
1960年9月20日に開業した映画館「丸の内TOEI(東京都中央区銀座3丁目)」が、東映株式会社本社の入る東映会館の再開発に伴い、2025年7月27日(日)に閉館する。東映最後の直営館であるとともに、日本最後のロードサイドシアターとしても愛され続けてきた同劇場は、自社作品の興行やイベントにとどまらず、銀座地区ひいては、映画業界全体の盛り上げにも寄与してきた映画界の聖地でもある。
東映は現在、丸の内TOEI閉館に向けた関連事業について部署を横断したメンバーによる“全社プロジェクト”として進めている。65年という長い歴史のグランドフィナーレを彩る「さよなら 丸の内TOEI」プロジェクトのコンセプトは、劇場にかかわる全ての人への感謝と「映画館で映画を観る」ことの大切さを改めて訴求することで、7月27日(日)までの80日間にわたる100作品以上の傑作特集上映に加え、劇場を活用したさまざまなイベントを展開中だ。
そして、6月21日(土)には『あぶない刑事』(1987年)の上映後、舞台挨拶に、主演の舘ひろしさん(75)と柴田恭兵さん(73)が登壇。「丸の内TOEI」のラストショーを盛り上げた。不朽の名コンビ、タカとユージを演じた舘と柴田にとって「丸の内TOEI」は何度も訪れてきた舞台でもある。『帰ってきたあぶない刑事』の舞台挨拶以来の久々の登場に、満席となった大勢のファンたちの熱気に包まれ、最後まで大盛況のイベントとなった。その模様をお届けしたい。

当時の東映・社長に言われた言葉にカチン
「ラストショータイムin丸の内TOEI!」
MCからの開会宣言とともに舞台挨拶がスタートすると、これまでの「あぶない刑事」シリーズの舞台挨拶イベントの映像で構成されたオープニング映像がサプライズで流され、1996年にタカとユージが「丸の内TOEI」に初めて登壇した時の模様や、これまでの様々なイベントがダイジェストで紹介された。
館内のボルテージが最高潮に達したところで、劇中で着用していた衣裳で颯爽と登場したふたりは、鳴りやまない拍手に包まれつつ、「50年前、東映の『暴力教室』で俳優としてデビューしました。この丸の内TOEIも自分の中でたくさん思い出のある映画館です」と舘さんが切り出した。

「あぶない刑事と柴田恭兵さんに出会ったことで、自分の俳優人生が豊かになった」と感慨深い様子で挨拶。一方、柴田さんは「こんなに、狭かったかなぁ」と館内を見渡しながら久々の丸の内TOEIを懐かしみつつ、超高倍率になったという舞台挨拶イベントにちなみ「『あぶない刑事』も“運”だけでやってきた映画です。会いに来てくれてありがとう。皆さんに会いたかった!」とコメント。会場は大きな拍手と笑顔に包まれた。
最初は、ふたりの思い出として残っている『あぶない刑事』の舞台挨拶についての話題から。舘さんは「一作目の公開の時は、映画が斜陽になりかけていた時期だったが、階段の下までお客さんがいっぱいになった」と、当時の凄まじい人気ぶりを振り返った。続いて、柴田さんは、一作目の公開初日舞台挨拶が終わった後、当時東映の社長だった岡田茂さんに「柴田君、この映画はよくわからんのぉ。こんなの、ヒットするのかね」と言われ、カチンときて「社長にとってわかりやすい映画はヒットしません。社長には“わからないから”絶対にヒットします!」と啖呵をきったというエピソードを披露。会場を沸かせた。

続いて、映画化を初めて映画化の話を聞いた時の印象を聞かれると、舘さんはテレビシリーズで終わりだと思っていたこともあり、「めんどくさいなぁ」というのが最初の印象だったとコメント。ただ、当時は石原裕次郎さんが亡くなった年でもあり、公開初日にチケットとパンフレットを持って石原さんの自宅を訪ねて「社長、今日公開しました」と大ヒットの報告をしに行ったことを明かした。
一方、柴田さんは、テレビ番組のギャグが映画になってもきちんと伝わるかがとても心配だったとコメント。それゆえ、自ら舞台挨拶後に映画館にお客さんの反応を見に行ったことがあると語った。その時、お客さんが凄くウケていたことが嬉しくて、次の映画では「もっとやってもいいんだ」と自信につながったというエピソードを語った。

