
パナソニックがフルサイズミラーレスのハイエンドモデルとして投入した「LUMIX S1RII」は、新開発の有効約4430万画素のセンサーと新画像処理エンジン「L² Technology」を搭載し、静止画・動画の両方で高い性能を発揮する最上級機である。本機と組み合わせて実写したのは、標準ズーム「LUMIX S 24-60mm F2.8」と、柔らかなボケ味が魅力の中望遠単焦点「LUMIX S 85mm F1.8」。高精細センサーとの相性も含めて、その描写力を写真家・小平尚典氏と共に表参道で検証した。
高解像度と豊かな階調を両立したセンサー性能
「S1RII」のセンサーは、有効約4430万画素フルサイズ裏面照射型CMOSイメージセンサーと、新世代の画像処理エンジンにより、ベース感度はISO80で、高感度ISO6400前後でもディテールを残した描写が可能となっている。ビルの壁面の窓枠、街路樹の葉の重なり、金属の反射といった微細な情報も破綻なく写し取れた。
ハイライトの粘りも良く、特に逆光の人物撮影では顔の階調がしっかりと残る。JPEG撮って出しでも十分な完成度を誇っており、編集なしでも作品レベルの仕上がりが得られた。
「手持ちハイレゾショット」は実用域に到達
注目すべきは、手持ちでの「ハイレゾショット」機能である。最大約1億7700万画素相当の超高解像撮影が三脚不要で実現できる。この機能はボディ内手ブレ補正との連携により実用性が大きく向上している。
実際に風景や建造物を撮影してみると、看板の文字や遠景の窓ガラスまで鮮明に記録され、拡大しても破綻のない緻密な描写が可能だった。合成処理の速度も速く、手持ちであることを忘れるほどスムーズである。建築・商品・美術作品など、細部再現を求める分野において、有力な選択肢となるだろう。
動画性能も一線級の完成度
「S1RII」は、静止画性能だけでなく、映像制作においても優れた機能を有している。ProResやMOV、MP4といった多彩なフォーマットに対応、8K30p、6K60p、4K120pが使え、10bit 4:2:2の内部収録も可能。V-Log撮影やLUTのリアルタイム適用、波形モニター、ベクトルスコープといった業務向け機能も備える。
撮影中の発熱も抑えられており、長回しでの撮影でも安心感がある。XLRマイクユニットを使えば、本格的な音声収録も可能で、映像と音の両面でプロ品質を追求できる仕様である。
像面位相差AFがSシリーズ最大の進化点に
像面位相差AFの採用により、「S1RII」のピント合わせはかつてないほど快適になった。従来の空間認識AFとハイブリッド化することで、合焦速度・精度・追従性すべてにおいて向上が見られた。特に被写体認識では、人物の瞳を即座に捉え、追尾し続ける挙動が安定しており、動物や車両、バイクといった対象も高精度に検出される。
低照度や逆光、斜め方向からの被写体でも迷いが少なく、撮影テンポが大きく向上する。静物中心のS1Rから、大きく守備範囲を広げた印象である。
「LUMIX S 24-60mm F2.8」小型軽量ながら描写は妥協なし
セットレンズとして用意された「LUMIX S 24-60mm F2.8」は、開放絞り値F2.8にしては軽量・コンパクト、そして驚くほどしっかりとした描写性能を有している。広角端ではF2.8の明るさを活かした開放撮影が可能で、中心部の解像度は高く、周辺までなだらかに繋がるトーンとコントラストが心地よい。
望遠側でもF2.8を維持しており、ポートレートやスナップ用途に十分な背景ボケを得られる。色収差や歪曲は電子補正によってほぼ見られず、全域で高い解像度とヌケのよい描写を保っている。風景、街撮り、人物と幅広い用途に対応でき、「S1RII」の高画素にも耐え得る一本である。
「LUMIX S 85mm F1.8」自然でなめらかなボケと立体感
中望遠単焦点として登場した「LUMIX S 85mm F1.8」は、ポートレートやスナップでその実力をいかんなく発揮した。F1.8開放でもシャープな合焦面を保ちつつ、そこから自然に溶けていくようなボケ味が魅力である。とりわけ背景が混み合った場面でも破綻せず、被写体が立体的に浮き立って見える。
逆光時にもフレアは抑えられており、逆にハイライトが柔らかく滲むような美しい描写が得られる。AFは高速かつ静音で、動きのある人物撮影でもストレスを感じさせない。LUMIXのF1.8単焦点群としての統一感もあり、今後焦点距離を揃えていく楽しみもある。
ハイレゾから日常スナップまで、すべてをこなす万能機
「LUMIX S1RII」は、超高解像度の静止画性能に加え、ハイブリッドAFや手持ちハイレゾ撮影、動画性能まで大幅に進化したフルサイズ機である。そこに新開発の「24-60mm」標準ズームと「80mm F1.8」中望遠単焦点という柔軟なレンズラインアップが加わることで、軽快さと描写力の両立が実現された。
ハイエンドながらも扱いやすさと汎用性を兼ね備えた「S1RII」は、スタジオからロケ、記録から作品制作まであらゆるフィールドで信頼に応える存在である。パナソニックがフルサイズ市場で再び存在感を示す一台として、プロ・ハイアマチュア問わず注目すべきカメラである。
写真・文/ゴン川野