家族に迷惑をかけないために、自分自身ができる「終活」の工夫
まだ働き盛りで現役世代だからといって油断してはいけない。
むしろ現役世代のうちに、家族に迷惑をかけないように、デジタル遺産を棚卸し、万が一のときにどう家族に受け渡すか。デジタル終活を早めにしておくことがよい。
だが、デジタル資産のIDやパスワードをそのまま書き下して家族に渡すのは、気が引けるし、プライバシーが守れなくなる。第三者に乗っ取られるリスクもある。
では、どうするのが良いだろうか。デジタル遺産の管理で認識しておくべきは「一元管理」「安全性」「情報共有のしやすさ」の3つの要素である。
これらを踏まえると、以下の3つの工夫が可能だ。
(1) パスワードマネージャーアプリを使い、緊急時にのみ第三者がアクセスできるようにする
(2) エンディングノートアプリに情報を記録する
(3) Googleサービスは、Googleアカウント無効化管理ツールを使う
補足しながら紹介していく。
工夫(1) パスワードマネージャーアプリを使い、緊急時にのみ第三者がアクセスできるようにする
●アプリの例
・1Password(個人向け月額2.99ドル~/ファミリー向け月額4.99ドル~)
・Keeper(個人向け月額381円/ファミリー向け月額755円)
・Bitwarden(個人向け無料/緊急アクセスなどのプレミアム機能月額1ドル)
これらのアプリは本来、大量に増え続ける様々なサービスのIDとパスワードを安全に一元的に記録・管理するためのものだ。
しかし、その強力な暗号化技術と安全なメモ機能、ファイル添付機能などを使い、各サービスの口座情報、契約内容、秘密の質問の答え、デジタル化した遺言書の保管場所など、デジタル遺産の重要情報を一元的に記録・管理できる。
特にKeeperの緊急アクセス機能や1Passwordの指定した人へのアクセス機能は、本人が万が一のときに、あらかじめ指定した信頼できる家族や弁護士などに限って、保管情報へのアクセスを許可できる。デジタル遺産の円滑な引き渡しを実現してくれるといえる。
工夫(2) エンディングノートアプリに情報を記録する
●アプリの例
・わが家ノート
・税理士事務所がつくったエンディングノート
・つなまも
エンディングノートとは、ご自身の病気や認知症、死亡時に備えて、残されたご族や大切な人へのメッセージ、伝えておきたい情報を書き留めておくノートのこと。
紙のノートタイプで市販されているものに加え、スマホアプリ形式のデジタルエンディングノートもある。情報の安全性を考えると、スマホアプリタイプのものに記録しておく方がより安全であると言える。
これらのアプリでは、利用するオンラインサービスの一覧、IDやパスワードの保管場所、データの取り扱いの希望(削除してほしい、家族に引き継いでほしいなど)を記録しておける。た
だし、アプリのサービスが将来的に終了するリスクがあるので、定期的な見直しやパスワードマネージャーアプリなどと併用しておくことをお勧めする。
工夫(3) Googleサービスは、Googleアカウント無効化管理ツールを使う
Google アカウント無効化管理ツールは、GmailやGoogle Driveなど同社が提供するサービスに対し、ユーザーが事前に設定した期間にアカウントへのアクセスが無い場合に、あらかじめ指定した信頼できる人最大10人に通知を送ったりデータ共有を許可したりできるアプリである。
通知をする代わりに、アカウントと関連データを完全に削除することもできる。
ケガや病気で長期入院した時に、お金を代わりに引き出して貰ったり、入院中に不要なサブスクを解約したりしてもらうときにも有効な選択肢となる。
財産の継承方法を設計するなら「家族信託」の選択肢もアリ
家族信託とは、文字通り、自分の財産管理や承継を生前のうちに、家族へ託すための契約である。
信託銀行や司法書士法人などがサービスを行なっているが、相続手続きに比べて知名度は高くない。
出典:法務局
亡くなった後に初めて効力を持つ遺言と異なり、契約後すぐに効力を発揮するので、生前のうちから計画的な資産管理ができる特長がある。
また、将来、認知症などで自身の判断能力が低下した際に、預金口座や不動産などの資産凍結を防ぐ効果もあり、本人の意思に沿った柔軟な資産管理ができる仕組みである。
デジタル遺産についても、「SNSアカウントはすべて削除、ネット証券にある資産は、換金する」などといった具体的な指示にも法的な効力を持たせられるため、本人の意思をより確実に反映できる。
死後だけでなく、生前の万が一な状態に備えた、攻めの資産承継手法ともいえるが、登記を行なったり公正証書を作成したり、場合により専門家に対応を依頼したりするなどで、コストが、数十万円単位でかかるデメリットもある。
実際いくら掛かる?家族信託のコストイメージ
出典:家族信託「おやとこ」
契約書作成や登記手続きなどにかかる法務的コストや手続きを行なう司法書士などの専門家に支払う手数料が主になる。
亡くなった時の話をタブー視するのは、もう止めよう
自らの「死」についての話は、“縁起でもない”と避けられがち。しかし、あらゆる情報がデジタル化された今、沈黙は残された家族に大きな負担を強いることになる。
自らの終末について考え、備えることは、残される人への最後の「思いやり」です。もしもの時の話を、アプリやサービスを活用しながら、ご自身のこれからの人生を豊かにするための前向きな対話としてみるのはいかがだろうか。
文/久我吉史
デジタル遺品とは、デジタル機器を通さなければ確認できない遺品を指す。スマートフォンやPCなどのデバイスはもちろん、ネットショップに登録したクレジットカード情報や...