NAとターボでここまで違う装備と走り
次に試乗したのは最上級グレードの64ps、10.2kg-m、WLTCモード燃費は21.5km/Lを発揮するターボエンジン搭載のRSだ。
メーターは一気に上級感を増す2眼タイプとなり、ステアリング、シフターは本革巻となる。もちろん、電子パーキングブレーキとオートブレーキホールド機能付きだから、アクセルを踏めばパーキングブレーキが自動解除され、信号待ちなどの一時停止時にブレーキペダルを踏み続けなくて済む快適性、便利さがある。
出足からの加速感はNAエンジンと極端に変わることはないが、速度を上げるほどにトルクの余裕、力強さが際立ち、同じ速度域ならエンジン回転を抑えられるため、NAエンジン搭載車よりグッと静かな走行となる。RSの威力をダイレクトに感じさせてくれたのは、先ほど、Xで上った首都高入り口のゲートに至る登坂路。急な勾配でもグイグイ、スムーズかつ静かに登ってくれたところだ。このあたりはフリクションの少ない、回してけっこう気持ちのいいターボエンジンによるところもあるのだが、CVTがXの旧来型ではなく、最新のステップシフト付きD-CVTであることも関わっているはずだ。シフターのデザインが同じように見えても、CVTの中身は大きく違うのである。
高速道路では80km/h走行でも車内は静か。ただし、こちらはスポーツサスペンションと15インチタイヤを装着しているため、基本的にストローク感ある乗り心地で快適に走ってくれるものの、ジョイントの突き上げ、ショック、音振動ややや目立ってくる。マンホールや段差の乗り越えでの快適感という点では、14インチタイヤに軍配が上がるということだ。とはいえ、全体的な走りの上質感ではこのRSがXを上回っていることは確かで、渋滞追従機能付きACC(アダプティブクルーズコントロール)が備わることもあって、高速走行、長距離ドライブにも適したキャラクターの持ち主であることは間違いない。
ところで、タントより全高が100mm低い、スーパーハイト系ではなく、スライドドア付きハイトワゴンに分類される新型ムーヴだが、室内空間はスーパーハイト系とハイトワゴンの中間、つまり、かなり広い。そしてインフォテイメントシステム、ナビゲーションの機能、内容も充実している。
室内空間の広さは身長171cmの筆者のドライビングポジション基準で、前席頭上に220mm、スライドと4段階リクライニング機構を備えた後席頭上に195mm、後席膝周りに最大340mmものスペースがある。ただし、後席の座面はフロアから300mmの高さ=低めのヒール段差でしかなく、ボクの場合、着座すると膝頭が浮く姿勢になるのがちょっと惜しい(タント330mm、N BOXとスペーシア360mm、同種のワゴンRスマイル320mm)。もっとも、同行した身長185cmの乗員でもまったく狭さを感じずに済む後席居住空間ではある!!
なお、ラゲッジルームは実測で開口部地上高680mm、後席スライド後端時の奥行き290mm(最大520mm)、幅880mm~、最低天井高840mm。後席スライド機構で後席を前出しすれば十分な奥行が確保できるのはいいのだが、後席を格納した時に大きめの段差ができるのが、荷物の積載性として惜しまれる。この点について開発陣に聞いてみると、後席のシートのかけ心地、そしてコストバランスによるものだと説明された。
こうして新時代のダイハツ・ムーヴのNA、ターボモデルに乗ってみると、スーパーハイト系とハイトワゴンの中間的ポジショニングにいる、子離れ世代、中後年ユーザーにぴったりの、後席乗降性に優れた両側スライドドアを備えた使い勝手のいいハイトワゴンであり、コンセプトの「堅実スライドドアワゴン」というコンセプトを見事に体現している1台と言ってよさそうだ。後席の居住感覚の良さから、暑さ極まる日本の夏には、スペーシアやデリカミニなどに採用されている天井サーキュレーターを用意してくれると、なお嬉しいのだが・・・。この点については、開発陣に切にお願いしたところだ。
文/写真 青山尚暉