
昇進や異動後に「能力不足かも」と感じるのは、優秀な人ほど陥りやすい心理的なワナ。評価基準の変化や他人の期待に応えすぎることで自信を失いがちです。思考の整理や小さな成功体験を積み重ねることで、自信は回復できます。能力不足ではなく、成長の途中なのです。
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「最近、うまくいかない。自分は能力不足なのかもしれない……」
昇進や異動で立場が変わったタイミングに、そんな不安がよぎったことはありませんか?
以前は順調に評価されていたのに、急に結果が出せなくなった。
プレッシャーや焦りが積み重なり、つい検索窓に「能力不足」と打ち込んでしまう。そんな瞬間は、誰にでも訪れるものです。今回は、心理カウンセラーの立場から、そんな見えない不調の背景と対処法をお伝えします。
優秀だからこそ陥る「能力不足のワナ」
立場が変わると、周囲からの評価や見え方が大きく変わることがあります。すると、それまでの自信が、ふと揺らぐ瞬間が出てくるものです。
(1)自分に厳しすぎて、小さな停滞も「失敗」に見える
成果を出してきた人ほど、少しつまずいただけで「自分はダメだ」と感じやすい傾向があります。昇進や役割が変わると、評価基準も変化します。
プレイヤー時代は数字で評価されていたのに、マネジメントでは「育成力」や「調整力」が重視される。慣れていないだけで能力が落ちたわけではないのに、「向いていないかも」と自信を失ってしまうのです。
(2)他人の期待に応えようとしすぎて、自分を見失う
昇進すると「結果を出して当然」と見られがちです。その期待に応えようと気を張り続けるうちに、心が疲れてしまうことも。「ちゃんと認められているか?」と外の評価ばかり気にして、自分の納得感ややりがいが見えなくなってしまうのです。
(3)努力が当たり前になって、頑張りを評価できない
長く頑張っている人ほど、自分の努力を当たり前と思いがちです。「これくらい当然」「まだ足りない」と無意識に自分に厳しくなり、実際には成果を出しているのに、それに気づけなくなります。その積み重ねが、能力不足という誤った自己評価につながっていくのです。
見直してみませんか?能力不足を感じたときの3つのチェック
「能力不足かもしれない」と感じたとき、実は、思い込みが影響していることもあります。まずは、自分の状態を軽く振り返ってみましょう。次の3つのうち、いくつ当てはまりますか?
〇昇進や異動のあと、自信を持てなくなったと感じる
立場が変わった途端に、うまくできなくなった気がすることはありませんか?
〇周囲の目や期待に応えようとしすぎてしまう
「ちゃんとやらなきゃ」と無理をして、疲れすぎていませんか?
〇困ったときに、人を頼ることに抵抗がある
「迷惑をかけたくない」と、ひとりで抱え込んでいませんか?
チェックが多かった方は、「考え方のクセ」が能力不足という自己評価につながっているかもしれません。次章の見直しの視点を参考に、自分を整えてみてください。
本当に足りないものは何?──自分の思考を整理しよう
「能力が足りないのかも」と感じたときは、「どこで・なぜつまずいているのか?」を整理してみることが大切です。原因が見えてくるだけでも、気持ちは軽くなります。
視点1:評価の物差しが変わっていないか?
昇進や異動で立場が変われば、求められる力も変わります。プレイヤー時代とは違い、マネジメントでは「部下の成長」や「チーム運営力」が重視されるようになります。うまくいかないのは、能力の問題ではなく、“物差しの変化にまだ慣れていないだけ”というケースも多いのです。
視点2:人間関係によるストレスが影響していないか?
周囲とうまくいかないと、「自分が悪いのでは?」と感じやすくなります。妬まれたり距離を置かれたりしたときに、真面目で頑張り屋の人ほど自責しがちです。
でも実際は、能力ではなく「関係の中で生じたすれ違い」が原因のこともあります。この視点を持つと、自分を責めすぎずに関係を見直すきっかけが生まれます。
視点3:「全部自分のせい」と思い込んでいないか?
結果が出なかったとき、「自分に力がない」とすべて背負っていませんか?もちろん反省は大切ですが、行き過ぎた自責モードは視野を狭めます。
「何が足りなかった?」「どんな助けがあれば違った?」と問い直してみると、具体的な改善策やヒントが見えてくることもあります。
心理カウンセラーがすすめる“自信回復の3つの習慣”
落ち込んだときに大切なのは、「整え直すこと」です。ここでは、私がカウンセリングでよく紹介している3つのセルフケアをご紹介します。続けることで、少しずつ自信が戻ってくるはずです。
(1)思考と感情を分けて書き出す
ノートに【事実】【解釈】【感情】の3つの欄をつくり、それぞれ書き出します。そのうえで、【解釈】をやさしい言葉に書き換えてみましょう。「自分はダメだ」→「改善点に気づけたのは大きい」など、少しずつ自己評価の癖が変わってきます。頭の中が整理され、感情も落ち着いていく実感が得られるはずです。
(2)「できたこと日記」を3行だけつける
その日できたことを、夜に3つだけ書き出す習慣です。「部下に声をかけた」「資料を仕上げた」「夜は早めに休んだ」など、どんな小さなことでも構いません。自己否定が強くなっているときほど、できたことは見えにくくなっています。言葉にして可視化することで、自信のベースが戻ってきます。
(3)スモールステップを1つだけ決める
気持ちが沈んでいるときは、「何をすればいいか分からない」状態になりがちです。そんなときは、小さな一歩を1つだけ決めてみましょう。「明日は15分だけ部下と話してみる」「お礼のメッセージを送る」など、できそうな行動でOKです。“行動できた”という実感は、自信の種になります。
「能力不足」は、視点と習慣の問題
うまくいかないとき、人は「自分には力がないのかも」と感じてしまいがちです。でも、それは怠けているからでも、本当に能力が足りないからでもありません。
環境や評価の基準、人間関係が変われば、これまでのやり方が通じなくなることもあります。その戸惑いを能力不足と決めつけなくても良いのです。
大切なのは、自分の状態を正しく見直す視点と、それを整える習慣です。「伸びていない」のではなく、「今まさに伸びている途中」なのだと、自分に語りかけてみてください。
文/高見 綾
心理カウンセラー|“質上げ女子”のお悩み相談。カウンセラー養成コースで豊富な臨床経験を積み、心の世界で学んだことを現実に活かすアプローチに高い評価をいただく。相談数4千超。著書は『ゆずらない力』(すばる舎)。
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