
マンションのモデルルームを見学すると、誰しも気持ちが高まる。
実際の生活を想像しながら、「ここに住んだら…」とワクワクするのは当然だ。
だがその高揚感こそが、冷静な判断を鈍らせる“罠”になる。
モデルルームは、生活感が排除された“演出空間”だ。よく見せるためのオプション仕様が多数使われていたり、実際の部屋とは天井の高さが異なるケースも珍しくない。
購入を検討するなら、見学時に“本当に見るべきポイント”を押さえておきたい。
集合住宅を数多く設計してきたプロの視点から、注目すべきチェックポイントを紹介する。
生活動線は「暮らしやすさ」を左右する
ラグジュアリーなリビング、雰囲気のある照明演出などに目を奪われがちだが、モデルルームで確認すべきは“生活動線”だ。
玄関からキッチン、洗濯機置き場からベランダまで、毎日どんな動きになるかを頭の中でシミュレーションしてみよう。動線が交差していたり、無駄な動きが多い間取りは、日々のストレスにつながる。
天井高にご注意。実物と異なる可能性も
モデルルームと実際の部屋では、天井高が異なるケースがある。
たとえばマンションの上層階と中層階では天井の高さに差がある設計もあり、モデルルームは天井の高い“見栄えのいい部屋”で作られていることもあるので注意が必要だ。
必ず購入を考えている階の天井高を確認しておこう。2m45cm~2m55cmが一般的だが、10cm違うだけで部屋全体の雰囲気はずいぶん変わる。
室内だけでなく「外の環境」も見る
モデルルームでは再現できない“外の条件”にも気を配りたい。
たとえば「どれだけ日照があるか」「バルコニーからの眺めはどうか」。さらには「ごみ置き場の位置」や「駐車場や駐輪場への動線」など、日常の快適さやストレスに直結する要素は意外と多い。
細かい点では、バルコニーの物干しの位置や高さも確認しておきたい。リビングで過ごすときに視界に入ってくるかどうかなど、住戸での“過ごしやすさ”を左右する要素は意外と細部に宿る。こうした点にまで配慮されたマンションでは、設計段階から暮らしやすさが意識されている。
また、時間帯による日影をシミュレーションした「壁面日影図」という資料もぜひチェックしておこう。同じ階、同じ間取りでも住戸の位置によって日照時間が大きく異なるケースは多い。資料を見れば、「何時ごろにどの部屋に日が差すのか」が具体的にイメージできるはずだ。
見るべきは「設備」より「構造と配置」
オプション仕様のキッチンや洗面台など、豪華な設備に目を奪われがちだが、注目すべきは、バルコニーの位置や開口部の広さ、窓の材質・高さ、動線の整理され具合といった“構造と配置”である。
将来的にリフォームしたくなったときに、構造的に動かせるかどうかも影響してくる。
モデルルームは“暮らしを想像する場所”ではあるが、そのままの姿で引き渡されるわけではない。
気持ちを高ぶらせながらも、チェックすべきところは冷静に見極めたい。
その目利きが、購入後の後悔を防ぐ一歩になるはずだ。
この記事は、書籍『本当に価値のあるマンションの見つけ方』より、一部内容を抜粋・再構成したものです。書籍では他にも、購入前に知っておきたいマンション選びの視点を多数紹介しています。
■著者
日建ハウジングシステムは、1970年に日建設計より分社・独立。大規模ニュータウンが誕生したマンション黎明期に設立されて以来、50年以上にわたり、集合住宅などの設計に豊富な知見を生かし、「暮らし」の仕組みづくりを通じて住関連分野で高い信頼を築いてきた。これまでに12万戸を超える集合住宅を手掛けており、都市集合住宅の企画・設計および調査研究に卓越した専門性を誇る。2025年4月には日建設計と合併し、より幅広い住宅提案を行っている。
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この記事で紹介した内容は、まだほんの一部です。
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