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動員数は2万人を突破!「士郎正宗の世界展」で〝原典〟回帰が加速する理由

2025.06.27

「士郎正宗」というクリエイターをご存じだろうか? 代表作は『攻殻機動隊』。1980年初期から当時の最先端科学技術に立脚した情報化社会の未来を描き、SF漫画の地平を切り拓いてきた。

そんな士郎氏初の大規模展覧会「士郎正宗の世界展~『攻殻機動隊』と創造の軌跡~」が世田谷文学館(東京都世田谷区南烏山)で開催されている。

多くのクリエイターに影響を与えた士郎正宗ワールド

寡作の作家だが、士郎正宗ワールドとも呼ばれる作品・世界観は、のちの漫画家、SF作家、映画監督など、多様なクリエイターたちに多大な影響を与えたといわれており、氏が放ったインパクトの残響を感じさせる作品・プロダクトは後を絶たない。

例えば、脳とコンピュータネットワークを接続する「電脳化」、テクノロジーを活用して人間の能力を拡張する「トランスヒューマニズム」、温度センサーで検出される熱を隠して周囲の環境に溶け込む「熱光学迷彩」、最も身近なものでいえば「スマートフォン」を思わせるガジェットだろう。それらを現実に先んじて描写してきたのだから、その先見の明と進歩史観の鋭さに舌を巻く。

世田谷文学館の入り口
『ドミニオン』の展示風景

展示フロアには、初期作品集の『ブラックマジック』から、『ドミニオン』(1984年~白泉社→青心社)『アップルシード』(1984年~青心社)、『攻殻機動隊』(1989年~講談社)、『仙術超攻殻オリオン』(1990年~青心社)、そして現在に至るまでの初公開を含む漫画原稿・原画約300点を展示。

「士郎正宗の描き方」では画材や蔵書、制作過程などを紹介

さらにアナログ時代の画材、膨大な設定資料、制作メモ、世界観・哲学形成に寄与したであろう蔵書60冊などを本人のコメント付きで公開しており、士郎正宗ワールドの源にも触れられる貴重な機会となっている。

前述のとおり、士郎氏はSF漫画界に金字塔を打ち立てた巨匠である。一方で、アニメ『攻殻機動隊』シリーズの原作者として世界的な知名度を獲得した経緯もある。そのため、アニメを入り口に原作を手に取るファンは多い。そして、熱量が高くなるほど「原作とアニメは別物」と語られる稀有な作品でもある。どういうことか?

2001年から士郎正宗氏の担当編集を務める講談社の桂田剛司さん(ヤングマガジン編集部・編集次長)に話を聞いた。

漫画家としてのズバ抜けた才能を再提起するために

『攻殻機動隊』の展示風景

――『攻殻機動隊』の成功はアニメの功績抜きでは語れないという認識です。今回あえて士郎正宗氏の漫画家・イラストレーターとしての歩みに着目した狙いは何でしょうか?

おっしゃるとおりです。『攻殻機動隊』という作品は、1995年に劇場公開された押井守監督『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』でスケールのきっかけを掴み、2002年に放送された神山健治監督のTVアニメ『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』でファンの裾野を一気に広げました。

現在もアニメ版『攻殻機動隊』は、監督とスタッフ、キャラクターデザインを変えながら拡張を続けています。ですが、こうした成功の反面、何よりも僕自身が〝士郎正宗は『攻殻機動隊』以外の作品もすごいんだ〟〝いつかは出版社の垣根を超え、士郎正宗という作家の魅力を体系的に紹介したい〟という思いを強く抱くようになったんです。

――奇しくも今年は士郎氏にとって商業デビュー40周年を迎えた節目の年。また、2026年発表に向けて新作アニメ『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』も動いています。

「士郎正宗の世界展~『攻殻機動隊』と創造の軌跡~」は、いわば前哨戦。漫画家・イラストレーターである士郎正宗の才能を再提起する絶好のタイミングだと考えて企画しました。

――担当編集者として漫画家・士郎正宗の魅力をどのようにとらえていますか?

士郎作品に共通する魅力は〝3つの密度〟にあると感じています。ひとつは〝設定密度〟。士郎正宗ワールドは、ひとつの箱庭のようなものだと解釈しています。というのも、士郎さんが執筆した『攻殻機動隊』の原作コミックスは全3巻しかありません。

劇場版を含むアニメ諸作品は、30年以上前に描かれた第1巻の設定を下地にしていますし、「自分の作品は古いから」「漫画家さんやアニメーターの感性に任せる」という士郎さんたっての希望で、監督それぞれの作家性を尊重した作品作りに努めています。

たった1冊の漫画の設定だけで、ストーリーをあれほど広げられることはもちろんですが、キャラクター造形や表現、人間関係、作風を変えたとしても『攻殻機動隊』らしさは揺るがない。それだけ士郎正宗ワールドの設定強度はずば抜けているんです。

展示フロアの入り口風景

次に〝画の密度〟。一般的に漫画家はあおった画角で作画することを嫌います。理由は単純で、描き込みが面倒だから。でも、士郎さんはディテールにも手を抜かないんです。街並みはもちろん、ビルの高さひとつとっても作為を込めています。それは『アップルシード』であっても、『仙術超攻殻ORION』であっても変わりません。だから、読み返しても未だに新たな発見があるし、ストーリー以上に圧倒的な情報量によって世界観をより強固にさせているんです。