ユージは涙脆いキャラクター、映画で泣いたのはこの一作目だけ
撮影時の思い出について話が及ぶと、舘さんは一作目の映画で監督に、「オートバイから、ひょっとしたらトラックに飛び乗れるかもしれない」と、そもそもストーリー上、必要のない演出ではあったものの、自ら提案して採用されたことを明かした。撮影は万が一、負傷しても大丈夫なよう最終日に行なわれたという。このシーンもそうだが館さんがハーレーで登場するショータイムのシーンなどは、最終日に近い段階で行なわれることが多かったが、柴田さんは毎回「絶対にケガだけはしないでくれ!」と祈っていたことを明かした。ここでもふたりの絆の強さを垣間見ることができた。
また柴田さんは、「ユージは涙脆いキャラクターだけど、映画で泣いたのはこの1作目だけだった」のだが、最新作の『帰ってきた あぶない刑事』でも、土屋太鳳さんがハーレーで去っていくシーンで少し涙を流したというエピソードを明かした。そして、タカとユージが一作目でタンゴを踊るシーンに話が及ぶと、このシーンも舘さんが監督に軽い気持ちで提案。真夏の撮影でふたりで抱き合って汗だくになりながら撮影し、終わった後で「言わなきゃよかった」と後悔したことを明かし、会場は笑いに包まれた。

刑事ドラマの常識を覆した新しいスタイル
MCから、キャラクターの設定にふたりのアイデアが反映されているのかと質問されると、舘さんは「『あぶない刑事』は、恭サマが作ったもの」で、「家に例えると、自分は土台で、恭サマが建物でした」と例え、従来の刑事ドラマの常識を覆す新しいスタイルを確立していった経緯を語った。
また、数多くのゲスト俳優について話が及ぶと、舘さんは「室田日出男さんとは『暴力教室』以来の共演ができて嬉しかったのを覚えている」と語り、柴田は「自分たちが無茶ぶりばかりするけど、その都度、どんなゲスト俳優も皆、快く受けてくださり、ゲストの方々が“あぶ刑事”のテイストを感じ取ってくれて、僕たちを活かしてくれて、とても楽しかった」と当時の様子を感慨深く振り返った。
最後に、7月27日に閉館する丸の内TOEIについて聞かれると、舘さんは「本当に、僕にとって思い出が詰まった映画館です。とっても寂しい気持ちもありますが、これからも東映の映画を愛してください。ありがとうございました」と挨拶。柴田さんは「丸の内TOEIは、7月27日をもって閉館となりますが、我が“あぶない刑事”は永久に不滅です!」と声高々と締めくくった。

トークショーのノーカット動画はコチラ
そんな歴史と名優たちの情熱が詰まった丸の内TOEIは、閉館まであと1か月。往年の名作から話題作まで80作品以上の特集上映が決定している。上映が決定している一部の作品は以下のとおり。
「網走番外地」(1965)に始まり、
「仁義なき戦い 広島死闘篇」(1973)、
「銀河鉄道999」(1979)、
「動乱 第1部 海峡を渡る愛/第2部 雪降り止まず」(1980)、
「鉄道員(ぽっぽや)」(1999)、
「バトル・ロワイアル」(2000)、
「劇場版 仮面ライダーディケイド オールライダー対大ショッカー」(2009)、
「さらば あぶない刑事」(2016)、
「ONE PIECE FILM RED」(2022)、
「レジェンド&バタフライ」(2023)
といった往年の名作から近年の話題作に至るまで充実のタイトルが東映のエンターテインメントの歴史を示している。 映像内に収まりきらない他の作品も含め80タイトル以上の特集上映となる予定で、いったいどんな内容になるのか期待が高まる。上映ラインアップにお気に入り作品がある人は、足を運んでみてはいかがだろう。

「さよなら 丸の内TOEI」概要
開催期間:2025年5月9日(金)~7月27日(日)80日間
企画内容:1.80タイトル以上の作品の特集上映
2.俳優陣や製作スタッフによる舞台挨拶やトークショー
公式サイト https://marunouchi-toei-sayonara0727.jp/
公式X: @m_toei_heikan
https://www.youtube.com/watch?v=4Kp1wzgWHC4
取材・文・撮影/DIME編集部 写真提供/東映