
費用対効果を意味する「コストパフォーマンス」―通称「コスパ」や、時間対効果である「タイムパフォーマンス」―通称「タイパ」が重要視される昨今。その影響はエンターテイメントや芸術鑑賞にも及んでいるように感じる。
Z世代においては、動画配信サービスで映画を観る際に約6割が「倍速で視聴する」という。(ナイル株式会社「Z世代の動画配信サービス利用実態に関する調査」(2024年)参照)
近年ではショート映画専門のサブスクリプション「SAMANSA」なども展開しており、“短い時間をいかに充実させるか”が今の世の中で重視されているようだ。
物価も上がり続けている現在、娯楽に割くお金と時間を節約している方が増えているのは当然の流れだと言える。
そんな中、無料でショートフィルムの配信をしている「ブリリア ショートショートシアター オンライン」に着目した。
無料で視聴可能な「ブリリア ショートショートシアター オンライン」
BSSTO公式HPより引用
「ブリリア ショートショートシアター オンライン」(以下、BSSTO)は、毎週水曜日に10分程度のショートフィルムを1本配信しているオンラインシアターだ。
3ヶ月まで過去の配信の視聴期間もあり、常に12~13本ほどのショートフィルムを視聴できる。しかも全て無料なのだ。(2025年5月現在)
BSSTOは、2008年2月~2017年12月まで横浜で運営していたショートフィルム専門館「ブリリア ショートショート シアター」を引き継いだオンラインシアターである。
俳優の別所哲也氏がショートフィルムの魅力を広げるべく1999年に開始し、2025年5月28日からは第27回目が開催された国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア(SSFF & ASIA)」。
そこに出典された作品の中から厳選したショートフィルムを、オンライン上で視聴することができるのが「BSSTO」の特徴だ。(BSSTOの代表も別所氏が務める)
そんなBSSTOの編集長である田中冬弓氏に、現在のショートフィルム事情について話を聞いた。
ショートフィルムのニーズは上昇中?
BSSTOの編集長 田中冬弓氏(写真右)
“タイパ”、“時短”などが重要視される昨今、短い時間で別世界を体験できるショートフィルムへのニーズはますます向上しているのではないだろうか?田中氏に会員数や視聴率の増減状況を聞いた。
「会員数は緩やかに上昇を続けています。現在は11万人を突破しました。視聴率は作品によって変動しますが、アカデミー賞受賞やカンヌ国際映画祭受賞の作品、インフルエンサーが紹介した作品は視聴率が高い傾向にあります」(以下、「」内、田中氏)
20代~30代の首都圏在住の女性が、最もボリュームのある層だという。
「映画館の数や年間に映画館に足を運ぶ人数も同様だと思いますが、首都圏や大都市圏が、やはりショートフィルム文化に関心のある方が多いということだろうとお思います」
どこからでも視聴可能なオンライン配信であるからには、もっと全国へ発信したいと田中氏は話す。
ショートフィルムは“削りの美学”
2008年から2017年まではショートフィルム専門館として、それ以降はオンラインでショートフィルムの提供を行っているBSSTO。
長くショートフィルムに携わっている方から見て、ショートフィルムの魅力とはズバリ何なのか気になるところだ。
「ショートフィルムの魅力を一言で言うと“削りの美学”です。心を掴むショートフィルムは、見る人にとって余白が多い作品である気がします。本編で説明されない部分が想像力を掻き立てます」
SSFF & ASIAでのショートフィルムの規定は25分以下だという。「その中で如何に伝えたいことを表現するか」がポイントになるんだとか。
原石の発掘
SSFF & ASIAの様子
ショートフィルムは若手の監督の登竜門でもあるという。そのため、数年後にアカデミー賞やカンヌ映画祭、サンダンス映画祭で注目を浴びる監督やブレイクする俳優が参加していることも少ない。
「ショートフィルムをステップとして、そこから育っていく映画監督や俳優さんも多いので、言わば宝石の原石の発掘という見方もできます」
原石の発掘と聞くと映画に詳しい玄人が観て楽しむ場合が多いのかと思ったが、そうとは限らないらしい。
「SNSで縦型動画やショート動画を楽しむ方が、そこからショートフィルムに興味を持ってくれるケースもあります」
SNSの時代に、サクッと楽しめるショートフィルムは合っているのかも知れない。
約5000作品の中から選び抜かれた250作からさらに厳選
BSSTOでは毎週水曜日に新しく1本のショートフィルムを更新しているとのことだが、映画はどのようにチョイスしているのか聞いたところ、映画祭の受賞作品やノミネート作品から厳選していることが多いという。
「『SSFF & ASIA』には世界から約5000もの作品が応募で集まってきます。その中から選び抜かれた250作ほどが、ノミネートや受賞作として選ばれます。BSSTOで公開するものは更にその中から厳選しています」
“バズりそう”と感じたものや、オンライン配信ならではの“シェアしたくなりそうなもの”を選ぶこともあるという。
有料化やアプリ化についてディスカッションも
現在無料で提供しているBSSTOだが、今後も無料で続けていく予定だろうか?
「現在BSSTOは、『東京建物』のマンションブランドBrilliaより協賛を得て、無料でショートフィルムの提供が可能になっています。
現在は配信期間が3か月間となっていますが、『それ以前の過去の配信も観たい』『もっとラインナップを増やしてほしい』という声もあり、そのようなニーズに応えるためのディスカッションも重ねています。無料のまま視聴できる環境は継続しつつ、一部有料化をしてみるなど...」
また、現在のブラウザ上のサイトでの視聴に加え、アプリ化へのリクエストも少なくないとのこと。
今後の展開について田中氏は次のように話した。
「より多くの作品を権利調達したり、視聴環境の改良をしたりと、具体的な課題を話し合っていますが、目指すは、オンラインで配信しているのみのプラットフォームではなく、『オンラインの映画館』を継続して魅力的な場所にしていくことです。
映画館に集う人たちが感じる居心地の良さや、同じ作品を同じ空間でシェアする共同体的な感覚、コミュニティやそこに行くと何か素敵な発見や出会いがある、といった映画館ならではのエッセンスがありつつ、そこにオンラインであることでの価値も加わり、全国でショートフィルムを楽しんでもらえる仕組みづくり、また、ショートなだけに、生活の一コマの隙間時間に映画体験ができる、したくなる、そんなサービスが作れたら良いなと思います」
短い時間で想像力を掻き立ててくれるショートフィルム。“削りの美学”をブリリア ショートショートシアター オンラインにて堪能してみてはいかがだろうか?
取材協力:ブリリア ショートショートシアター オンライン
HP:https://sst-online.jp/
文:まなたろう
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