
2025年6月4日に、警察庁がホストクラブなどの接待飲食営業における広告・宣伝に関する通達を発しました。
参考:接待飲食営業における広告及び宣伝の取扱いについて(通達)|警察庁
警察庁通達では、これまでホストクラブでよく用いられていた広告表現が禁止されるなど、新たな厳しい規制が定められています。
1. 警察庁通達の根拠となる改正風営法の規定
悪質なホストクラブ営業による被害が多発している状況を踏まえ、ホストクラブなどの接待飲食営業に対する規制を強化する改正風営法が2025年の国会で成立しました。改正風営法は一部の規定を除き、2025年6月28日から施行されます。
改正風営法18条の3では、悪質ホストクラブなどによる被害を防ぐため、新たに「客の正常な判断を著しく阻害する行為」の規制が設けられました。
接待飲食営業を営む風俗営業者は、以下の行為をしてはならないものと定められています。
(1)料金について、事実に相違する説明をし、または客を誤認させるような説明をすること。
(2)客が好意の感情を抱いていることなどを知りながら、これに乗じて、以下の行為により客を困惑させてお金を使わせること。
(a)お金を使わなければ、接客従業者(ホストなど)との関係が破綻することになる旨を告げること。
(b)接客従業者(ホストなど)が降格や配置転換などの不利益を回避するには、お金を使うことが必要不可欠である旨を告げること。
(3)客が注文等をする前にサービスや飲食を提供し、客を困惑させてお金を使わせること。
今回新たに発出された警察庁通達は、上記(2)に関連するものです。
著しく客のお金を使う意欲をそそり、またはホストなどの間に過度な競争意識を生じさせ、違法行為を助長するような歓楽的・享楽的雰囲気を過度に醸し出す広告を規制することを目的としています。
2. 警察庁通達によって新たに禁止されたホストクラブ広告の具体例
警察庁通達では、ホストクラブに関する以下のような広告表現の禁止が明記されました。
(1)接客従業者(ホストなど)の営業成績を直接的に示す文言の表示
(例)
「年間売上〇億円突破」
「○億円プレイヤー」
「指名数No.1」
「億超え」
「億男」
(2)営業成績に応じた役職の名称等の営業成績が上位であることを推認させる文言の表示
(例)
「総支配人」
「幹部補佐」
「頂点」
「winner」
「覇者」
「神」
「レジェンド」
「新人王」
(3)(1)および(2)以外の「ランキング制」自体の存在、接客従業者間での優位性を裏付ける事実等の接客従業者間の競争を強調する文言の表示
(例)
「売上バトル」
「カネ」
「SNS総フォロワー数○万人」
(4)客に対して、自身が好意の感情を抱く接客従業者を応援すること等を過度にあおる文言の表示
(例)
「○○を推せ」
「○○に溺れろ」
特に「ナンバー1(No.1)」「億超えプレイヤー」などの売上高に関する表現や、「総支配人」「幹部保佐」などの役職表示は、これまでホストクラブの広告において頻繁に用いられていました。
これらの表示はいずれも、今回新たに風営法によって禁止されたことになります。
風営法の規制に違反すると、営業停止処分や営業許可取消処分を受ける可能性があるため、ホストクラブの広告は大きな方向転換を余儀なくされるでしょう。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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