
熱愛、結婚、不倫、痴情のもつれ… メディアにしろ、噂話にしろ、私たちの回りには色恋に関する話題が、毎日たくさん飛び交っている。
ときには、恋愛スキャンダルをきっかけに、キャリアを失うこともある。古今を問わず、恋愛は強烈に人々の関心を引くテーマだ。
日本人の恋愛満足度「恋愛や性生活」「愛されていると感じること」が30か国で最下位
人生の豊かさに直結する恋愛満足度。では、日本人の恋愛満足度は世界各国と比べるとどの程度満たされているのだろうか。 イプソスは、日本を含む世界30カ国23,765…
一方恋愛のあり方は時代とともに変わっている。
こども家庭庁の調査」によれば、既婚者が配偶者と出会う機会の1位は「マッチングアプリ」(25.1%)だという。ちなみに2位は「職場や仕事の関係、アルバイト先」(20.5%)、3位は「学校」(9.6%)。
私たちは恋愛をどうとらえ、どのように楽しめばよいのか? 人類学者の奥野克巳先生に、古今東西の恋愛を聞いた。

奥野克巳(人類学者・立教大学教授)
1962年生まれ。北・中米から東南・南・西・北アジア,メラネシア,ヨーロッパを旅し,東南アジア・ボルネオ島で、焼畑稲作民カリスと狩猟民プナンのフィールドワークに従事。主な著書に、『何も持ってないのに、なんで幸せなんですか?』(吉田尚記との共著, 2025年), 『ひっくり返す人類学 ――生きづらさの「そもそも」を問う』(ちくまプリマー新書, 2024年) ,『はじめての人類学』(講談社現代新書, 2023年), 『モノも石も死者も生きている世界の民から人類学者が教わったこと』(亜紀書房,2020年),『ありがとうもごめんなさいもいらない森の民と暮らして人類学者が考えたこと』(亜紀書房,2018年、のちに新潮文庫,2023年),主な訳書にティム・インゴルド『人類学とは何か』(共訳,亜紀書房,2020年)など。
恋愛の賞味期限は4年

筆者:先生、恋って何ですか!?
奥野先生:直球で来ましたね。恋愛は人類学でも大きなテーマですよ。 生物人類学者のヘレン・フィッシャーは、「恋とはある異性の他の異性との違いの過大評価である」と言いました。
筆者:深いですねえ。好きになってしまうと、実際以上にその人がよく見えてしまう。「恋は盲目」「あばたもえくぼ」ですね。
奥野先生:しかし、熱はやがて冷めます。恋愛の賞味期限は3~4年と、フィッシャーは言っています。
筆者:結構すぐ冷めるんですね!?
奥野先生:一組の男女の恋愛関係は、遺伝子を残す点でメリットがあります。人間の両親は性交渉して子どもをつくり、独り立ちできるよう一緒に育てます。恋愛は、その間人類に与えられた「一時的」な特性です。
反対に言えば、子どもが独り立ちしてしまえば、男女が愛をはぐくむ感情は不要になります。生物学的には、その期間が4年ほどだということです。
筆者:すごいドライな関係…。
人は愛ではなくイデオロギーで結ばれる?

筆者:でも、恋愛で結ばれて一生添い遂げる夫婦もいますよね。と、いうかそれが望ましいと思われていませんか?
奥野先生:それは、欧米的で近代的な「イデオロギー」に過ぎません。エドワード・ショーターは、「性」と「生殖」と「愛情」が結びついた三位一体を、近代の家族特有の価値観だとしました。近代社会の発展と、キリスト教的な考え方の上に成立したものです。 日本も明治に欧米に倣って近代化し、家族に関する法律が定められ、価値観として定着しました。
筆者:教会の結婚式では「病めるときも健やかなるときも…」って言いますものね。西欧的な価値観を良しとして、憧れを抱いている感じすらあります。
でも、やっぱりちょっと味気ないなあ。私の父と母は、40年以上連れ添っていますが、イデオロギーで結びついてるってことですよね?
奥野先生:イデオロギーによってつくられた愛情、ということでしょう。唯一のパートナーとの永続的な愛と性の関係を望むことを「ロマンチック・ラブ・イデオロギー」と言います。人類普遍の特性ではなく、むしろ近代的な社会の特殊な価値観です。
筆者:ロマンチック・ラブを信じてるのは、一部の人だけということですか?
奥野先生:そうでしょうね。私は、東南アジアの先住民プナンの社会でフィールドワークを行っています。彼らは性交渉して結婚し、子どもを育てますが、数年経って互いに飽きると別れてしまいます。また別の異性と結ばれて、一生に何度も結婚するんです。
他にもアフリカでは一夫多妻の文化がありますし、ヒマラヤの一部では一妻多夫の地域もあります。多くは経済的な事情からそうなっているのですが、愛情には外的な要因でさまざまなカタチがあるということです。ロマンチック・ラブだけが優れている、という考え方は、人類学ではしません。