっしりしていながら素直で軽快。EVならではの低重心が効いているのを強く実感できるシーンでもある。スタビリティの高さもなかなかで、サーキットのカーブでもリアがしっかりと追従。終始、安心感あるドライビングを楽しめた。
最高速度100km/hに制限されたストレート区間では、ステアリングフィールの据わりの良さを含めドシリとした安定感を示し、サーキット走行とはいえ、「これなら長距離の高速走行でも安心感、安定感があり、疲れにくいだろう」と思わせてくれたのだった。乗り味としては、スズキが欧州でも勝負しているコンパクトカー同様、ドイツ車的なテイストを披露してくれるのだ。
もちろん、車内の静かさもEVならでは。EVで気になるのは主にロードノイズということになるが、サーキット路面の走行だから、リアルワールドでのロートノイズについては言及できないものの、18インチタイヤのロードノイズは上手に抑えられている・・・という印象を持てた。
F:128kW、R:48Kwのバッテリーパックを備えた4WDに乗り換えれば、低中速域でのパワーフィールで2WDモデルを上回るのは当然。ただ、こちらも加速感はジェントルで、血の気が引くような加速力を示すわけではない。4WDの動力性能に余裕が見られるのは主に低中速域であり、サーキットのストレートで100km/hまで加速した高速域では2WDと4WDの大きな動力性能差は感じにくかった。
一方、4WDの走りの重厚感、濃密感は車重増もあって一段と濃厚になり、2WDモデルで感じられたドイツ車的テイストはさらに高まっている。全車18インチタイヤを履く乗り心地は2WD同様にドシリとした快適感の持ち主と言っていい。サーキットのコーナーでは重めのパワーステアリングが功を奏し、ステアリングの手ごたえの良さが安心感に直結。4WDの巧みな制御、リアスタビライザーの装着もあって、安定感とリニアさある挙動を味わせてくれる。国内では雪国に住むスズキファンも多いと聞くが、最低地上高185mmによる走破性の高さもあり、またEVの弱点でもある低温時の対策もしっかりと施されているから、雪国のユーザーでもEVを選びやすいのがeビターラということになるだろうか。もちろん、4WDモデルは雪国の住人ではないユーザーにとっては、悪路、雪道を含めたオールラウンダーなEV×SUVとして活躍してくれるに違いない1台と言える。
ドライブモードについては、エコ、ノーマルでも穏やかながら必要十分以上の加速力を示してくれるのだが、真打ちはスポーツモードのように思えた。というのは、エコ、ノーマルモードの加速力は決して遅くはないものの、スポーツモードはモーター駆動による瞬発力あるパワー、トルクの出方、レスポンス、静かにして伸びやかな加速感という点で、これぞ「EV」という動力性能をより明確に発揮してくれたからである。また、いわゆるワンペダル走行のイージードライブは「低」「中」「強」の3段階を備えるものの、最大0.15Gを発揮するという「強」でも日産のワンペダルのような強い減速、停止まで行うわけではない。逆に言えば、混雑した市街地(「低」「中」)や山道(「強」)で、ワンペタル初体験のユーザーでも違和感なく使えるスムーズさがある。現状、パドルシフト(回生セレクター)はコストダウンのため備わっていないが、開発陣によると採用の可能性アリとのことだった。
ところで、eビターラのパッケージングだが、身長171cmの筆者のドライビングポジション基準の実測で前席頭上に最大170mm、後席頭上に120mm、膝周りに最大230mm(160mmのスライド機構付き。最小60mm。2段のリクライニング機構付き)。足元には余裕があり、フロアがフラットだから足の置き場には困らないものの、サンルーフ装着車ということもあり、後席頭上方向に余裕はなく、高身長の人だとやや窮屈かも知れない。加えてフロアからシート座面先端までの高さ=ヒール段差は約320mmしかなく(フロンクスは約360mmで着座性、立ち上がり性ともに良好)、体形によっては膝を立てる着座姿勢になりうる。また、フロアは本格SUV並みに高めで、後席サイドシル地上高は約460mmだ(新型スバル・フォレスターやトヨタbZ4Xとほぼ同じ)。
