
お笑い界きっての洋楽通と称される芸人・永野が、これまであまり明かされることのなかった邦楽への想いを語り尽くす単独インタビュー後編。
芸人・永野インタビュー!忘れ去られそうなあの日の「邦楽」を愛したい【前編】
”音楽は人生の道標” と語るほど、自身のYouTubeや様々なメディアで音楽への偏愛ぶりを披露している芸人・永野、50歳。 誰にも真似できないスタイルで史上最強…
「独自のアイドル論」と「歌詞への異常な愛情」
純粋さと天邪鬼が入り混じった邦楽愛をさらに深掘りしたとき、見えてきたのは「独自のアイドル論」と「歌詞への異常な愛情」。

―― BUCK-TICKを始め、ガールズバンドも聴いていた学生時代、同じ音楽を聴いていた友達も多かった?
「ほとんどいなかったですね。もともと洋楽聴いてましたし、好きな音楽に関してはあんまり同級生と話が合わなかったかもしれないです」
「でも嬉しかったのが、周りがユニコーンとジュンスカの二大巨頭で盛り上がっていたときに、数少ない友達同士で「俺たちは違う」っていうよく分からない絆が芽生えて、なぜかレピッシュを聴いてたことありましたね。スカが好きって言い張って。スカなんか知らないのに(笑)。なんか、みんなと同じものを聴いてると恥ずかしくなるんですよね」
――邦楽に関してはあえて王道を避けてるような感じもあるのかなと
「たぶん最初に聴いたのがU2とか洋楽の硬派なロックだったんでそれが間違いだったと思いますね。黒装束で地球を憂いでるU2をカッコいいと思ってるときに、バンドブームでチヤホヤされてる日本のバンドがなんかチャラいと思っちゃって」
「それに同級生の多くは、大人はわかってくれないみたいな反抗的で分かりやすいヤンキーロックを聴いてたけど、僕はスティングの森林伐採のメッセージとかU2のアフリカの貧困問題とか世界規模のテーマの楽曲を浴びて生活してたんで、日本の狭い範囲だけで繰り広げられる大人への反抗とかどーでもいいと思っちゃってましたね。もっと世の中を俯瞰で見てみろって感じで」
――大人びてる上に天邪鬼。ある意味、学生の頃から孤高だった?
「高校の頃は大変でした。生きづらいなーと思って、流行りの邦楽を聴いてるフリとかしてましたし、若者の代弁者的な曲や応援する曲を聴いて元気やパワーをもらった気になるんですけど、ちょっとそこに照れがあるというか入り込めなかったですね。そのテンションで生きていくの辛いなって思ったり」

――YouTubeを拝見すると、切ない系の曲の方が好きなのかなと思いました
「切ない系好きですね。渡辺美里『10years』とか好きでしたし、ウッチャンナンチャンのオールナイトニッポンで知って好きになったのがスピッツのデビュー曲『ヒバリのこころ』。これはたまたまラジオで流れてきて、聴いた瞬間に「なんだこの声とメロディは!絶対売れる」と思ってたんですけど売れなくて。で、数年後に『ロビンソン』でブレイクした時に周りは騒いでたんですが『俺はもうスピッツ知ってたし』、『絶対売れると思ってたし』ってイキってましたね」
「あとは、ISLANDの『STAY WITH ME』も中島みゆきさんのオールナイトで聞いて、東京行きたいなあって思ったり。アサヤン(テレビ東京「浅草橋ヤング洋品店」)のテーマ曲だった少年ナイフの『Brown Mushrooms』は田舎から東京に来たばかりのソワソワ感を思い出させるような曲でよく聴いてました」
アイドルが「アイドル」の殻を破るのが嫌い
――80年代はアイドル全盛の時代でもありました。当時好きだったアイドルっていたんですか?
「聴いてたのは郷ひろみさん、少年隊あたりですかね。それと冗談抜きで懐メロが好きで、郷ひろみさんのベスト買いましたもん。郷さんも僕のこと好きみたいで一度NHKの番組に呼んでくれて。『永野くんのネタで一番好きなのはシェー‼︎なんです』と言われたんですが、「それは僕じゃなくてイヤミです」って言えないまま収録終わりましたけど(笑)」
「でも、『2億4千万の瞳』はウッチャンナンチャンのやるやら(やるならやらねば)のプロレスコントでレフリーの入江雅人さんが突然歌い出すくだりがあって、高校生の頃死ぬほど笑ってましたね。その曲も大好きですし」

