
今、喫煙者の肩身が狭くなっている
2020年4月より、改正健康増進法が施行開始となり、これまで喫煙者にとっては憩いの場であった飲食店の多くが原則として禁煙となった。
この飲食店という括りの中には居酒屋も含まれる。お酒を飲みながら紫煙をくゆらせる。そんな大人の愉しみは残念ながら全国的にご法度となった。
さらに改正健康増進法は昔から喫煙者のオアシスとも言われていたパチンコホールにも、当然該当する。
昭和から平成にかけての、ホール全体がヤニで薄汚れ、空気の澱みが目に見えて判別できたような状況も、今となっては過去の物。
このような時代の変革は、ひとえに受動喫煙を防止し、多くの非喫煙者の健康増進のために求められてきたものだ。
喫煙者にとっては窮屈な日々と言えるかもしれないが、こういうことが求められる程度には、少し前までの日本において、受動喫煙リスクは異様に高かったのである。
昔、私たちの肺はもっと汚れていた!喫煙者だらけの昭和、平成…
喫煙者の数は、年々減少傾向にある。
喫煙文化は年齢層の高い人たちのもので、若者からすると健康を害するばかりか匂いも気になる上、昔ほどタバコが安価ではないことなどから敬遠される一方だ。
公益財団法人 健康・体力づくり事業財団が公開しているウェブサイト「最新タバコ情報」にも、JTが調査した全国の成人喫煙者率のグラフが掲載されている。
ここによるともっとも喫煙者が多かったのは昭和41年で、驚異の83.7%となっている。
成人が喫煙するのは当たり前の時代が、たしかにあったのだ。
筆者は昭和59年生まれで喫煙者数の最盛期は過ぎていたものの、それでも思い返せば右も左も喫煙者だらけだったし、そんな喫煙者のニーズに社会が応えるために、街の至る所に灰皿が設置されていた。
家族連れが訪れるファミリーレストランには全席に灰皿が用意されているのが普通の光景。
子供がいる席の横で、おじさんがタバコを吸っているのもまた普通の光景だった。
何なら子連れ客の両親ともがタバコを吸いながら子供の面倒を見ていたし、その両親のさらに親世代。祖父母がどっちも喫煙者で、家族そろって子供を副流煙で燻しているという状況も見受けられた。
それが当たり前の時代だった。
昭和が終わり、平成に差し掛かってもまだこの傾向は続く。
筆者は2003年に高卒でパチンコホール企業に入社したが、現場で働いていると店の中に籠るタバコの匂いで目が痛くなり、具合も悪くなったものである。
この当時は設置されている遊技機に灰皿が備え付けになっていたため、台の清掃も大変だった。
大抵は遊技機本体の左下に小さな灰皿がセットになっているのだが、つまり右手でレバーやハンドルを操作しながら、左手でタバコを吸うという仕草が当時のギャンブラーのマストだったということになる。
同時に、ユーザーのモラルに関してもあまりとやかく言われない時代であったため、副流煙が充満した店内に子連れで入店する若い親も見かけた。
一度だけ、まだ0歳児ぐらいの赤ん坊を抱っこしながらパチスロをしていた母親を見たことも。左右に座る客は当然、お構いなし喫煙……これは当時も愕然としたが、そんなことが許される時代が、ほんの20年ほど前まではあったのだ。
筆者はこれまで一度もタバコを自分から吸ったことはないが、昭和から平成にかけて生きてきた人の肺というものは、タバコを本人が吸おうが拒もうが、全員ある程度うっすら、汚れていたんだろうなぁ。
とにかく万事が喫煙者優先!家庭、交通機関、病院。どこでも灰皿が当たり前だった!
喫煙者が多い時代ということは、それだけ吸わない人の立場が尊重されない時代ということでもある。
パチンコホールのような、一種の外界から隔絶された空間だからこそ、前述のように異様に喫煙者が密集するような状況が成り立っていたという話ではない。
日常生活の何から何まで、喫煙者の存在ありきだったことは間違いない。
たとえば職場。煙草を吸う人が多いわけだから、オフィスはヤニ臭く、壁も黄色くなっていることが大抵だったし、吸わない人の人権などは顧みられることもなかった。
吸うのが当たり前。吸わないと仕事にならない。タバコ休憩はするし、オフィスでも吸う。そういうのが当たり前だった。
そういう人たちが仕事を終えて帰宅する際に利用する公共交通機関でも、当然喫煙は可能だった。
2024年になってやっと新幹線も全面禁煙となったが、新幹線だけじゃなく、かつては普通の電車も少し前までは喫煙者で溢れていた。
なにせ座席に小さな灰皿が備えられており「どうぞここで吸ってください」というお膳立てがあったので、電車でも吸うのは自然なことだったのである。
これが見直されたのは2003年5月のこと。
先に紹介した改正健康増進法の前身にあたる、健康増進法の施行による変革で、これ以降全国的に電車の中での喫煙はご法度となった。
街のいたるところに灰皿が設置されていたかつての日本。これには病院も含まれる。
待合室に灰皿が置かれており、医師も仕事の合間にあちこちで喫煙するのは当然の光景だった。不思議なもので、あまりに堂々と医者が喫煙していると、それがおかしなこととは思えなかった。
そういう時代だったんだけど、タバコのせいで身体を壊して入院する人も当然いたわけで、患者の心境としては複雑だったに違いない……。