
最近は気温も高くなり、すでに夏が近づいてきているのを感じる。暑い季節にはさっぱりとした麺類がたまらなく美味しいものだ。
冷たい蕎麦やうどんも捨てがたいが、筆者は冷麺を推したい。酸味と辛味がある冷たいスープに半透明で見た目も涼しい冷麺は夏にピッタリだと思う。
昔からよく盛岡に行く機会が多かったため、冷麺は比較的よく食べている方だ。しかし、韓国で冷麺を食べた時、麺の見た目や食感などが自分がよく食べていたものと結構違うことに驚いた。
どうやら筆者がよく食べていたものは「盛岡冷麺」で、韓国で食べた「韓国冷麺」とは材料から違うらしい。
どちらも美味しいのだが、せっかくなので「盛岡冷麺」と「韓国冷麺」について調査してみた。
盛岡冷麺を全国展開する「ぴょんぴょん舎」
ぴょんぴょん舎 稲荷町本店
「盛岡冷麺」を看板メニューとし、岩手県を中心に都内を含めた全国9店舗を展開している「ぴょんぴょん舎」。「ぴょんぴょん舎」を展開している株式会社中原商店 第1レストラン部東北課長の村上 博士氏に話を聞いた。(以下、「」内村上氏)
盛岡冷麺は薄い黄色の半透明でコシが強い麺に、さっぱりした透明感のあるスープという印象がある。盛岡冷麺の特徴はどんなところだろうか。
「盛岡冷麺は、コシが強く表面はツルッとして喉ごしの良い半透明の麺と、澄んだ牛骨ベースのスープが特徴の冷麺です。麺の主原料には、小麦粉と馬鈴薯でんぷんを使用しており、独特の弾力と滑らかな食感を併せ持っています」
ぴょんぴょん舎のスープは牛骨をじっくりと煮出して仕上げており、あっさりとしながらもコクと深みのある味わいを実現しているんだとか。
「また、具として加える乳酸発酵食の「キャベツと大根のキムチ」は、爽やかな酸味と程よい辛味、そしてシャキシャキとした食感が特徴です」
キムチの量によって辛さを調整できるのは盛岡冷麺ならではの魅力だという。「麺・スープ・キムチが三味一体となったおいしさが、盛岡冷麺の最大の特徴」だと村上氏は説明してくれた。
なぜ「盛岡」で冷麺が名物に?
新幹線で盛岡駅に降りると、駅構内や駅前に、いとも簡単に「冷麺」の文字を見つけることができる。筆者が子供の頃(30年ほど前)にはすでに冷麺が盛んだったと記憶している。
なぜ「盛岡」には「冷麺」が溢れているのだろうか?
「盛岡冷麺の起源は、1954年に在日朝鮮人の青木輝人氏が盛岡市内で開業した『食道園』で提供された冷麺にさかのぼります」
「食道園」は、盛岡市にて昭和29年に創業の焼肉店である。盛岡冷麺発祥の店として知られている。
「盛岡冷麺のルーツは、朝鮮半島に伝わる咸興(ハムン)冷麺と平壌(ピョンヤン)冷麺にあります」
咸興冷麺は、甘辛いソースに麺を混ぜていただくもので「ピビン冷麺」とも呼ばれる。スープはない。一方の平壌冷麺は「水冷麺」としても知られており、冷たいスープが特徴的だ。
「平壌冷麺は、ミルクのようにまろやかな高麗キジのだし汁に、酸味のある大根の水漬け「冬沈漬(トンチミ)」の汁を加えた、あっさり味のスープ冷麺です」
青木氏は、高麗キジのだし汁に似た牛骨スープに酸味と辛味のあるキムチを組み合わせることで、独自の味とスタイルを完成させた。
あっさりとしたスープの平壌冷麺に、咸興冷麺の辛さをキムチで取り入れたハイブリッドなものが「盛岡冷麺」のルーツというわけだ。
また、青木氏は当時の平壌冷麺に見られるそば粉を練り上げた黒っぽい麺の代わりに、小麦粉を主に用い、半透明の美しい麺を開発。
「朝鮮半島の冷麺特有のコシの強さはそのままに、『喉ごしの良さ』『見た目のおいしさ』を加えた、全く新しい冷麺を生み出しました」
こうして誕生した冷麺は、戦後の復興期という背景の中で新たな食文化として地域に受け入れられ、やがて「わんこそば」「じゃじゃ麺」と並ぶ“盛岡三大麺”の一つとして定着したという。
「現在では、盛岡を代表するご当地グルメとして全国に知られる存在となっています」
ぴょんぴょん舎の看板メニュー「盛岡冷麺」
ぴょんぴょん舎「盛岡冷麺」
東京・銀座の「ギンザ・グラッセ」11階にある「ぴょんぴょん舎 銀座UNA」にて、「盛岡冷麺」をいただいた。
ぴょんぴょん舎では、冷麺の辛さを「別辛・中辛・特辛・激辛」からチョイスできるが、初めての方には「別辛」がオススメとのこと。味の変化を楽しみながら食べられるのが、盛岡冷麺の大きな魅力だという。
透明なスープに透明感のある麺。スイカが添えられ、夏にピッタリのメニューだ。
まずはキムチを入れずにそのままの風味を味わう。スープのだしには、「国産の牛肉と牛骨を使用し、さらに鶏ガラを加えることで素材の持つ甘みを引き出し、深みのある味に仕上げている」とのこと。
また、スープは何度も丁寧に漉して動物性脂肪を完全に取り除いているという。濃厚で冷たいのに油分が固まったりすることなく、後味がさっぱりしているのが不思議だ。
