
今年の冬はインフルエンザが猛威を振るい、12月末には1週間あたりの感染者数が過去最多を記録したというニュースが話題になったことは記憶に新しい。
夏も近づいてきた今、また別の感染症が1週間の感染者数の過去最多を記録したという。それが百日咳と伝染性紅斑(リンゴ病)だ。いったいこれらの感染症はどのような病気なのか、感染症専門医で藤崎メディカルクリニック副院長の佐藤留美先生に教えてもらおう。
1週間で3044人の感染が発表された「百日咳」
国立健康危機管理研究機構が公表したデータによると、全国の医療機関から6月2日~8日に報告された百日咳の患者数は3044人。全数把握を開始した2018年以降、1週間の報告として初めて3000人を上回ったという。伝染性紅斑も、6月8日までの1週間に、およそ2000の小児科の医療機関から報告された患者の数は1医療機関当たりで2.28人。現在の方法で統計を取り始めた1999年以降、最も多くなったそうだ。
「百日咳は名前のとおり、咳の症状が顕著で、症状が長期間、場合によっては100日ほど続くことがあります。どの年齢層でも感染しますが、主に子どもを中心に広がる病気です。特に小さな子が感染すると、肺炎や脳に炎症を起こす脳炎など重症化するリスクがあり、稀に亡くなってしまうケースもあるほどです。細菌感染なので、治療は抗菌剤を使用します。早めに飲むことができれば、咳も早めに治まり、重症化も防げます」
感染経路はコロナウイルスなどほかの感染症同様、飛沫感染や接触感染だという。
「私も医師になって20年以上経過していますが、ここまで百日咳が全国的に流行したのは初めての経験です。子どもを中心に広がる病気ではありますが、大人も罹ります。百日咳は生後2か月以降にワクチンを定期接種している人がほとんどですが、打っているからといって必ず罹らないというわけではない。抗体が付きにくいお子さんもいます。また、子どもは免疫の力がまだ弱いという側面もあります。そういう意味で言うと、免疫の力が弱まってきている高齢の方も感染すると重症化する危険性はあるため、気をつけてほしい」
同じく猛威をふるう「リンゴ病」とは?
もうひとつ流行しているのが、伝染性紅斑だ。頬が赤くなるため、俗称としてリンゴ病という表現をされることもある。
「こちらはウイルス感染で、ヒトパルボウイルスB19が原因です。10日~20日の潜伏期間のあと、熱など風邪のような症状がみられた後、両頬に蝶の羽のような赤い発疹が現れます。続いて、体や手足に網目状やレース状の発疹が広がります。こちらも、子どもを中心に感染は広がりますが、大人も罹らないわけではありません。大人が感染した場合、発熱、関節痛や倦怠感、頭痛、下痢といった症状を認めることがあります」
この病気は風邪と同様、対症療法しか存在しないという。発熱なら解熱鎮痛剤、咳ならば咳止めと、出ている症状に対する薬を服用することになる。だからこそ、特に注意な人がいるそうだ。
「妊婦が感染すると、胎児に影響が及ぶ可能性があります。特に感染しないように注意してほしい。伝染性紅斑も飛沫感染や接触感染です。百日咳はワクチンがありますが、伝染性紅斑にはワクチンはありません」
今、私たちにできる感染対策
これから夏に向けてどんどん暑くなる。マスクなどは息苦しく外したくなるところだが、感染対策はしっかり行いたい。
「これらの病気の流行はまだしばらく続くと思います。そして秋から冬にかけては、おそらく別の感染症も流行してくるでしょう。コロナ禍以降、さまざまな感染症が想定外の流行をしています。昨年はマイコプラズマ肺炎がとても流行しましたし、インフルエンザも猛威を振るったことが記憶に新しいと思います。コロナ禍で身に付いた感染対策は継続してほしいですね」
感染症は冬に流行しがちというイメージがあるかもしれないが、夏場も油断は禁物だ。手洗いやうがい、適宜マスクを装着することを意識しよう。そしてなにより、食事や睡眠を大切にし、感染をしても発症しない健康な体づくりを目指し、感染症に負けず夏を乗り切ろう。
佐藤留美医師プロフィール

2002年久留米大学医学部卒業後、久留米大学病院で研修医として勤務。現在は同大学の関連病院で呼吸器科・感染症科・アレルギー科として勤務する傍ら、藤崎メディカルクリニック 副院長を兼任。医学博士、日本内科学会認定医・総合内科専門医、日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本化学療法学会抗菌化学療法認定医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、日本アレルギー学会アレルギー専門医等を取得。
取材・文/田村菜津季