参考までに一回りコンパクトなスズキのSUVフロンクスは前席頭上に最大180mm(+10mm)、後席頭上に105mm(-15mm)、膝周りに最大210mm(-20mm)。一回り大きいトヨタbZ4Xは前席頭上に最大180mm(+10mm)、後席頭上に120mm(±0mm)、膝周りに280mm(+50mm)となる。
ラゲッジルームは実測で開口部地上高770mm。開口部段差なし(重い荷物を出し入れしやすい)。フロア奥行670~830mm(後席スライド位置による)、フロア幅990mm。最低天井高655mm。後席格納時フロア長1345~1505mmとなる。床下にも仕切り付きの収納スペースがあるから使いやすい。

そんなeビターラだが、ちょっと気になる細かい部分がいくつかあった。一つ目はピアノブラック仕上げのセンターコンソール上面だ。カップホルダーから飲み物を取る際、左手を預ける際、この季節の暑さで腕に汗をかいていると、実際、それがべったり付着。ピアノブラック面の汗汚れが気になった(指紋も目立つだろう)。つぎにデザイン性あるメーター周りだが、ドライブモード表示がメーター左下に小さくあるため、視認性に欠ける点を挙げたい。できれば速度表示の下に移動してくれれば見やすく、嬉しい・・・。
ところで、試乗当日は30度越えの猛暑日。走り出しても車内はかなり暑い。どうやらエアコンの設定がうまくいっていないようだ。そこで物理スイッチでエアコンをAUTOにしようとしたのだが、見当たらない・・・。その設定方法を聞かずに走り出したボクも悪いが、整然と並ぶ操作しやすい場所にあるエアコンスイッチにAUTOスイッチがないことに困惑。よって、汗だくのサーキット試乗となった。後で聞けば、エアコンのAUTOスイッチはディスプレー内にあるということなのだが、この仕様はなはだ疑問である。
最後は、スズキ初のAC100V/1500Wコンセントの用意について。それはセンターコンソール後端の後席部分に備わるのだが、その代わりに後席エアコン吹き出し口は備わらない。たしかにAC100V/1500WコンセントはHVやPHEVでは、エンジンがあるためバッテリーに充電でき、ガソリンが入っている限り便利で安心して使えるのだが、EVの場合はそうはいかず、バッテリーが減るだけで心配。例えば山奥のキャンプ場で簡易電子レンジや湯沸かしポットなどを使っても、バッテリーを使いきってしまうことは保護制御によってないだろうが、バッテリー残量が減り、充電スポットが遥か遠い場所にある場合はシャレにならない。むしろここは、フロンクス同様にインド仕様にあるエアコン吹き出し口を採用したほうが、後席の快適性の点でも実用的ではないだろうか。その点を開発陣に投げると、その両立はセンターコンソール後端のスペース的に、コストもあってどちらかを選ばざるを得なかったと説明された。スズキ初のEVだけに電動車のみの装備となるAC100V/1500Wコンセントを優先したことは想像に難くないが、昨年、今年ともに日本全国で10年に1度とも言われる夏の酷暑に見舞われる日本では、後席エアコン吹き出し口の装備と、ラゲッジルームの設置もアリなAC100V/1500Wコンセントとの両立!?が望ましいと進言しておいた。
そんなスズキのEV×SUVのeビターラ。細かい点の気になる部分はともかく、61kWhモデルの2WDで500km以上、4WDで450km以上という一充電航続距離(WLTCモード)の安心感、スズキ最新の先進運転支援機能の搭載(フロンクスに準じる)を含め、完成度の高さはなかなかと言っていい。あとは価格だ。スズキのラインナップとしてはかつてない高額価格帯となるわけで、2025年内に発売されたとき、補助金を含め、戦略的な価格設定になるのかが注目される。
文/青山尚暉
写真/スズキ 青山尚暉
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