
2022年11月、DAISOからTCG『蟲神器(むしじんぎ)』が発売された。累計販売数は1000万セットを超え、一時は入手困難な状況に。なぜ、これほど熱狂的な盛り上がりを見せているのか。『蟲神器』を手がける大創出版・代表取締役の西田 大さんに成長の過程を聞いた。


DAISOの子会社である大創出版では、これまで書籍や玩具などの企画制作・販売を行なってきた。トレカの開発に至ったのは、商品の幅を拡大することが目的だったと西田さんは話す。
「元々はトレカを開発しようという明確な目的があったわけではありませんでした。社員からの誘いがきっかけで、人狼やボードゲームなどのアナログゲームに興味を持ちはじめ、展示会やボードゲームカフェに足を運ぶようになったんです。ゲーム市場の盛り上がりを肌で感じ、クリエイターをスカウト。いくつかボードゲームを作ってみることにしました。と言ってもまだ認知度が低かったため、企業とコラボを考えました。それが話題となり、ほかのゲームも売れるのでは……と考えるようになったんです」。
その後、パズルや謎解きなどのゲームも企画・開発していった西田さん。いくつものボードゲームカフェを訪れ、詳しい方とのつながりも増えていったという。徐々にトレーディングカードへの興味も高まっていたものの、周囲からは「TCG開発はシステムの構築が難しい。労力がかかり継続するのも大変だからやめておいたほうが良い」と助言されたという。「私はできるんじゃないの?と思っていたので、『できそうな人を探そう』と発想を転換しました。そもそも110円で販売する商品開発をこれまでも行なってきたので、トレーディングカードに限ったことではなく、すべての商品に難しさがあるんです。そこでへこたれている場合じゃないなと。できなかったら仕方ない、当時はそんな気持ちでした。何度か頓挫しましたが、最終的にはゲームクリエイターのNIZAさんと一緒にやることに決めたんです」。

そして2019年に企画がスタート。調査を含め、開発には約3年を費やした。
「私自身、昔はゲームで歴史を学んだ経験があり、『学びの要素を入れたい』とずっと思っていたんです。はじめは、生物をテーマにしたトレーディングカードを考えていましたが、NIZAさんから『虫のほうが絶対に良いと思います!』との提案を受け、方針を転換しました。子供の頃って、カブトムシやクワガタムシがカッコよかったですよね。虫を愛でる文化は日本特有ですし、虫をテーマにすることにしました」。
1デッキ20枚のカードで遊べるのは、ほかのトレカに比べても圧倒的に少なく、かつスターターキットに2デッキが入っていることもほとんどないという。「『蟲神器』は買ってすぐに2人で遊べるように、2デッキ分40枚入りにしました。社員からは『本当に2デッキ分100円でやるんですか?』と言われましたが、『すぐに遊べないと不親切じゃない?』と押し切りましたね」。
そうして発売された『蟲神器』は大ヒットを記録。販売後の反響について、西田さんはこう話す。「一時は入手困難な状況になり、ブースターパックは次回の入荷予定も伝えられないほどでした。1人1パックまでと制限を設けた時期もありましたね。その時は蟲主が店頭で空箱のことを『抜け殻』と表現していて心苦しかったです」。
ゼロイチで大ヒットTCGを生み出した西田さんだが、まだ成長の過程だという。
「『蟲神器』は、まだ幼虫です。これからもどんどんプレイヤー数を増やしていきたいですね。そのためにも、まずはシンプルで面白いゲーム性を維持することが大切です。面白くしようとすると、ゲーム性がどんどん複雑になってしまうことがあります。優しいところがないといけないなと考えているので、バランスの調整を開発チームに依頼しています。今後第6弾、第7弾を発売していくとなると、今とは違う考え方が必要になるのでタイミングも含めて慎重に進めないといけません。すでにいくつかアイデアもありますが、少しずつ実現していきたいですね。『蟲神器』が〝初めて遊ぶトレカ〟という位置づけになってくれたらうれしいです」。

(注)第1弾を100として指数化
第5弾発売から10日間の販売数は、第1弾に比べると4倍以上まで増加! 認知度・ユーザー数ともに増え続けていることがわかる。
※DAISO調べ
取材・文/久我裕紀 撮影/大崎あゆみ
© Daiso Publishing All rights reserved.