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交通系ICカードは衰退するのか?伊豆箱根鉄道の〝カードねじれ問題〟にみる「タッチ対応クレカ」の猛追

2025.06.18

交通系ICカードVSタッチ対応クレジットカード。「キャッシュレス乗車」の分野では、去年から偉大な王朝を脅かす革命が勃発している。

それはまるでフランス革命のような構図で、バスティーユ監獄陥落後は王党派と革命派、しかも革命派の中でもラファイエット侯爵が先導する立憲君主派とロベスピエール率いるジャコバン派に分かれていて、さらにジャコバン派からの分派が現れそう……といった気配である。ともかく、それまで日本のキャッシュレス乗車の頂点に君臨していた交通系ICカードが、様々な事情から絶対的権力の座が揺らぎつつあるのだ。

これは、交通系ICカードの「エリアの境目」では誰の目にも明らかな現象として露出してしまっている。

伊豆箱根鉄道の「不思議」

伊豆箱根鉄道駿豆線でタッチクレカによる乗車が開始されたのは、2024年12月18日のことである。

ちょうどこの時期、関西エリアでは私鉄事業者が一斉にタッチクレカ乗車を導入していた。テクノロジーメディアだけでなく、全国紙も躍進著しいタッチクレカについての記事を配信し始めていた頃合いでもある。これらのムーブメントは、ひとえに三井住友カードの公共交通機関向けソリューション『stera transit』によるものだ。

三井住友カードが仕掛けた伏線が、去年後半からまるでオセロのような大逆転を実現させたと言ってもいいだろう。しかし、伊豆箱根鉄道に関してはこれとは異なる意味で注目されてしまった。

同じ伊豆箱根鉄道でも、大雄山線ではタッチクレカは利用できない。しかし、交通系ICカードは利用できる。駿豆線ではタッチクレカが利用でき、交通系ICカードは利用できない。要は利用できるタッチ乗車手段が逆転しているのだ。

なぜ、そのようなねじれ状態になっているのか?

「熱海越え」問題が背景に

東京方面からJR東日本の路線を利用して伊豆箱根鉄道駿豆線に乗り換えるとしたら、必ずJR三島駅を目指さなければならない。

このJR三島駅はJR東海エリアの駅である。端的に言えば、東京方面からSuicaだけを使ってシームレスに移動することはできないということだ。これは「天城越え」ならぬ「熱海越え」の問題で、もしも熱海以東のJR東日本エリアの駅から直接JR三島駅まで行ってしまった場合、出場時の自動改札機がエラー表示を出してしまう。

もちろん、JR三島駅で清算できないというわけではないのだが、やはりシームレスではないため非常に面倒。このあたりを鑑みると、JR三島駅から乗り換えて利用する伊豆箱根鉄道駿豆線で交通系ICカードを導入するメリットは高くない……というわけだ。

交通系ICカードは「室町幕府」

「熱海越え」は、該当自治体の首長が揃って霞が関へ足を運ぶほどの問題でもある。日本はアメリカのような合衆国ではない。毎日県境や市境を跨いでいる人は特段珍しいものではない。ましてや、「熱海越え」問題は同じ静岡県の中の現象である。

しかし、これが今でも解消されていないということは、交通系ICカードにとってやはりこのあたりが欠点なのだ。

この記事でも「交通系ICカード」と便宜上書いてはいるが、そうした名前の統一されたブランドがあるというわけではない。交通系ICカードとは、言い換えれば「諸派連合」である。内情は江戸幕府、というより室町幕府のそれに似ていて、中心的存在はいるが実際は複数の有力守護大名のまとまりだ。そこには明確な領地の境目があり、どんな大名も境目の外で権限を発揮することはできない。

その上、交通系ICカードはシステム更新費用が高額ということも明らかになっている。これが資金に余裕のない地方の交通事業者には大きな負担となり、交通系ICカードの対応を中断してタッチクレカを導入するに至った……という騒動が去年実際に起きた。

タッチクレカを持てない世代

では、このまま交通系ICカードは衰退し、代わりにタッチクレカが覇権を握るのか。

さすがにそこまでには至らないだろう、というのが筆者の推測である。

タッチクレカは、大学生以下の20代や10代にとっては「敷居が高い」を大きく超えて「敷居をまたげない」もの。彼らが通学に利用するのは専ら全国交通系ICカード、或いはその地域限定の交通系ICカードのはずだ。それらの取り扱いを地元の交通事業者が断念してしまい、代わりにタッチクレカを導入……ということになったら、高校生や大学生はそれに対応できるのだろうか。

一言「キャッシュレス決済への対応が難しい世代」と言った場合、それは暗に高齢者を指すと思われていた。しかし、高齢者の場合は単純に「最先端システムの扱いが苦手」ということのみであり、クレカやデビットカードを所有できるだけの所得はちゃんとある。一方、10代の少年少女はそうではない。審査不要のデビットカードも、結局は定期的な収入がある人に向けた金融サービスである。

そうしたこともあるから、地方の交通事業者は大いに頭を抱えている。

この話は単に「交通系ICカードVSタッチクレカの覇権争い」に留まらず、まさに我々の暮らしを大きく左右する問題であることを今一度認識しなければならない。

【参考・画像】
伊豆箱根鉄道「駿豆線」全駅で、クレジットカードやデビットカード等のタッチ決済による乗車を12月18日(水)に開始します-PR TIMES

文/澤田真一

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