
『人生、あれかこれか』の刊行を控え、著者の土屋眞弓さんにインタビューする機会があった。モデル事務所の社長であり、着付け師、書家として活動する眞弓さん。モデル・歌手・俳優である娘の土屋アンナさんとは、ふとした表情がとてもよく似ている。
土屋アンナの母が歩んできた“真剣勝負”の人生
取材場所は、眞弓さんが40年以上暮らしている渋谷区の自宅。1時間ほど話をうかがい、リビングでポートレート撮影をした。カメラマンから“真剣な表情を”とリクエストされると、「真剣勝負はできるけれど私、真剣な顔ってできないのよねぇ」と笑いながら、キュッと表情を引き締めた眞弓さん。目線は自然と、正面よりも上へ向けられている。その凛とした眼差しから、人柄が感じられた。
22歳でアメリカ人男性と結婚し、出産、渡米、離婚。シングルマザーとして2人の娘を育て上げ、アンナさんのマネジメントのために44歳でモデル事務所を一から立ち上げた。さらに義子との突然の死別、舞台演出家との裁判、事務所スタッフによる横領など……。本書には未知の経験や目の前に次々と立ちはだかる“壁”にどんな時も真剣勝負で立ち向かってきた、激動の人生が綴られている。
岐路に立った時の決断は潔い。例えば、モデル事務所設立も《芸能界のしきたりやルールもわからないまったくの未経験者で、会社経営もしたことのないズブの素人。アンナから言われて『えっ?』と思いましたが、思ったのはほんの何秒かだけ、すぐに『わかった』と言って、父に有限会社を作るためのお金を借り、紹介された司法書士のところへ行って定款を作って、会社を設立しました》(以下、《》は本書より引用)と、スピーディーだった。
なぜ、そんなにも行動に迷いがないのか。
眞弓さんは「だって、人生は立ち止まれないでしょう? じっとしていたって、時間が過ぎていくだけだもの」とあっけらかんとしている。喫緊の課題を放置すれば、事態が悪化しても、好転することはまずない。だったら、パッパと決める。一歩踏み出したなら、もう悩まない。「その時々の判断が正しいかはその場ではわからなくても、“絶対大丈夫”と自分を信じる」心が大事なのだと力を込める。
《何かが起きると『どうしよう』『こうなったら嫌だな』『うまくいかないかもしれない』なんて、ちょっとみんな深刻になりすぎなんだと思うんです。
そうではなくて、物事や出来事に対しては深刻になるんじゃなくて、真剣に向き合うことが大事なんです。(中略)今はどういう状態にあるのか、何をしたらいいのか、どう動くべきなのかを真剣に考える》
がんと向き合うときも深刻にならず 土屋眞弓さんの強さと覚悟

真剣さは、冷静さを生む。その姿勢は病に襲われても、揺るがなかった。眞弓さんは昨年6月に66歳ですい臓がんのステージⅣであることが発覚し、余命1年~1年半の宣告を受けた。それでも「『マジか‥‥』と心の中で呟き、『了解です。私、そんなので死なないから』」と主治医に毅然と語ったという。そして誰にも相談することなく、抗がん剤の治療は半年だけと決断して、貫いた。病棟の看護師も驚いてしまうほど陽気に過ごした入院生活や治療への取り組みなど、眞弓さん流のがんとの向き合いかたは、本書に詳述されている。
がんになって命の期限を告げられても「生きるっておもしろい」と、芯の強さを見せる。だが眞弓さんは決して、鉄壁なスーパーウーマンではない。その内には不安を抱えてもいる。
「何が起きても“そんなことで負けてたまるか!”という気概は常にあるけれど、病気に関しては、弱音を吐かないように心がけてもいるんです。口にしてしまえば、どんどんそちらへ引っ張られてしまうかもしれないから。だから『今日はちょっと、ここが痛いんだよね』くらいしか、言わないかな。つらさを訴えるのではなく、近況報告のような感じで。治療の影響で胃が小さくなってしまったことも、嘆くのではなく、『おすしをバクバク食べたーい!』『シャンパンをラッパ飲みしたーい!』とかるく愚痴ってみるくらいでね(笑)」(眞弓さん)
本書には『あとがきにかえて 母のこと~娘・土屋アンナ』として、娘から見た母親像や母への想いも収録されている。その中では《弱みがないし、衰えないし、なんかちょっと不死鳥的な存在かな。だけどね、お酒飲むと弱る。お酒飲んで、一人でキッチンで泣いてるの、ときどき見てたから……》とも明かされており、強さ一辺倒ではなく、もろさが垣間見えることでグッと身近にも感じられる。だから、眞弓さんの生の感情が読む人の心へスッと届くのだと思う。
キッチンで涙していたエピソードについては「記憶がないわ」と笑い飛ばしながら、「娘って、そんなの見ているんだなって。私だって、泣いちゃうことも時にはありますよ」と照れくさそうな表情を浮かべた。
弱さも涙も隠さずに。「母であること」が支える力に
眞弓さんは家族への深い愛情にあふれている。インタビューで声を詰まらせたのは、「90代の母から『私よりも先に死なないで』と言われた」と、自分の命について語り始めた時。そして「母親のためにも先には死なないようにしたい」と、しぼりだすように続けた。
さらに「自分だけのことを考えたら、もう死んでもいい。だけど、私には娘がいるから。娘たちが“死ぬな”と言うの」と、わが子を想う母の顔を見せた。大切な家族を悲しませたくないと願う愛が、病に打ち勝とうと立ちあがる活力になっているのだろう。
自分の名前の一文字が入っていることもあり、満月へ向かう弓張り月が大好きだと語る。満ちていこうと努力する健気さや、“この世に完璧はない”と感じられることが、心に響くのだという。自身の生き方と重ね、鼓舞する気持ちもいまはあるのかもしれない。
表紙にはそんな弓張り月が描かれている。眞弓さんの目線のように上向きの位置で、新たに訪れる1日を照らすように、明るく輝いている。
文/渡部美也
書籍情報
2025年6月1日放送の『おしゃれクリップ』(日本テレビ系)でも話題となった、モデル・歌手である土屋アンナさんの母・土屋眞弓さん。優しく強いその生き方と、これまでの波乱万丈の人生について綴った書籍『人生、あれかこれか』。あとがきにかえて、娘・アンナさんのロングインタビューも掲載!

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『人生、あれかこれか』
著者:土屋眞弓
定価:1,650円(税込)
体裁:四六判 / 192ページ / 1C刷
発行:小学館
発売日:2025年5月23日
ISBN:9784093898065
https://www.shogakukan.co.jp/books/09389806
土屋アンナさんの母・土屋眞弓さんの波乱の人生を綴ったエッセイ本「人生、あれかこれか」発売
株式会社小学館は、2025年5月23日(金) に書籍『人生、あれかこれか』を刊行します。著者は、ファッションモデル、歌手、俳優として活躍する土屋アンナさんの母親…