「あとそうだ、子供の頃はジュリー、沢田研二さんの真似してたのを覚えてます。『勝手にしやがれ』を歌いながら客席に帽子投げるあのパフォーマンス、カッコよかったですよね。『TOKIO』聴いた時も衝撃でしたもん」
「たぶん僕って、ロックも好きだけどいわゆる王道のスターが好きなのかもしれないですね。海外で言ったらマイケル・ジャクソンとかニュー・キッズ・オン・ザ・ブロックみたいな、誰もが認める王道のポップスターに惹かれるところありますね」
――当時は歌番組も多くて、全国民が知ってそうな王道のスターやアイドルがたくさんいた気がします
「今の芸能界っていないですよね。いるのかもしれないですけど、あそこまでのオーラとパワーを持ったスターがいないというか」
「それと今って、アイドルがいかにも「THEアイドル」って曲を歌ってません?カワイイだけのアイドルらしい曲を歌ってる気がして。でも、80~90年代って人気ミュージシャンや大御所の作家が本当にいい曲をアイドルに提供してましたよね。筒美京平さん、阿久悠さん、最近ああいう人もいないですよね。一曲入魂感半端ない歌謡曲が山ほどあったじゃないですか、あの頃…。うーん、なんか寂しすぎませんか、今の時代(笑)」
――昔は紅白歌合戦も一大イベントで家族揃って観てましたけどそれもないですし
「ほんとそうですね。今だと紅白に出られたとしてもメタ入ってるじゃないですか、どのアーティストも。あの紅白に出られるんだから本当はもっと素直に喜んで欲しいんだよなあって思いますけどね。夢の舞台なんだし」

「でも、アイドルがアイドルの殻を破るのは嫌いなんです。ちゃんと『アイドル』やってよ、と思ったりもします」
――というのは?
「最近、A.B.C-Zの戸塚祥太くんと知り合ってアルバムを聞かせてもらったら、ちゃんと『アイドル』という生き様を背負ってて感動したんですよ。少年隊の錦織さんを尊敬しているらしくて、今まで先輩アイドルたちが培ってきた世界観を受け継いでいるように見えてカッコよかったんですよね。昔、僕らが思い描いていたアイドル像をそのままストレートに突き進んでいる姿が素敵だなと思いましたね」
音楽も映画も、人が作ったものに点数なんかつけられない
――永野さんのインタビュー記事を拝見してると歌詞へのこだわりも強いのかなと思うんですが
「それは自分が理屈っぽいところがあって洋楽も和訳まで見たりとか、人より思い入れが強いからかもしれないですね」
――邦楽で印象的な歌詞ってありますか?
「ずっと覚えているのは、CHAGE and ASKAの『恋人はワイン色』の2番なんですけど、「ミセス達は噂好きで 君のさよならの理由に 花を咲かせていた~」みたいな歌詞があるんですよ。そこがすごいジーンときて。語感とメロディなのもしれないんですけど、それがハマってるだけで人って泣くんだなって思いましたね」
「大袈裟に言うと、これがこういう理由であなたが好きです~みたいな単純な歌詞ではないところを理屈っぽく考えちゃうんです。だから、チャゲアスとかニルヴァーナの和訳を見てシュールを教えてもらった気がします」

「たぶん、作品に対しての思い入れが深すぎるんでしょうね。BUCK-TICKもそう。なんでもない歌で勝手に感動とかしちゃいますし、サザンもただメロディにはめて英語っぽく歌ってるだけかと思いきや、それが絶妙な文学に落とし込まれている感じがしてすごく好きなので」
「だから、音楽も映画も、特に映画はどんな作品を見ても面白くないって言えないんですよ。ちゃんと人が汗かいて作ってるんだから。人が作ったものを70点とか気軽に言えない。そこにはリスペクトしかないので」
そんな永野が先日、初の長編監督作となる映画「MAD MASK」を発表した。現在、Prime Video(劇場版)、U-NEXT(無修正版)で絶賛配信中だ。

永野を始め、アイナ・ジ・エンド、金子ノブアキ、斎藤工、戸塚祥太らが出演する狂気と笑いのブラックコメディは、韓国のプチョン国際ファンタスティック映画祭(BIFAN 2025)のアドレナリン・ライド部門で入選。正式出品およびプレミア上映もされるという話題作だ。
大の映画通でもある永野が世に放つ、狂気の真骨頂がここにある。
「もともとは人の皮を剥ぐっていう原案があって、そこから膨らませて作っていったんですけど。思っちゃいけないこと、やっちゃいけないことを詰めこんだ作品になりましたね」
「やりたい放題やって辞めてやろうかと思うけど、でも辞めれない、そんな自分の心の中身がブワッと吐き出された映画だと思います。見る人が見たら、おじさんの更年期の症状がモロに出てる映画かもしれません。自分の気持ち悪い部分がいっぱい詰まった集大成になってますので、是非ご覧ください」
永野 初監督映画作品「MAD MASK」
U-NEXT、Prime Videoで絶賛配信中
Prime Video(劇場版)
U-NEXT(無修正版)
文/太田ポーシャ