
朝、カーテンを自動で開けたり、スマホでドアのロックを開け閉めする……そう、〝スマートホーム〟は暮らしを便利にしてくれるものだ。
毎日のように新しいスマート家電やインターネット対応の住宅設備機器、スマートホーム機器が登場する、スマートホームの現在。しかし、ユーザーにとってネックとなるのが、異なるメーカー間の機器の連携や操作が難しいことだろう。
「確かに便利だけれど、うちにあるほかの家電と連携できるのかな?」……購入前にそんな不安をもつ人は多いはず。そして、スマート家電を購入したものの、連携できずに利用を諦めた人もいるのではないだろうか。
そんな迷えるユーザーの助けとなりそうなのが、この「Matter(マター)マーク」だ。

スマート家電を安心して買うなら、まずは「Matterマークを探せ」が合い言葉になりそうだ。
Matterって何?
それではMatterとはどういうものか、簡単にご説明しよう。
MatterとはIoT(Internet of Things=モノのインターネット)の標準規格だ。
Matterを策定したのは2002年に設立された無線通信規格標準化団体のConnectivity Standards Alliance(以下、アライアンス)で、Matter規格のバージョン1.0は2022年に発表されている。
■LIVING TECH協会とマーケティング連携協定を締結
そして、アライアンスは、LIVING TECH協会とMatterを基盤としたスマートホームの普及・啓蒙を目的とするマーケティング連携協定を、2025年6月20日に締結した。

LIVING TECH協会は「人々の暮らしを、テクノロジーで豊かにする」をミッションとし、会員企業間や様々な業界団体と連携して、スマートホームの普及促進や啓発活動を行っている。
会員企業は幅広く、Amazonやアイロボットといった外資系企業や、リノべる、YKK AP、パナソニック、NTTドコモ、LIXIL、三菱地所、ライオン、三井住友海上、ALSOKなど日本を代表する企業が多数参加している。

今後は標準規格Matterを用いて機器の設定を簡単にし、異なるメーカー間でもスムーズな連携操作が可能になり、導入や運用のハードルを大きく下げることが期待されている。
■なぜMatterは世界で普及したのか?
協定の取り組みの第1弾として、2025年6月20日に〝住まいをつなげるグローバルスタンダード「Matter」で変わる「スマートホーム2.0」の未来〟と銘打ったイベントが、LIVING TECH協会の代表を務めるリノベる株式会社の本社で行われた。
なぜMatterが世界で普及したのか、このイベントから実態を探っていこう。

Matterを策定するアライアンスは、グローバルで800社以上のテクノロジー企業から構成されている。
そして、アライアンスが所在するアメリカでは、スマートホームの普及率がスマートTVとスマートスピーカーを含まない集計で45%を越えている。スマートホームはイノベーター、アーリーアダプターを主たるユーザーとする段階を終え、アーリーマジョリティからレイトマジョリティへと、完全な普及段階に入った。
Matterは無線に限らずイーサネットなどの有線回線での接続も可能。Wi-FiやBluetoothなどの上位層にあたり、機器間の共通言語として存在する。
またMatterは機器間でのローカル通信の規格であるため、たとえば住宅がインターネットから切断されても、ホームネットワーク内での接続、操作が可能である。

現在、さまざまなメーカーから発売されているスマート家電は、メーカーが異なる場合には相互の接続で手間取ることがある。
しかし、業界統一規格のMatterを採用したスマート家電を選べば、機器間の接続性を高めてくれる。そして、メーカーの開発を簡素化し、ユーザーにとっての互換性を向上させてくれるのだ。
2025年7月初頭現在、Matterのバージョンは1.4.1へと進化。iPhoneやAndroidが標準でMatterに対応していることに加え、スマート家電だけでなく、レンジフードやコンロ、給湯器といった住宅設備までがサポートされる。そのため、色々なデバイスをシームレスに、普段利用しているスマホで管理・操作できる世界を提供できる。
Matterはマーケットの声を汲み取り仕様に反映させることでユーザビリティーを高めている。これも、Matterがグローバルスタンダードな規格に位置する大きな要因である。
Matterを使い始めるメーカーの続出を日本でも期待
さて、アメリカでは、スマートTVとスマートスピーカーを含まない集計でスマートホームの普及率が45%を越えると説明したが、日本ではどれくらいの普及率だろうか?
実は、残念ながら日本のスマートホームの普及率は10%程度とされている。先進的なアーリーアダプターの利用が中心で、普及しているとは、まだ言い難い状況だ。
日本でスマートホームの普及・啓発を期すLIVING TECH協会にとって、アライアンスとマーケティング連携協定を締結したことは、大きな転換点となりそうだ。
そこで、Connectivity Standards Allianceプレジデント兼CEOのトビン・リチャードソン氏に、Matterが日本で果たす役割とスマートホームの未来像を聞いた。

