
「風通しの良い職場」と言われても、実際には意見が無視されることも。評価基準の不明瞭さや情報の一方通行が閉塞感を生み、心理的にも声を上げづらくなる。改善には、相手の話を受け止める姿勢や感謝の言葉、弱音の共有が効果的。小さな行動が職場の空気を変える鍵となる。
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「風通しの良い職場です」──求人や面接でよく耳にするこの言葉に、つい期待してしまったことはありませんか?ところが、いざ働いてみると、意見は歓迎されるどころかスルーされる。提案しても反応が薄くて、「もう黙ってる方が楽かも」と感じる場面が増えていく。
特に、キャリア中盤で組織を支える立場にあるビジネスパーソンにとっては、「声を上げる意味があるのか?」と感じやすくなる時期でもあります。
この記事では、風通しの悪さを生む構造と心理のしくみを紐解きながら、空気を変えるためにできる具体的なアクションをご紹介します。
風通しを曇らせる3つの構造
職場の空気が重く感じられるとき、背景にはいくつかの構造的な要因があります。ここでは代表的な3つを紹介します。
(1)評価基準が不明瞭になっている
どんな行動が評価され、どんな発言や働き方が認められるのか、その「基準」が見えないと、人は動きにくくなります。
特に「評価制度がある」と言われていても、具体的な内容が社内で共有されていない場合、「頑張っても報われないかも」と感じてしまうもの。その結果、発言や提案だけでなく、やる気や自己効力感までもがじわじわ下がり、閉塞感へとつながっていきます。
(2)情報チャネルが増えすぎて迷子になる
人員の増加やオンラインツールの普及によって、社内のコミュニケーション経路が複雑になっているケースが増えています。Slack、Teams、メール… 社内の情報チャネルが多すぎると、「どこに何を伝えればいいの?」と迷いやすくなります。
「伝えたはずなのに伝わってない」「同じ質問が何度も繰り返される」そんな状態が増えると、声を出すことがだんだん面倒に感じられ、沈黙が当たり前になっていきます。
(3)情報が上から下へしか流れなくなっている
通達やルール変更は上から速やかに届くけれど、現場からの声が上に届かない。そんな「情報の一方通行」状態にある職場も少なくありません。
現場の提案に対して返答やフィードバックがない状況が続くと、やがて誰も声を上げなくなります。さらに、正式な会議の場ではなく、雑談・タバコ部屋・飲み会といった影の意思決定ルートが存在するケースも。下からすれば「知らないうちに決まっていた」と感じ、不信感が高まってしまいます。
“なんとなく話しづらい”が閉塞感を生む3つの心理メカニズム
「言ってもムダかな」「空気を悪くしそう…」そんな、なんとなくの沈黙が積み重なると、職場には静かな閉塞感が漂いはじめます。ここでは、背景にある3つの心理メカニズムを見ていきます。
(1)責任感がぼやけて、声を出す意味が見えなくなる
人が増え、チームが多くなると、「自分が言わなくても誰かが言うだろう」と感じやすくなります。
これは「社会的手抜き」と呼ばれる現象で、責任があいまいになると、発言や提案の意欲も薄れていきます。頑張っても評価が全体に回るなら、「言わない方が楽」「頑張っても損」と感じ、やがて沈黙が当たり前になってしまいます。
(2)理想と現実のズレが、発言意欲をそいでいく
「もっと自由に発言できる職場だと思ってた」「裁量があるって言ってたのに調整ばかり」──入社や昇格の前に描いていた理想と現実にギャップがあると、少しずつ声を出す意欲が削がれていきます。
最初は前向きでも、やりがいや成長の実感が持てないと、「どうせ何も変わらない」と思いはじめ、発言自体がストレスになっていきます。
(3)自分のせいかもと思って、だんだん黙るようになる
うまく伝わらなかったとき、「私の言い方が悪かったかも」と感じ、自分を責めてしまうことがあります。まじめな人ほど相手の反応を気にしてしまい、「黙っていた方が安全」と感じるようになります。そうして、少しずつ発言が減っていき、居心地の悪さを感じる空気になっていくのです。
改善するには?スモールアクション3選
職場の空気は、小さなやりとりの積み重ねで変わっていきます。ここでは、風通しをよくするためにできる3つの行動をご紹介します。
(1)相手の話をまずは受け止めてみる
「風通しが良い」と感じる場には、否定されない空気感があります。
相手の意見や気持ちにすぐ反論せず「なるほど、そう感じたんだね」と返してみましょう。受け止める姿勢があるだけで、相手は安心して話せるようになりますよ。
(2)「ありがとう・助かりました」を伝える
社内SNSやメールの最後に、「ありがとう」だけでなく、「〇〇してくれて助かりました」と、少し具体的に言葉を添えてみましょう。感謝のひとことは、相手に「ちゃんとあなたを見てるよ」と伝えるサインになります。それが安心感につながり、声を出しやすい土壌が生まれるのです。
(3)自分の「弱音」を、少しだけシェアしてみる
「昨日の会議、実はちょっと緊張してました」など、人間味あるひとことを出してみるのも一つの方法です。
「ちゃんとしなきゃ」という空気が強い職場では、誰かが少しでも肩の力を抜いてくれると、場がふっと軽くなるもの。ほんの少しの弱さを見せ合える関係性が、チームの強さにもつながります。
職場の空気は、ほんのひとことで変わっていく
風通しの良さは、「安心して話せる空気があること」が土台になります。 逆に、何を言ってもスルーされたり、すぐ否定されるような場面が続くと、話すのがだんだん億劫になってしまうものです。
でも、ちょっとしたリアクションやひとことがあるだけで、人は話しやすくなります。まずは、自分の返し方や言葉づかいを、少しだけ意識してみること。その小さな一歩が、職場の風通しを良くするきっかけになるはずです。
文/高見 綾
心理カウンセラー|“質上げ女子”のお悩み相談。カウンセラー養成コースで豊富な臨床経験を積み、心の世界で学んだことを現実に活かすアプローチに高い評価をいただく。相談数4千超。著書は『ゆずらない力』(すばる舎)。
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