『アップルシード』展示風景

ただ、当時の絵柄を拙く感じる部分や原稿の状態もあるんでしょうね。本人から生原稿を提出いただくのには、かなりの時間がかかったんですよ。でも、とんでもない。ぜひ会場でまじまじと眺めてみてください。アナログ時代の士郎さんの画って、驚愕するほど緻密なのに、書き損じが一切ない。漫画編集に長く携わっていても、これほどレベルの高い生原稿を見る機会はそうそうありませんから。

すべては再現されていないが、注釈付きの生原稿も展示している

最後は〝欄外の密度〟ですね。作者は物語の世界観を成立させるために、読者にたくさんの嘘をつきます。特に士郎正宗は設定厨の側面の強い作家ですから、頭の中にはもっとリアルな世界が広がっているんでしょう。でも、ストーリーをエンタメ化するために、なくなく割愛しなくてはならない。要するに欄外の注釈は、そのあふれ出る釈明の受け皿の役割を担っているのだと解釈しています。

――「欄外注釈こそが士郎作品の本体だ」と語るファンも少なくありません。

『仙術超攻殻オリオン』の展示風景

かれこれ四半世紀近く漫画編集者をしていますが、商業誌でこれほど欄外を活用する作家に出会ったことはありません。『仙術超攻殻オリオン』なんて、本編と同等のボリュームを割いて設定を解説していますからね(笑)。

作中のフィクションがリアリティーを帯びてきた

「士郎正宗の創造の軌跡」では士郎作品を発表順に整理

――強固な設定、緻密な描き込み、そして欄外を含む圧倒的な情報密度。そしてもうひとつ、士郎正宗ワールドの基盤となるテクノロジーに現実が追いついてきたことは、原作再評価の追い風になるかもしれません。

士郎正宗ワールドは、すべての作品が一本の時系列に沿って描かれていることも大きな特徴です。最初期の『ブラックマジック』が一番遠い未来の話。『アップルシード』の舞台は第5次非核大戦勃発から2年後の2127年、『攻殻機動隊』は第4次非核大戦終戦から5年後の2029年、原案を手がけた『紅殻のパンドラ -GHOST URN-』は2022年頃の物語。僕らは未来に向かって歩んでいるけれど、士郎正宗ワールドは遡行しながら拡張しています。

「電脳化」「義体」はもとより、インターネットすら身近ではなかった1990年代当時、『攻殻機動隊』を読んでもイメージが追いつかず、敬遠してしまったという読者は少なくないでしょう。それから30年が経ち、宇宙産業を見据えた実業家が台頭する時代になりました。

おそらく現代の若者は『攻殻機動隊』『紅殻のパンドラ』で伝えようとしている内容にリアリティーを感じていただけるでしょうし、古参の我々は作品を改めて読み返すことで、1980年代から描き続けた未来予想図の解像度の高さに驚くはずです。ぜひこの機会に士郎ワールドの深みを再確認していただきたいですね。

『攻殻機動隊』のスケールは止まらない

――最後に、東京会場・世田谷文学館に続き、2025年9月5日(金)から10月5日(日)まで、大阪・心斎橋PARCOでの巡回開催が決定しました。また、2026年には原作コミック第1巻と同じく〝THE〟を冠した新作アニメ『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』の発表とともに、映画やTVシリーズのアニメ版『攻殻機動隊』にフィーチャーした展覧会も予定されています。

〝原作が完結したら終わりではない〟と常々考えています。それだけの強度を持った作品ですし、作家の才能を最大化することが出版社のミッション。士郎さんから預かっている『攻殻機動隊』は、すでに大きな存在ではあるけれど、もうひと回り大きなポップカルチャーへと成長した『AKIRA』の例もあります。

そこまで昇華させたいし、最終的に『攻殻機動隊』はマニアが熱狂する作品という枠を飛び越えて欲しいという、僕なりの願いもあります。そのために、アニメやイベントなど、たくさんのファクターを積極的に活用しますし、まずは誰が見てもカッコいいと感じてもらえる、深みを伝えられるまでスケールすることを目指しています。

士郎正宗の世界展 ~「攻殻機動隊」と創造の軌跡~
会期:2025年4月12日~8月17日
会場:世田谷文学館 2階展示室
住所:東京都世田谷区南烏山1-10-10
開館時間:10:00~18:00 ※展示室・ミュージアムショップへの入場は17:30まで
毎週月曜は休館(ただし月曜が祝日の場合は開館し、翌日休館)
料金:一般 1500円、65歳以上・大学・高校 1200円、小/中学生 450円、障害者手帳をお持ちの方(ただし、大学生以上は無料)750円
公式サイト:https://www.shirow-masamune-ex.jp/
公式SNS:https://x.com/shirow_ex

(C)Shirow Masamune/KODANSHA
(C)Shirow Masamune/SEISHINSHA
(C)Shirow Masamune/「士郎正宗の世界展」製作委員会

取材・文/渡辺和博 撮影/藤岡雅樹

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