Q:Matterの強みとこれからの進化について教えてください
A:「Matterは簡単なセットアップ性と、他メーカーやエコシステム間の運用性の高さ、強固なセキュリティ性能を持っているため、業界の主要プレイヤーが結集しました。オープンソースとして公開されており、リファレンス用SDK(ソフトウエア開発キット)も整備。世界共通の認証プログラムを構築しています。
2025年はセットアップ手順の簡素化、信頼性や性能、相互運用性の改善など、全体的な仕様をアップデートし、新機能や対応デバイスの追加も続けます。さらに、認証プロセスの簡素化とコスト削減にも取り組み、SDKを改善。開発のしやすさとアクセス性を高める予定です」
Q:Matterへの日本企業の参加状況は?
A:「アライアンスの日本支部が昨年発足し、LIVING TECH協会のような信頼ある団体とも連携を進めたことで、現在50社を超えるメンバーが参加しています。今後もより多くのデバイスメーカーや技術企業が参画し、Matterを製品やソリューションに取り入れていけるよう支援する予定です。
すでに、エネルギー管理やスマートメーターの分野でMatterとECHONET Liteの橋渡しや、スマート家電・センサーの領域での可能性が見えています。電力会社・通信・行政との連携の中で、利用の拡大が進んでいます」
Q:日本でスマートホームを普及するためのキーポイントは何か?
A:「まず重要なのはスマート家電などのデバイスを、ユーザーが気軽に購入できるかどうかでしょう。そして、それらの機器がきちんと連動すること、さらに、プラットフォームをメーカーがしっかりと作り上げていくことも重要です。
アメリカではテレビコマーシャルなどでスマート家電の商品紹介を目にする機会がとても多いです。そして、スマートホームセキュリティなど、スマホで動作する製品を、家電量販店を含め多くの店舗で頻繁に目にします。マーケットの状況にもよりますが、多くの人の目にとまり、そして簡単に使えるようになることは、日本でも重要でしょう」

Q:スマートホームは今後、どのように進化していくと思いますか?
A:「たとえば、食洗機を想像してください。従来はひとつひとつスポンジで洗っていたものが、食洗機が登場したことで、まとめて装置に入れるだけでキレイになり、手間いらずとなりました。
ただし、食洗機などの家電は基本、単一製品として発売されており、それぞれをユーザーが動かす必要があります。それが今後、オーケストレートと言いますが、すべてがつながって、AIで自律的に動かす方向に進化していくとイメージしています」
スマート家電を安心して買うなら「Matterマーク」を探せ…が現実になる
アライアンスとLIVING TECH協会の協定で、IoTの標準規格であるMatterが本格的に日本へ進出、スマート家電をはじめインターネット対応の住宅設備機器、スマートホーム機器へ続々と対応されていく可能性が高まった。
LIVING TECH協会はスマートホームを「私たちの暮らしの利便性や快適性を向上させるだけでなく、単身世帯の不在時の在宅装いや遠隔監視などの防犯対策、共働き世帯の家事負担の軽減、高齢者の見守りや熱中症対策、介護観点での見守りなどの利活用、エアコンなどの空調機器の自動管理やスマート置き配によるカーボンニュートラルへの貢献など、私たち生活者の日々の暮らしの課題や社会課題の解決が可能なソリューションである」と言う。
暮らしを豊かにし、社会問題を解決する手段として期待されるスマートホーム。障壁となる設定や連携を容易にするMatterの登場は、日本での普及の起爆剤となる可能性を秘めている。
そして、「スマート家電を安心して買うなら『Matterマークを探せ』」が、近い将来日本のユーザーで一般化する可能性は高そうだ。
【参照】
Connectivity Standards Alliance
一般社団法人 LIVING TECH 協会
取材・文/中馬幹弘 撮影/横田紋子(小学館)