麺には小麦粉と馬鈴薯でん粉をベースに独自配合した生地を用い、各店舗で製麺しているんだとか。コシの強さが印象的な半透明の麺が見た目にも涼しい。
コシの強い麺
「別添えのキムチを少しずつ加えながらお召し上がりいただくと、辛味や酸味が徐々にスープに溶け出し、味の調和を楽しむことができます」という村上氏のアドバイス通り、途中からキムチを少しずつ加えて味変を楽しみながら完食した。
別添えのキムチ
濃厚でありながらあっさりとしたスープに、キムチの辛み、コシの強い麺。3種それぞれの存在感がハーモニーになって味わえるのが「盛岡冷麺」の魅力だということが、改めて分かった。
韓国冷麺の老舗 「板橋冷麺」
板橋冷麺 大久保店
2014年に東京の大久保にオープンした「板橋冷麺(パンギョレイメン)」。韓国では40年以上続く老舗の人気冷麺店だという。
店主のシラハマ氏に韓国冷麺について話を聞いた。
「板橋冷麺」では大久保の店舗でも韓国で使っている素材と同じものを使用し、冷麺を提供しているという。本場韓国の味わいが楽しめるというわけだ。
オススメは「水冷麺」と「ビビン冷麺」とのこと。特に「水冷麺」においては夏季には1日100杯も注文が入るんだとか。
冷麺は元々北朝鮮から伝わったもので、冷たくして食べることで、素材の味わいが引き立って美味しいのだという。
「盛岡冷麺」のルーツ「水冷麺」と「ビビン冷麺」
ぴょんぴょん舎の村上氏が話していた、盛岡冷麺のルーツとなった2種の冷麺である、咸興冷麺「ビビン冷麺(※)」と平壌冷麺「水冷麺」をいただくことにした。
(※)ピビンとビビンは表記の違いのみで意味は同じ。韓国語で「混ぜる」という意味
「ハーフ&ハーフ冷麺」(税込1,200円)のメニューがあり、2種を選んで注文できるのだ。
左が水冷麺、右がビビン冷麺
水冷麺のスープが板橋冷麺の特徴だと言うシラハマ氏。材料は企業秘密だがインスタントの物は使わず、さまざまな素材を煮込んでいるのだという。
そして、なんとスープが凍って溶けたシャーベット状になっている。これはこの店の特徴で韓国の冷麺のスープが全て凍っているというわけではない。
「冷やすことでより美味しくなる」とシラハマ氏。確かにさっぱりとしているのに濃厚な味わいが、シャリシャリのスープに凝縮されている。
麺は小麦粉、蕎麦粉、塩のみを使用。とてもシンプルな素材でできており、注文後に麺を作るのも「板橋冷麺」の特徴だ。
盛岡冷麺よりも見た目が黒っぽく、伸縮性がある。
平日はおかずをセルフサービスで提供しており、キムチなどもあったので麺に載せる食べるのかと聞いたところ「これは載せない」とのこと。
サービスのおかず
おかずとして別でいただくものだという。これは盛岡冷麺と違うポイントだ。
水冷麺の食べ方のオススメは練りからしとお酢を好みで入れていただく。それによってスープの味が引き立つという。
ビビン冷麺は、「よく混ぜて食べるように」とのこと。
甘味と辛みのある赤いソースにしっかり絡めていただく。食べ進めるうちにどんどん辛みを強く感じるようになってきた。そんな時となりの水冷麺のスープを飲むと口の中が冷やされてスッキリする。
どちらも美味しかったが、特に水冷麺のスープは冷たくさっぱりしているのにコクがあり、忘れ難い味わいだった。
盛岡冷麺とルーツになった韓国冷麺2種
今までに何度も食べている「盛岡冷麺」だったが、改めて食べてみて分かったことがある。
「盛岡冷麺」はやはり、コシの強い麺、濃厚なのにさっぱりしたスープ、そしてキムチが他の日本の麺類と大きく違うポイントだ。
そして韓国冷麺は、麺が持つコシや水冷麺のスープやビビン冷麺の辛さに、盛岡冷麺のルーツを感じることができる。
盛岡冷麺の歴史を知ってからそれぞれをいただくと、美味しいだけではなく発見もあって味わい深い。韓国発祥でありながら、もはや日本の麺料理の一種になりつつある「冷麺」。
ぜひこの夏は、ルーツを感じる冷麺の食べ比べをしてみてはいかがだろうか?
取材協力
ぴょんぴょん舎
HP:https://www.pyonpyonsya.co.jp/
板橋冷麺
HP:https://tabelog.com/tokyo/A1304/A130404/13167930/
文/まなたろう
今年のトレンドは?現役秘書が選んだ「接待の手土産」の注目ギフト10選
企業の幹部社員を多方面からサポートする秘書にとって、接待や会食の飲食店選びは責任の重い業務のひとつ。そんな秘書を応援するために2002年に株式会社ぐるなびが開設...
団地の1階に酒蔵が!わずか8坪の醸造所から生まれたクラフトサケの味わい
日本酒に極めて近い製法で醸された「クラフトサケ」が注目を集めている。 米を主原料としながらも醸造の段階でフルーツなど副素材を添加し、芳醇な香りと味わいをもたらす...