
「弁護士ドットコム」などの人々と専門家をつなぐポータルサイトを運営する弁護士ドットコム株式会社は、同社プロフェッショナルテック総研において、国会議員を対象に「誹謗中傷に対する政治家の意識調査」を実施。結果をグラフにまとめて発表した。
調査の実施背景
近年はネットの誹謗中傷が深刻な社会問題化しており、政治分野においても2024年の兵庫県知事選などを契機に、民主主義を歪めかねないとしてメディアで注目を集めた。
一方で、政治家への批判と誹謗中傷との線引きは難しく、同じく民主主義の根幹である表現の自由などの観点から規制を懸念する声もある。
こうした中、同社は、2025年7月20日投開票の第27回参議院議員選挙を前に、誹謗中傷に対する政治家の意識調査を実施。衆参両院の議員定数713名の1割を超える109名から回答が寄せられた。
国会議員の3割が誹謗中傷に「身の危険を感じている」

国会議員に「自身に対する正当な批判や論評の域を超えた誹謗中傷はどのくらいあるか」を項目別に聞いたところ、「事実に基づかない内容」の誹謗中傷について、77.8%が「ある」(「よくある」「ときどきある」の合計、以下同様)」と回答。「侮辱的・人格攻撃的な内容」についても72.3%に達した。また、刑事事件化することもある「身の危険を感じる内容」も27.8%が「ある」と答えている。
【自由回答で寄せられた具体的な被害内容】
・選挙期間中に事実と異なることを投稿され、何度も繰り返されるため訂正が大変だった。
・自身への殺害予告と家族への危害予告があり、警視庁に警備してもらった。
・政党に対し、事実と異なるレッテルを貼られ続けている。
・ある法案への支持を表明したところ、反対派からの暴言を受けた。
・容姿なども含めたミソジニー(女性嫌悪)的な投稿をされた。
※4:本人や政党が特定できないよう、コメントには編集が施されている
■女性議員が受けるSNS上の深刻な被害

誹謗中傷の経験について、男女別(男性81名・女性25名・性別無回答3名)に分析したところ、いずれの項目でも女性議員のほうが「ある」の割合が高くなった。
特に「侮辱的・人格攻撃的な内容」が「ある」としたのが92.0%、「事実に基づかない内容」が「ある」としたのが88.0%で、女性議員のほうが負担を感じていることが判明。
男性議員との比較では、「セクハラなど性的な内容」で46.9ポイント、「家族についてのネガティブな内容」で38.2ポイント、女性議員のほうが「ある」の比率が高くなっている。

■誹謗中傷の被害にあった媒体、「X(旧Twitter)」が8割超で突出

過去も含めて誹謗中傷を受けたことがある議員に、どんな媒体で誹謗中傷を受けたかを聞いたところ、「X(旧Twitter)」が82.6%で突出していた。次点は「ネット以外(手紙、FAX、電話など)」(39.4%)となり、以下Facebook、ニュースサイトのコメント欄、匿名掲示板などが続いている。
誹謗中傷受け、4割以上が「ネット発信や活動が減少」

過去も含めて誹謗中傷を受けたことがある議員に、誹謗中傷による影響をたずねたところ、「周囲からの心配」が58.3%と突出。「ネット発信の減少」が28.1%、「屋外での政治活動の減少」が13.5%など、政治家としての活動を減らした議員もいた。
中には「(自身の)体調不良」が10.4%、「家族の体調不良」が8.3%と深刻なケースも。その一方で、「影響はなかった」は26.0%だった。
■誹謗中傷の被害にあった議員の3割が「法的措置」を検討

なんらかの誹謗中傷を受けたことがある議員にどのような対応をとったかを聞いたところ、最も多かったのは、相手の投稿を見えなくする「ブロックやミュート」の46.9%だった。
政治家による「ブロックやミュート」については、国民の声が届かなくなったり、国民から政治家の発信が見えなくなったりするため、賛否両論ありますが、実行している政治家も一定数いることがわかる。
続いて多かったのは「反論の発信」が37.5%、「弁護士」25.0%や「警察」20.8%に相談するケースもあった。
「弁護士」と「警察」への相談をまとめて「法的措置」と位置付けると、被害にあった国会議員の32.3%が法的措置を検討していることがわかる結果となった(※5)。
※5:「弁護士」と「警察」両方の回答者は1でカウント
■議員の9割が「ネット言論の過激化」を感じる

2025年7月3日に参院選が公示されたことで、6年前の2019年参院選と比べて、ネットでの政治や政治家に対する表現の変遷について聞いたところ、「過激になった」と「やや過激になった」の合計が91.6%となった。
その一方で、「やや穏健になった」「穏健になった」はいずれも0%だった。
参院選での誹謗中傷、議員の8割超が「深刻化」と予想

誹謗中傷の観点から2025年参院選の展望を聞いたところ、過去の国政選挙以上に深刻化するかとの問いに、「そう思う」と「ややそう思う」の合計は85.1%となった。「あまりそう思わない」「そう思わない」の合計は1.9%だった。
■「政治家はネット投稿に寛容であるべきか」、国会議員の7割が否定

政治家は批判的な言論にも寛容であるべきだとする意見があるが、誹謗中傷の場合はどうなのか。「政治家は一般人と比べて、侮辱的・人格攻撃的なネット投稿に寛容であるべきか」を聞いたところ、最も多かったのは「そう思わない」の44.3%だった。
「どちらかと言えばそう思わない」の26.4%と合わせると、否定的な意見の合計は70.7%に達している。
調査概要
調査機関:プロフェッショナルテック総研(弁護士ドットコム株式会社内)
調査方法:衆参両院の国会議員を対象にFAXアンケートを実施
調査対象:衆参両院の国会議員のうち回答が得られた109名(内訳:男性議員81名、女性議員25人・性別無回答3名)
調査期間:2025年6月12日〜7月2日
関連情報
https://www.bengo4.com/corporate/
構成/清水眞希