
「蚊」への対策が必須な時期に突入した。蚊に刺され、痒みを我慢できずついつい強く掻いてしまい、赤みがしばらく残ってしまったという経験をしたことがある人もいるだろう。
実はこの「蚊」は感染症を媒介する存在でもある。日本では近年流行していないが、油断は禁物。いったいどのような感染症を媒介するのか、そして蚊に刺された時の対処法について感染症専門医で藤崎メディカルクリニック副院長の佐藤留美先生に教えてもらおう。
命を奪うかもしれない「蚊」の危険性
蚊に刺されたら、痒みだけで治る人がほとんどだ。しかし、世界中では、さまざまな感染症を蚊が媒介し、人の命を奪ってきている。
■蚊が媒介する代表的な3つの感染症とは?
「蚊は人間から血を吸います。吸った人が感染症に罹患していた場合、それを蚊が媒介して、次に血を吸った人に感染させます。代表的な感染症が日本脳炎、マラリア感染、デング熱です。蚊が媒介する病気は、東南アジアなど熱帯地域で流行しがちではあります。しかし、日本でも油断は禁物です」
実際に2014年には代々木公園とその周辺に蚊が媒介したデング熱に160名近くの人が罹ってしまったという報告がある。
「近年は海外との交流も盛んです。荷物などと共に船にのり海外からやってきた蚊がデング熱を保有しているという可能性もあります。また、近年温暖化がすすんでいることも懸念点のひとつ。今までは熱帯地域で流行しがちでしたが、日本国内でも流行する可能性は十分にあります」
■感染対策はワクチンだけじゃ不十分?
代表的な3つの感染症のうち、日本脳炎は子供のころにワクチンを打っている人がほとんどだ。感染対策はばっちりではないのだろうか。
「ワクチンにはたしかに予防効果はあります。とはいえ打っていたら100%感染しないとも言い切れません。基本的に蚊に刺されたら、痒みだけで治まる人がほとんどです。必要以上に怖がる必要はないですが、感染症を媒介する存在だということは知っておいてほしいです。例えば、体に発疹が出てきたり、皮膚の変化を感じたり、下痢や発熱、全身倦怠感など、明らかにおかしな症状があれば、医療機関を受診してください。蚊が媒介する感染症は重症化すると命の危険もあります」
知っておきたい蚊に刺された後のケア
感染症に限らず、蚊に刺された後のケアを正しく行わないと、思わぬ症状を招くこともあるという。
■まずは冷やすこと
「蚊に刺されたら冷やしましょう。刺された部分を水で洗い、清潔に保つことで、痒みも治まってきます。体を温めてしまうと、血管が拡張し、痒みが増しかねない。それでさらに強く掻くなんてことになると皮膚の炎症が悪化する。厄介なのが、掻いた場所というのはつまり傷口です。そこから細菌が入り込むことがあり、化膿してしまうリスクがある。もし赤く爛れてしまったり、腫れがひどくなったりしたら医療機関を受診し、医師の診察を受けるようにしましょう」
■夏場は「蚊」以外の虫にも要注意!
アウトドアを楽しんでいる最中に蚊に刺されてしまい、搔きむしった後に、汚い水に傷口を晒すといった行為などは厳禁ということだ。更に夏は蚊だけではなく、虫全般にも要注意だ。
「夏場は虫に刺される機会が増えると思います。虫に刺されるという行為を甘く見ないでほしいです。例えばダニも病気を媒介する虫です。マダニに噛まれて、重症熱性血小板減少症候群を発症し亡くなる方もいます」
これからのシーズンは海や森、林、草むらなど、自然に触れる機会も増えるだろう。虫が生息していそうな場所に行く際は、虫よけスプレーを使用することを忘れず、長そで長ズボンを着用、そして靴を履くなどして、肌を露出しないよう、しっかり対策をしよう。
佐藤留美医師プロフィール

2002年久留米大学医学部卒業後、久留米大学病院で研修医として勤務。現在は同大学の関連病院で呼吸器科・感染症科・アレルギー科として勤務する傍ら、藤崎メディカルクリニック 副院長を兼任。医学博士、日本内科学会認定医・総合内科専門医、日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本化学療法学会抗菌化学療法認定医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、日本アレルギー学会アレルギー専門医等を取得。
取材・文/田村菜津季